西田宗千佳のイマトミライ

第55回

PS5が目指すゲームの姿と可能性。PS5発表イベントで見えてきたもの

PlayStation 5

6月12日早朝、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、次世代ゲーム機「PlayStation 5(PS5)」に関する映像イベントを開催し、PS5専用のゲームタイトルとPS5のデザインを発表した。

「プレイステーション 5」本体公開。UHD BD省いた「Digital Edition」も

「PS5」にて発売されるタイトルのトレーラー映像を一挙にまとめて紹介!

今回は、その話を少し解説してみよう。

どんなゲームが発表されたのか、シンプルなデザインの話などはすでに記事が出ている。だからあえて「発表からはわかりにくかったこと」「発表ではまだ語られなかったこと」を検証・予想していきたい。

PS5はなぜ「大きくなった」のか

まずやはり、ハードのデザインの話から入ろう。今回、ハードウェアの形状は語られたものの、サイズや価格、インターフェースの仕様などは発表されていない。

しかし、写真からはいくつもの情報が読み取れる。

もっとも大きな課題は、PS5は過去のハードウェアに比べると、ずいぶん大柄なものになりそうだ、ということだ。ディスクメディアとしてはUltra HD Blu-ray(UHD BD)が採用されることが発表されているので、ディスクドライブのスリットのサイズはメディアの大きさで決まっている。

そこから比率を目算すると、たしかにPS4はもちろん、かなり大柄だった発売当初のPS3よりも大きい。サイズをすでに公表している「Xbox Series X」よりも大きくなる、と考えられる。これはたしかに、消費者にとってはプラスの情報ではない。

なぜボディが大きくなるのか? 理由はおそらく放熱のためだ。

PS5では、PS4世代よりもさらにパワフルなプロセッサーが使われる。PCでいえば、大柄なデスクトップ型ゲーミングPCに匹敵するものだ。PS5のプロセッサーは、CPU的にもGPU的にも、最新の世代になる。

PS4世代の時には、GPUはともかくCPUは当時の水準でいってもそこまで高性能ではなく、「消費電力と性能のバランスが取れたもの」というレベルだった。そう考えると、PS4が登場した2013年からの7年での省電力性能の向上を加味しても、プロセッサーが必要とする消費電力や冷却性能もより高くなるのは間違いない。

とはいえ、コストや消費電力の規模的に「PS4登場時からかけ離れた存在」にはできないと想定されるので、消費電力・発熱が5倍・10倍になるとは考えづらい。特に欧州市場は「家電」として売られるゲーム機の環境対策には厳しく、消費電力を下げる努力が行なわれるのは間違いない。

さらに、PS5ではストレージが「SSD」になる。フラッシュメモリーを使うSSDは、やはり効率的に冷却されることが望ましい。しかもPS5では高速なSSDを使うので、発熱が大きくなる可能性は高い。

トータルでの発熱量が大きくなるのは避けられず、PS5というハードウェアにとっては、効率の良い放熱は重要なテーマとなる。

おそらくかなり工夫した構造になるとは予想されるが、大型のファンをゆっくり回して大きな風量を生み出し、本体内の熱を効率的に逃す、という点が基本となるのは間違いない。

1点考慮すべき点があるとすれば、PS4とPS5では、プロセッサーの「電力利用の考え方」がかなり違う、ということだ。

PS4の時は、負荷に応じて消費電力と発熱が大きく変わった。PCに近いスタイルと言っていい。PCはその特性上、高い処理能力を必要とする時間は短く、CPUに与える電力をドラスティックに変えることで、トータルでの消費電力を下げている。しかしゲームでは、「ゲームをプレイしている間は負荷が高い」ことが多い。性能が必要なタイミングなのに、CPUクロックや動作電圧が下がっているとリスクがあるので、結局はフルパワーでプロセッサーが動き続ける。PS4は負荷が小さい時にはファンの音が小さいものの、高負荷になるとファンの回転音が目立ちやすかった。

PS5では、消費電力と処理能力を一定にコントロールし、ゲーム動作の安定性を保つ発想でプロセッサーが開発されている。

結果として、ファンは「回転速度を乱高下させる」のではなく、ある程度の回転速度を維持する方向になるのではないか、と想像できる。これを好意的に解釈すれば「ターゲットが見えているので負荷が高いときの音を低くできるよう設計しやすい」ということになるし、悲観的に見れば「ファンは一定の音量で回る」ということになる。

どちらにしろ、PS4とは設計の考え方が変わるのは間違いない。PS5が大柄であるのは、そうした事情が影響している可能性が高い。

なお、「消費電力と動作音のコントロール」という点では、構造は違うものの、Xbox Series Xも同じ課題を抱えている。どこにどうファンをつけ、空気の流れを作るかということ、そしてそれを可能な限り生産性の良い形で作るということは、メーカーにとって工夫のしどころ、と言っていい。Xbox Series Xは先に構造を公開しているが、こちらは箱状のボディに下から空気を取り入れ、静音ファンで上へと逃す形になっている。PS5とは好対照な、黒くソリッドな形状になっていることも注目である。

Xbox Series Xのエアフロー構造。四角いボディの下から吸気して全体へ空気を流し、上へと逃す形で、PS5とも異なる

映像ではわかりにくい「ゲームの手触り」「Ratchet & Clank: Rift Apart」に注目

新型コロナウィルス感染症の影響もあり、PS5の発表は、PS4の時とも、Xbox OneやNintendo Switchのような他社の発表とも形態が変わっている。Xbox Series Xも似たところはある。

実のところ、本来であれば、3月にはゲーム開発者イベント「GDC」で技術解説が行なわれ、そのあとのどこかのタイミングで(おそらくは海外で)発表会、さらには6月に、ゲーム関連イベント「E3」に合わせてゲームメーカーを中心にソフトが発表されて……といった手順だったはずだ。もちろん、新型コロナウィルス感染症の流行がなかったとしてもオンラインによる映像配信は最大限活用されただろうが、「実際の発表会やイベント」も重要な役割を果たしたであろうことは疑いない。

だがこの状況では、映像配信を使ったオンラインイベントに頼らざるを得ない。

これはSIEにとっても苦渋の決断だっただろう。

PS5のタイトルが多数発表されたが、「過去との違い」を明確に提示するのは、意外に難しかったのではないかと思う。もちろん画質は大きく進化しているが、ネット配信で体感できるレベルには限界がある。また、ゲームを日常的にプレイしているファンには「目利き」ができても、一般の人にはまだ難しかったのではないか。

そこでここでは、特に「どのPVを見るとPS5の価値がわかりやすいのか」を示したいと思う。

なにより、筆者がお勧めするのは「Ratchet & Clank: Rift Apart」だ。このゲームはキャラクターを操作する3Dアクションだが、ステージがダイナミックに変化するのがポイントだ。

SIEPS5専用ゲーム「Ratchet & Clank: Rift Apart」。実はPS5の特徴をかなり生かした作品だ
© 2020 Sony Interactive Entertainment Inc.

ステージによって装飾やモチーフが変わるのは珍しくないが、従来はステージを変える時にデータをまとめて読み込む関係上、「ステージが変わるとき」にイメージが大きく変わった。

だがPS5では、データ読み込み速度が、PS4と比較して、最大で100倍速くなる。だから、ステージの最中であってもちょっと工夫すれば、ビジュアルイメージを大きく変えてしまうようなことが可能になってくる。

その目で「Ratchet & Clank: Rift Apart」のPVを見ると、大きくイメージの変わる世界を自由に行き来しながらゲームプレイをしている様が見える。

これはあくまでアクションゲームでの応用例だが、「ステージのイメージを変える」「ステージの規模を劇的に大きく、複雑なものにする」といったことがPS5では可能になっているのがわかるだろう。我々が「ゲームはこういうもの」と思っていた思い込みを解き放つようなシーンを作ることも可能だろう。

ただ、そうした違いは、28本のPS5向けゲームの中でも、まだまだ表現しきれていない。少なくとも「映像だけでわかる」ものは「Ratchet & Clank: Rift Apart」くらいだったように思う。

次にSIEに求められるのは、「従来のゲーム機とは違う手触りをわかりやすく提示するか」という課題への対策である。

「Digital Edition」や周辺機器から予想する「ゲーム以外」の機能

「手触り」という意味で、今回まったく語られなかったのが、PS5の専用サービスやOSのもつ機能面だ。どんな機能をもつのか、どう使いやすくなるのかがまだわからない。

ここは、ライバルのXbox Series Xが、OSの機能やネットワークサービスを先行してアピールしていることとは大きく異なる部分だろう。

ただ、ヒントはある。公開されたハードウェアのデザインと周辺機器から、想像できる部分はあるのだ。

公開情報として、PS5は4KのUltra HD Blu-rayに対応する。正直「ようやく」というところだが、4Kテレビとセットで映像ソフトを見るにはありがたいところだ。

PS5

一方で、PS5にはディスクドライブを搭載したバージョンとともに、ディスクドライブのない「Digital Edition」もある。こちらの場合、ディスク再生はできないし、同じようにディスクで販売されるゲームをプレイすることはできない。

PS5 Digital Edition

非常に制限のある状態に思えるが、PS4発売以降の7年間で、特に海外市場で起きた変化を思うと、これは「よくわかる流れ」でもある。

海外、特に欧米市場は、日本に先行して「ディスク販売」が弱くなっている。映像はストリーミング視聴が中心であり、ゲームもPCを中心にダウンロード販売の比率が高い。そもそもPS4時代から、ゲームの中身は「一度ハードディスクにインストールしてプレイする構造」。高速なSSDを活かすPS5では、もはや光ディスクは遅すぎる。

ディスクには、中古ゲームの利用や友人間の貸し出しなど、プラスの面もまだ残っている。とはいえ、「ディスクモデルなし」にするのは、市場性からいってもまだ難しいが、AVファンと保守的な市場向けの存在、にはなってきている。

おそらく、ディスクなしの「Digital Edition」は、ディスクありのモデルより多少安くなる。パーツコストでいえばたいした額ではなく、何万円も値段が違うことはあり得ない。とはいえ、高コストになるPS5を「できるだけ安く」するために「Digital Edition」を使うだろうことは想像に難くない。

どちらのモデルでも、おそらくは「映像視聴」はそれなりに重要な用途になる。リビングでの利用も重要だが、「個室でPCモニターにつないでゲーム機を使う」人が増えており、それらの人々に対し、ディスク再生やストリーミング映像サービスを提供する、というニーズは、PS4時代よりも大きいものになっている可能性が高い。

だから今回、同時発売の周辺機器として「メディアリモコン」が用意されたのだろう。このメディアリモコン、マイクが内蔵されていることがわかっている。おそらくは、ストリーミングサービスなどでの音声検索に利用するのではないか。この辺は注目しておくべき点だろう。

もうひとつの注目は「カメラ」だ。「HDカメラ」が別売で用意される。PS4にも純正カメラはあり、VRでの位置認識や、配信用の「自撮り」に使われている。解像度は1080pに上がっているが同じ「二眼」なので、機能的には大差なかろう。PlayStation VRはPS5でも使えるのでこのカメラを使うのだろうが、他にも用途が想像できる。

これはあくまで「予想」だが、ゲーム配信用の「自撮り」が進化する可能性がある。

昨年9月、ソニーが記者向けに開催した「Sony Technology Day」では、ビデオカメラから得た人の映像を、クロマキー合成用の背景などを用意することなく、立体的な形でCGに合成する技術が発表されていた。

「Sony Technology Day」で公開された、人の姿をCGの中に合成する技術。クロマキー用の幕などを用意せず、2つのカメラだけで人の姿を取り込み、立体的にCGの中に配置する

ソニーの先端技術が集結。8Kや360度音響、次世代ゲーム用レイトレーシングなど

実はこれ、開発していたのはSIEのR&Dチームだったりする。現在、ビデオ会議で「バーチャル背景」が広く使われるようになったが、それと同じ機能や、さらに進化した機能がPS5でのゲーム配信に使えるとしたら……。

あくまで予想だが、そういう機能が搭載されると、ちょっと面白いと思うのだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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