西田宗千佳のイマトミライ

第141回

深夜の地震で考えた「災害とモバイル・インターネット」

3月16日23時36分、福島県沖・深さ 60kmの地点で、マグニチュード7.3の地震が発生し、震源に近い宮城県・福島県では最大震度6強を観測した。

深夜であったこと、地震の規模が大きなものであったことから、筆者の住む東京でもいろいろな混乱があった。同時に広い地域で停電が起きたことも、不安を助長する一因になっただろう。

東日本大震災が起きた3月11日から日を置かずに起きた地震でもあり、ネットには「防災」についての記事も見られた。今回は改めて、「ネットと防災」について考えてみたいと思う。

地震や災害に備えよう。アプリや備蓄などいまできること

「防災のインフラ」となったスマホとSNS

深夜の地震には、筆者も強い不安を覚えた。

ただ11年前、2011年3月11日と違うと思ったのは、報道もネットでの情報の出方も変わった、という点だ。

2011年も、SNSは一つの情報インフラとして機能していた。その様子は、震災発生から24時間のデータをアーカイブした「東日本大震災ツイートマッピング」をみるとよくわかる。記憶以上に、多くの人が「今じぶんが置かれている状況」をシェアし、そのことが重要な情報源になっていたのだ。

「東日本大震災ツイートマッピング」。2011年3月11日、震災から24時間のツイートのうち、位置情報のついたものをアーカイブして地図上にマッピングしたもの。資料的価値が非常に高い

東日本大震災ツイートマッピング

あの時もTwitterは落ちずになんとかインフラとして機能していたが、今はさらに落ちづらくなった。そして、行政から災害情報提供機関、インフラ事業者に至るまで、多数の企業が即座に情報を公開するようになっている。かなりの部分が自動化され、緊急時の人力による特別な情報とともに活用されている。

多くの人が利用している「特務機関NERV」のアカウントの、3月16日地震発生直後のツイート群。震災以降、災害対策インフラの1つになった感がある。
東京電力管内のインフラ状況を伝える「東京電力パワーグリッド」の公式アカウント。3月16日深夜も、停電の中最新情報が伝えられていた。

地震が起きるとみんなSNSに顔を出す、と笑い話のように語られるが、地震だけでなく大雨や台風など、多数の自然災害を経て得られた我々の経験として、「テレビとSNSがリアルタイムで情報を伝えてくれる」と認識された結果だとは思う。

回線維持は事業者の努力にかかっている

一方で、大規模な停電が落ちても、携帯電話のネットワークが落ちないからこそ、SNSが災害時のインフラであり得る部分がある。ここは、日本の携帯電話事業者の努力にかかっている。

宮城県で震度6強、携帯各社のサービスへの影響は

携帯電話基地局には、バッテリーなどの予備電源の設置が義務付けられており、24時間分のバックアップが可能なところもある。ただし、すべての基地局がバッテリーでバックアップされているわけではなく、市町村役場を中心とした拠点となる地域に限られる。そこに、衛星などを使った移動基地局車を組み合わせ、万が一に備える形を目指している。

NTTドコモの資料より。市町村役場などに設置された地域の中枢となる基地局は、24時間のバッテリー、もしくは発電機による無停電化で守られている

成層圏を飛行する高高度プラットフォーム「HAPS(High Altitude Platform Station)」や低軌道衛星(LEO)網の導入が検討されているのも、山岳部などのエリア化効率を上げる方策であるのと同時に、地上での災害に影響されづらい基地局の確保手段として、という側面もある。

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KDDIとKDDI総研、災害時のヘリコプター基地局の実証実験に成功

成層圏から通信を提供、ソフトバンクが基地局になる航空機を開発

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災害時の「予備回線」をどう考えるか

災害時のインフラとしての携帯電話網を考えるとき、あと2つ要素がある。

通信量と「予備回線」だ。

スマホの通信がライフラインとなり、いつも以上に通信を使ってしまう可能性もあるが、誰もが大容量プラン・使い放題プランに加入しているわけではない。

しかし、大手携帯電話事業者は災害時、一時的にデータ量の上限を無くす支援策を行なう場合が多い。例えばNTTドコモの場合には、「災害時データ無制限モード」として制度化している。

MVNOの場合、コストの関係もあって同じ対策を期待するのは難しい場合もあるのだが、データ量上限の緩和や追加などを行なう場合はある。

一方で、どれだけデータ量が余っていても、回線そのものが落ちてしまってはどうしようもない。回避策の一つとしては、「違う回線を予備として契約しておく」という手段がある。例えばNTTドコモとauをそれぞれ契約しておく、というパターンだ。別にMVNOでもいいのだが、その場合には、回線提供事業者が被らないように気をつける必要がある。メインがNTTドコモでサブが「NTTドコモから回線を借りているMVNO」では、予備回線の意味はない。

そういった中で、今回面白いことが起きた。KDDIのサブブランドである「povo2.0」が、地震発生直後から、「24時間使い放題になるプロモーションコード」を配布したのだ。

povo2.0で24時間データ使い放題のコード

povo2.0の利用者であれば、配布されたコードを入力することで、決められた時間まで通信を自由に使うことができた。これは、大手メイン回線での災害時支援と同じ方法論と言える。

povo2.0の場合、自分でデータ量や「24時間使い放題」などをトッピングのように追加できることが特徴。だから、こういうやり方で迅速な支援が行なえるわけだ。なかなかうまいやり方と言える。

そのため「povo 2.0をeSIMでサブとして契約し、ゼロ円で維持すれば予備回線になるのではないか」という意見も聞かれた。SIMカードをその時だけ入れ替える、というのは大変だが、eSIMをサブ回線として追加しておくのはアリだろう。

ちょうど、eSIMと5Gが使える「iPhone SE」の第3世代も発売されたところだ。いきなりかなりの安値(実質1円、という売り方もあるようだ)で売られているようで、eSIMが使えない端末を持っている人には、買い替え時かもしれない。

57800円からの第3世代iPhone SE、その実力は!?

一方、筆者はこうも思う。

povo2.0とはいえ、実際に「ゼロ円で契約を維持する」のは面倒だ。KDDIによれば、「180日間以上、通話発信やSMS送信を利用しない、またはトッピングを購入しない場合には、利用停止や契約解除になる場合がある」という。180日に1回は有料でサービスを使う必要があるわけだが、まあ、それも当然である。

だとするならば、eSIMの価値を活かし、「通信量で収益を確保しないサービス」もあっていいのではないか、と思う。

例えば地震保険・火災保険などに、「災害時向け予備回線提供サービス」としてeSIMを提供、有事には一定時間無制限で通信・通話を解放する……、というパターンだ。収益はあくまで保険の側から得て、回線は契約者への利便性追求、という形である。

本来eSIMになるということ、MVNOで通信サービスが提供できるということは、「自由度の高いサービス構築を許す」ということでもある。

もちろん、技術・制度的に色々難題はあるだろうが、通信サービスはもっと柔軟な形があってもいいのではないだろうか。

そしてそれが、生活のインフラになる、ということではないか、とも思うのだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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