西田宗千佳のイマトミライ

第93回

OCNモバイルONE・新料金に見える「NTT再編」と「文春砲」

3月25日、NTTコミュニケーションズは、同社が運営するMVNOサービス「OCN モバイル ONE」における、4月1日以降の新料金プランを発表した。

OCN モバイル ONE、1GB770円~の新料金プランを発表

音声通話付き・月のデータ利用量1GBまでで770円、というなかなか競争力のあるプランだ。

だが、このプランについてはいろいろ紆余曲折がある。元々は3月10日に発表会が予定されていたのだが、結果として発表会は開催されず、ウェブサイトで情報が公開されたのみ。そうした発表になったのには理由もある。

今回は、その辺の事情を考えてみよう。

ドコモの「エコノミー施策」はOCNモバイルONE連携だった?

現在の携帯電話をめぐる料金競争は、菅総理・武田総務大臣をはじめとした、政府側から大手携帯電話事業者に対する値下げ圧力から生まれている。

ahamo・povo・LINEMOスタート。20GB/2980円時代の料金プラン

その是非はともかくとして、MVNOも対抗上価格を下げざるを得ない。そのため、今年に入ってから、特に大手MVNOは次々と、値下げを軸にしたプラン改定を行なっている。

そんな中、最後まで残ったのが、最大手グループの1角である「OCN モバイル ONE」、ということになる。

前述のように、本来同社の発表会は3月10日に予定されていた。それが「諸般の事情」として延期になり、発表会ではなくウェブでのリリース発表となった。

なぜそうなったのか? そのことを理解するには、2020年12月に行なわれた、NTTドコモによるahamoの発表会まで遡る必要がある。

ドコモ、月額2980円で20GBの新料金プラン「ahamo」(20年12月3日)

ahamoは中容量でコストパフォーマンスに特化した料金プランだ。NTTドコモはこれまで、低価格・小容量プランと大容量プランを提供していたので、その間を埋めるような存在、といっていい。

ではここで、発表会で示されたプレゼン資料を見てみよう。

NTTドコモが示した枠は「3つ」あった。NTTドコモが提供するのは左の2つである。なのに、右側には一つ別の枠がある。

2020年12月3日の、ahamo発表会見より。NTTドコモの井伊基之社長は、料金施策をドコモの領域+エコノミー、と表現した

NTTドコモの井伊基之社長は、「一番右の『Economy』については、MVNO各社と連携を図りながら展開していく」としていた。過去、NTTドコモの小容量プランはMVNOとも競合しつつ、若干価格が高い、という位置付けだったのだが、ここにきてそこで直接競合をせずに、低容量でさらに安い部分についてはMVNOに譲る考え方を示したわけだ。

ただ、ここでいう「MVNO」がすべてのMVNOを指している、と考えるのはシンプルすぎる。もちろんNTTドコモ、いやNTTグループ的には、明確に1社を想定したコメントと考えるのが筋だ。

その1社こそ、NTTコミュニケーションズであり、彼らの提供するOCNモバイルONEである。

NTT再編で変わる「ドコモとNTTコムの関係」

従来、NTTドコモとNTTコミュニケーションズの連携は、必ずしも密接なものではなかった。NTTコミュニケーションズは日本のネットインフラを担当する巨大企業で、同じNTTグループに属してはいるものの、独立独歩の気風が強い……というか、歴史的にはNTTグループのはみ出しものが作ってきた部分があるNTTドコモとは、多少の距離があったのが実情である。

だが、そうした話は2020年になって大きく変わる。NTT本社により、NTTドコモの完全子会社化が行なわれたためだ。

NTT、ドコモを約4.3兆円で完全子会社化。料金値下げも検討

この結果NTTグループは再編され、NTTコミュニケーションズとNTTコムウェアはNTTドコモへと移管することになった。NTTコミュニケーションズのMVNO事業をはじめとした個人向けサービスは、NTTレゾナントへ移管し、続けられることになっている。NTTレゾナントはNTTコミュニケーションズの子会社で、再編後には、実質的にNTTドコモの傘下となる。

NTTドコモはすでにNTTの完全子会社になっているが、NTTコミュニケーションズなどの再編は、2021年夏に予定されている。

従来、NTTドコモはKDDI・ソフトバンクとは違い、子会社を活用したいわゆる「サブブランド」戦略をとってこなかった。しかし、これらの「NTT再編」が終わると、NTTドコモは、これまで持たなかった「MVNOをベースとした別ブランド」を、子会社のものとはいえ、持てる事になる。

その目線で見れば、「MVNOと連携した低容量・低価格プラン」というのは、主にOCNモバイルONEを想定したものであり、それも結局はNTTグループとして再編され、連携が進んだ形でのあり方……というイメージが浮かぶ。

NTT再編に影響を与える「文春砲」

だが、そこにいきなり暗雲が立ち込めた。先日週刊文春で報道されて以降、問題となっている「NTTによる総務省への接待疑惑」だ。

こうしたNTT再編の動きは、NTTの澤田純社長が自ら音頭をとって推進している。問題の軸にNTTがいて、そこにはNTT再編やNTTドコモの料金プラン対応などが絡んでいる。

そうすると、NTTコミュニケーションズも大々的に発表をするわけにもいかなかったのでは……と感じるのだ。

NTTコミュニケーションズは、今回の値下げがNTTグループ再編を前提にしたもの、という見方を公式には否定している。その言葉に従うなら、前述のような見たては「うがった見方」という事になるかもしれない。

ただ、以前のNTTドコモによる発表の仕方や料金の棲み分けかたなどを考えると、どうしても補完的に見えてしまうのは事実だろう。

特に今回の料金変更では、OCNモバイルONEに存在した「20GB・30GBプラン」が廃止されている。ahamoなどとかぶる部分が強く、価格的にも対抗しづらいからだろう。

また、4月7日以降、OCNモバイルONEのかけ放題型電話サービス「OCNでんわ」の利用で、アプリが不要になるのも大きい。

MVNOによるこの種のサービスでは、電話番号の前に「プレフィックス」と呼ばれる、「OOXY」形式の付加番号をつけて発信する形になっている。アプリを使っていたのはそれを端末側で自動化するためだった。

だが今後は、OCNモバイルONEが借りているNTTドコモ回線側でプレフィックスを自動付与することで、アプリを使わずに同じことを実現する。利用者から見れば、NTTドコモなどのMNOがやっているかけ放題プランと同じ使い勝手に見えるわけだ。

この実現も、「MNOであるNTTドコモのプランを補完するもの」と考えると、必要なものと言えるだろう。なぜなら、直接のライバルであるKDDIの「UQモバイル」やソフトバンクの「ワイモバイル」はプレフィックスもアプリも不要なかけ放題を実現しているからだ。もちろん、IP電話でもない。

さらに本来、NTTドコモは「MVNOと連携しての低価格対応」向けには、新たな施策を準備中で、それはポイントサービス連携だった……と噂されている。だとすると、そこで連携するOCNモバイルONEはさらに「サブブランド」対抗っぽくなる。

この辺は、総務省接待疑惑だけでなく、ahamoの準備も含め、NTTドコモ側があまりに負荷が高く、対応が遅れていることも関係していそうではある。

NTT再編や低価格プランの存在について、政府・総務省とNTTの側で、どれだけの話が行なわれたのか、正確なところはわからない。接待そのものは事実だが、その影響を明確にできる状態ではないし、良し悪しを云々するのはさらに時期尚早かと思う。

だが、一連の騒動が、NTTグループ再編と携帯電話料金プランに「影響を与えている」のはおそらく間違いない。それが長引いて再編の見直しとなるのか、それとも短期的な影響に止まるのか。個人的にはそうした部分が気になっている。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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