西田宗千佳のイマトミライ
第100回
春のケータイ値下げ合戦の影響。5G時代に変わる収益構造
2021年5月17日 08:20
NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク・楽天と、主要携帯電話事業者の決算が出揃った。
この春に「20GBプラン」を軸にした値下げがあり、それらは経営にどのような影響があったのだろうか? そして、携帯電話事業者のビジネスはどのような方向に向かい始めているのだろうか?
「値下げ合戦」、各社の影響はどうだったのか
まずは、値下げを最初に切り出したNTTドコモから見ていこう。3月末にスタートしたahamoは4月末時点で契約者数が100万を超えた。うち30代以下の割合は50%で超という。
NTTドコモがahamoを導入したきっかけは色々経緯があるが、ドコモとして核にあったのは「他社への転出が増え続ける流れを止めたい」というところだ。今回それは果たされ、MNPはマイナス(転出)からプラス(転入)へと切り替わった。最終的な結論を出すのは早いと思うが、少なくとも緒戦については、NTTドコモ(ひいてはNTT全体)の狙いは当たった、と考えていいだろう。
20年度のドコモは増収増益、今期末にも5G契約者数1000万を目指す
とはいえ、他が単に不調、というわけではない。いわゆる「20GBクラスプラン」については、KDDIの「povo」も100万契約が見えてきた状況と説明されているし、ソフトバンクも「(低価格中心の)ワイモバイルが好調」としている。全体的な携帯電話契約がミドルから低価格プランを軸に再編され、顧客が流動した……という風に考えられる。
ただ結果として、通信サービス自体の顧客単価(ARPU)は下がる傾向にあり、通信事業には減収の形で影響が出る。
NTTドコモの通信事業は167億円のマイナス、ARPUは2020年度の4,280円から、2021年度は4,250円へと下がると予想されている。KDDIもARPUが「4,400円から4,200円に下がる。値下げにより600~700億円の還元になると見ている」(KDDI・高橋誠代表取締役社長)とコメントした。ソフトバンクも、個人向け通信料収益を軸にした「コンシューマ事業」では、2021年度の営業利益を前年度比で166億円減となる、と予想している。
決済・ポイント経済圏との複合事業で通信収入落ち込みをカバー
「価格」という面で、新規参入であり大手を迎え撃つ立場となっている楽天は、まだまだモバイル事業で収益を出せる段階にはない。しかし、楽天の三木谷浩史・代表取締役会長兼社長は、「モバイル事業は十分に利益が出る」と主張している。仮想化したネットワーク構造の持つ高収益性や、楽天の金融・ECサービスなどとのシナジーに強い自信を持っているからだ。
楽天モバイルは「楽天グループにとっての新規顧客獲得」にも有効で、楽天モバイル顧客の20%が、楽天グループにとっての新規登録者であることも明かされている。
スマートフォンそのものが生活インフラの一部であり、様々な活動がそこで行なわれることを前提とするならば、支払いやポイントプログラム連携は当然重要な要素になる。
NTTドコモの決算においても、決済などを担当する「スマートライフ事業」は大幅な増収・増益となっている。三菱UFJ銀行と業務提携も発表されたが、もちろんこうした流れの中にあるものだ。
ソフトバンクでも、PayPay事業は順調にユーザーを伸ばしている。ユーザー数は3,900万人を突破し、年間取引決済高も、2020年度で「年間3.2兆円」となった。黒字化はこれからだが、「いずれはIPOしたい」とソフトバンク・宮川潤一社長もコメントしており、同グループ内での「優良事業」と強くアピールされた。
PayPay、GMVは年間3.2兆円。新事業創出を目指すソフトバンク
通信事業は今後も重要だが、単価が上がり続けることはない。今回の値下げにより、「5Gによる単価上昇」フェーズは一旦ブレーキが踏まれ、通信事業は「いかに総体でのコストをコントロールし、顧客基盤が安定的な事業とするか」が重要となってきた。
その上で、収益は決済などで伸ばし、通信費+決済、といった複合的な業態としての事業拡大が必須となる。
携帯電話事業者の成長を支える「5G時代の法人事業」
個人向けが複合的な収益を目指す一方で、5G時代に向けて各社が期待するのが「法人事業」だ。
法人事業については各社業態が多少異なるので、並列に語るのが難しい部分がある。だが、法人向け回線およびソリューション事業の伸びしろが大きいことは共通認識と言える。
2020年度に関しては、特にソフトバンクが、コロナ禍でのリモートワーク需要などが収益に反映され、営業利益で前年比29%もの大幅増益(1,077億円)になったが、2021年度以降、5Gを軸にしたソリューション展開に期待しているのは、ソフトバンクだけに限らない。
5Gでは既存の個人回線以上に、データ通信を軸とした企業向けソリューションの拡大が期待されている。各種監視業務やスマートファクトリー、自動運転関連など、スマートフォンの中に限らない通信領域の方が可能性は広い。
NTTドコモはdアカウントの「ビジネス版」を用意して企業のデジタルトランスフォーメーション支援を行なう、としている。こうした流れも、いかに法人事業を多角化するか、という発想からのものだと理解している。
KDDIも、IoTなどを含む企業関連事業を「NEXTコア事業」と位置付けている。ビジネス領域の収益を全体の3割にするとしており、通信回線+ソリューションによる収益が拡大していく事になる。
KDDIの21年3月期決算は増収増益、通信収入減も成長領域伸びる
今年以降、各社の法人事業でどう生活を変えるビジネスが生まれるのかにも注目していただきたい。