西田宗千佳のイマトミライ

第90回

ヤフー×LINE統合は「GAFA対抗」ではない。新生ZHDが変えること

ZHD川邊健太郎Co-CEO(左)と出澤剛Co-CEO(右)

3月1日から、Yahoo! Japanなどを傘下に抱えるZホールディングスはLINEとの経営統合を完了し、「新生Zホールディングス」としてスタートした。国内総利用者数3億人以上という巨大IT企業の誕生だけに、メディアからの注目度も高かった

一方、どうもその取り上げられ方には疑問も残る。Zホールディングスの狙いとはズレた部分もあるように思うからだ。今回は、発表会にも参加した筆者の目から見た、新生Zホールディングスの狙いを考えてみよう。

「GAFA対抗」に注目しすぎると見落とすZホールディングスの狙い

Zホールディングスは「日本・アジアから世界をリードするテックカンパニーを目指す」としている。そんなこともあってか、発表会での記者からの質疑応答でも、発表後のメディア報道でも、「世界の大規模IT企業、GAFAなどと戦えるのか」という質問が多かった。

Zホールディングスは「日本・アジアから世界をリードするテックカンパニーを目指す」と宣言

だが、冒頭の「日本・アジアから世界をリードするテックカンパニーを目指す」という言葉とは裏腹に、今回の発表会では、「GAFAと対抗」という直接的な表現は、川邊健太郎氏と出澤剛氏、2人のCo-CEOの口からほとんど発せられていない。2019年11月、ヤフー×LINE経営統合が正式に発表された会見では「グローバルテックジャイアントへの対抗」が明確に宣言されたのとは、少し違う印象を持つ。

これはどういうことなのか?

筆者はこのメッセージの変化を前向きに感じた。よりビジョンが具体的になった、と思えるからだ。

Zホールディングスが狙う領域は主に四つの「集中領域」とされる。「コマース」「ローカル・バーティカル」「Fintech」「社会」だ。

簡単にいえば、どれも日本が抱える課題のテクノジーによる解決のビジネス化だ。世界的プラットフォーム、というわけではない。

「コマース」「ローカル・バーティカル」「Fintech」「社会」を集中領域に

以前からそれはわかっていたことだ。現実問題として、GAFAとストレートに対抗し、世界プラットフォームを作るのは無理筋だ。事業規模でも従業員規模でもそれは難しい。

筆者はそもそも、「GAFA」という言葉が好きではない。グーグル・アップル・Facebook・アマゾンの4社は「大きいIT企業」という点くらいしか共通項がなく、ビジネス的にはまったくバラバラ。対抗するとしても、具体的にどの領域でどう対抗するのか。

Zホールディングスは、海外プラットフォーマー対策という言葉を、以前は「研究開発能力やプラットフォーム開発能力」という意味合いで使っていた。だが、今回はより明確にした。

それは「日本国内で必要とされている課題解決に、海外プラットフォーマーより早く、求められる手段で対応する」ということだ。

それは言い直すならば、「国内ビジネスでの確実な成長」という言い方もできる。海外の巨大なプラットフォーマーに、海外市場で戦おう、という意味ではない。

ヤフーにしろLINEにしろ、そのサービス基盤は日本のもので、日本でのニーズを中心にしている。そこで、一体になることでテクノロジーや規模を拡大し、「海外から入ってくる大手」に対する対策は強化するものの、外に出ていくことを最大の方針とはしていない。日本やアジアなど、もともとZホールディングスが地盤を持つところから「結果的に広がる」ことは目標とするが、「世界での第五のIT大手」を目指すわけではない。

それなら、「GAFAが」というフレーズを発表会で使う必要も、確かにない。

ヤフーやLINE、PayPayという国内で強いサービスをテコにビジネスを拡大する

社会のデジタル・トランスフォーメーション「ビジネス化」で成長

では、Zホールディングスが狙う領域で注目すべきところはどこか?

筆者は特に「ショッピング」と「行政」だと思っている。

ショッピングで彼らが狙うのは、簡単にいえば「楽天やアマゾンにならび、勝つこと」だ。ヤフーはECサイトとしての価値向上をずっと進めてきた。LINEと一つになることで、LINEのソーシャルグラフを活用したショッピングサービスを広げ、そこに活路を見い出す。

LINEと連携する「ソーシャルコマース」をECビジネス成長の武器に

ただ、それはテクノロジー的に目立つ領域。そうでない領域としては、店舗のEC化を促進・改善するためのシステム領域でのソリューション展開を拡大する。これによってECサービス面でのパートナー店舗を増やし、立ち位置を変えたい、ということなのだろう。これは別の言い方をするならば、「店舗・流通のデジタル・トランスフォーメーション支援」によってECサービスの強化を図る、ということだ。

店舗のデジタル・トランスフォーメーション支援を大きなビジネスの柱に据える

大手流通やチェーン店はすでにECとの連携を行なっているが、そうでない店舗は遅れている。また、大手にしても、バラバラにEC化を進めると使い勝手もバラバラになり、消費者にとってはプラスとは言い難い。そうした部分の改善こそ、「店舗・流通のデジタル・トランスフォーメーション支援」そのものだ。

同様に、行政についても「デジタル・トランスフォーメーション」を狙う。手続きの簡素化やワンストップ化などは必要だが、そのためのフロントエンドとしては、LINEが今も使われている。行政としても、広く普及したサービスに対してサービスを提供するのが、最もシンプルで使われやすいやり方、というところだろう。

Zホールディングスとしては、LINEを入り口にしつつ、様々な手法で行政関連サービスや住民に対する情報提供などを担当、そのエリアでのサービスのモダン化を推進する。これもまた、日本が他国に遅れていると言われる部分で、ビジネスパイは大きい。

行政のデジタル・トランスフォーメーション支援も、Zホールディングスの狙う大きな領域だ

どちらも先進的な発想ではなく、どちらかといえば「キャッチアップ」だ。大手ITプラットフォーマーと対抗……という言葉には似つかわしくない。時代をリードするサービス、ともいえないだろう。

だが、そこには確実なビジネス価値がある。また、大手プラットフォーマーといえど、そうした領域の全てを、全ての国で手にしてはいない。むしろ、まだ彼らが手がけていない領域の方がずっと多いのが実情だ。

冒頭で述べたよう、ヤフーとLINEは日本で広く使われているサービスであり、ユーザーの支持を得ている、とも言える。そこを活用して日本という地域に密着したサービスを作ることで差別化するのが狙いなのだ。

その時に重要なのは、「いかに使いやすいものを作るか」「いかに支持されるものを作るか」ということだろう。2社が1つになることは、消費者が望んだものではない。結果として消費者が望まない形のサービスが産まれたなら、過去の支持の価値も減っていく。

スーパーアプリのように多機能で規模の大きな存在が注目されているが、これもあくまで事業者目線でのもので、消費者が求めたものではない。使いやすければ消費者は使い続けるが、そうでなければ特定の機能しか使われないだろう。今のLINEやPayPayには、そうした傾向がもうある。

発表会で二人のCo-CEOは、「ユーザーにとって意味ある統合」という言葉を最初に使った。彼らはもちろん、使われるものでないと価値が出ない、ということを理解しているからこう言ったのだろう。これをお題目でなくどこまで、社会のデジタル・トランスフォーメーションの中で実現できるかが、Zホールディングスが成長できるかどうかを左右する。

「ユーザーにとって意味ある統合」をどこまで本気で行えるかが、両社の重要な課題だ
西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41