西田宗千佳のイマトミライ
第84回
ゲームがPCとディスプレイを牽引する? CES直前 2021年のトレンド
2021年1月11日 08:45
テクノロジーの大規模展示会「CES」が、今年も1月11日(アメリカ東部時間)から始まる。例年とは異なりオンライン開催となり、筆者も渡米することなく、日本から取材する。
今年のCESはオンラインでの開催によってフォーカスすべき場所が見えづらくなっている。さらに、スタートアップを集めた「CES Unveiled」がなく、珍しい掘り出し物を事前に見つけるのも難しくなった。正直困惑している部分はある。この記事が公開される11日夜(日本時間)からはプレス向けブリーフィングが本格的に始まるが、例年以上に積極的な姿勢で臨まないと情報が得づらいだろう……と考えている。
他方で、例年より活発な部分もある。CES前から製品発表が増えているのだ。どれもあくまで「アメリカ市場向け発表」だが、それを少しまとめてみよう。ちょっとした方向性が見えてくるのではないだろうか。
先行するレノボの「新PC発表」
例年、CESの時期に「CESの動きから少し離れたところ」で製品展開を行なうのがPC業界だ。会期前発表という点でも、PC関連が目立つ。
メーカーの中ではレノボ/NEC PCが前もって発表を行なっており、目立つ。他社は今後の発表となる。
Lenovo、液晶がピボットできる27型一体型。Ryzen 7+RTX 2060搭載
Lenovo、20時間駆動の5G対応ノート「IdeaPad 5G」
レノボブランドでの製品も面白そうだが、やはり日本で特に注目されたのは、NEC PCが「試作」として発表した「LAVIE MINI」だろう。
NEC PCが8型2in1「LAVIE MINI」投入、第11世代Coreでゲームも
昔は日本でも様々なミニPCが出たものだが、市場性の小ささや国内PCメーカーの体力が小さくなったこともあり、近年はスタートアップ的な中国系メーカーの存在感が強かった。そこで久々にNEC PCが尖ったものを発表したことは、やはりうれしいものだ。
こういう製品が生まれる背景にあるのは、「ゲーム」という用途に注目度が集まっていることがある。そして、インテルの第11世代Core iシリーズでGPUが強化され、「それなりにゲームができるPC」を、NVIDIAやAMDの外付け型GPUを搭載することなく実現できるようになってきたからだ。最新のAAAゲームは厳しいが、少し前のゲームなら設定を変えればプレイできるものがあるし、グラフィックへの依存度が低いインディ系ゲームも大丈夫だ。
「なんとなく小さいPC」ではなく、ゲームを軸にしたコンパクトなPC、という流れが固まっている中に、それを実現するプラットフォームが揃ってきたことがポイント、ということだ。
ただ、この点は注意が必要なのだが、「LAVIE MINI」は製品化が決まったわけではなく、試作機が公表された状態。実際の製品化は今後の反響で正式に決まる。
また、仮に発売されるとしても、「LAVIE MINI」はあくまでPCなので、ゲーム機のような価格ではなく、一般的なノートPCに近い価格にはなってしまうだろう。その点も含め、「反響を見ている」のだろう。
コロナ禍でコンパクトなPCのニーズには逆風が吹いているが、製品化に到達することを願っている。
ディスプレイに見える「ゲーム」「液晶高画質化」の流れ
もう一つ、動きとして見えてきたのは「ディスプレイの変化」だ。
といっても、高画質系の主軸が有機ELであることに変わりはない。ミドルクラス向けの液晶と、PC向けのディスプレイに変化が見え始めている。
PC向けでは、先ほど述べたように「ゲーム向け」のニーズが高まっている。これはここ数年の傾向だが、PlayStation 5やXbox Series Xが登場したこともあり、「HDMI 2.1対応」だったり、高フレームレート対応だったりする製品が重要になってきた。低価格製品だけでなく、特別なハイエンド製品が成立するようになってきたのも、PC関連ニーズの拡大を示している。LGの「折り曲げ可能・48インチ有機EL」は、完全にゲームを狙ったものだ。
LG、世界初の画面から音が出る折り曲げ可能OLEDディスプレイ
液晶については、素材の工夫によって発色を改善した「量子ドット技術」を使ったものと、バックライトを従来以上に小さなLEDのアレイで構成する「ミニ LED」がポイント。これも別に今年生まれたものではないのだが、2021年は採用の幅が広がっている。
サムスンは特に、量子ドット技術を「QLED」として以前よりアピールしているが、これは、同社がテレビにおいて有機ELパネルの開発競争に負け、高画質モデルを液晶で作る必要があるから、という部分がある。
サムスン、量子ドット+ミニLED搭載テレビ「Neo QLED」。海外発表
日本では同社はテレビを販売しておらず、あまりピンと来ないかもしれないが、PCなどにも量子ドット技術を使う流れがあり、その点は注目しておいてもいいだろう。
Samsung、世界初の量子ドットディスプレイ採用Chromebook 2in1
液晶テレビにおける「バックライトの高精細化」は、いわゆるミニLEDとして広がっており、アップル製品などへの採用の噂も出ている。消費電力ではマイナスだが、PC・タブレットの画質アップに使われる可能性はあるだろう。既存のテレビについても、液晶モデルの高画質化には確実にプラスだ。
ソニーが「立体での音楽体験」を無料で提供へ
最後に、「ちょっと用意しておくと面白い話」をしておきたい。
1月12日朝7時から、ソニーはCESに合わせたプレスカンファレンスを開く。その発表内容はわからないが、一つだけ公開されているのが、音楽向け立体音響技術である「360 Reality Audio」について言及がある、ということだ。すでに内容は公開されている。
ソニーの立体音響「360 Reality Audio」対応ハード拡大へ
この技術は、スピーカーやヘッドフォンを使い、立体的に色々な場所から音が流れる様を実現するものなのだが、ポイントは「普通のヘッドフォンでも体験できる」ことにある。
海外ではすでに対応サービスがあるのだが、日本ではまだの状況。しかし、無料でその価値を試せるようになる。
1月12日の発表からオンラインで開催予定の「CES 2021」に合わせ、360 Reality Audio対応ビデオコンテンツとして、ザラ・ラーソンによるパフォーマンスが、楽曲配信アプリ「Artist Connection」を介して配信される。このコンテンツは日本国内でも視聴体験が可能で、アプリのダウンロードも無料。AndroidとiOSに対応し、すべてのヘッドフォンで楽しめる。アプリは以下のサイトからダウンロード可能だ。
・CES 2021 360 Reality Audio
https://square.sony.com/ja/ces2021/360RA
ただし、ソニーのワイヤレスヘッドフォンと同社のアプリ「Sony | Headphones Connect」を使うと、カメラで耳の形を認識し、そこから「より最適化された形」で聞くことが可能になる。1月8日頃から、同アプリの利用者に「360 Reality Audioの無料トライアルデモ」についての通知が出始めているが、これは上記のライブ配信についてのものだ。アプリを最新版にアップデートしていれば、「耳の形を認識しての最適化」はすでに行えるようになっていて、その過程で、360 Reality Audioの効果を少しだけ体験できる。
ソニーのヘッドフォンの所有の有無にかかわらず無料なので、12日以降、試してみることをおすすめする。「立体での音楽体験」という、今起こりつつある変化を体験できる、絶好の機会であるからだ。
こういうことが「現地に行かなくても広く楽しめる」のは、イベントオンライン化の、一つの恩恵であると言えるかもしれない。