小寺信良のくらしDX

第22回

もはや「財布」はいらないのではないか

現在愛用中のお財布バッグ

プレゼントの定番として、ブランドものの「財布」は手堅いところである。自分で好きなものを買うという人もいるが、貰って嫌がる人は少ないだろう。だが財布はこれからあと数年で、その役目を終えるのではないかという気がしている。

宝島社が出しているファッション系雑誌「MonoMax」は、小物入れ的な付録がよく付いてくる。今年8月に購入したものには、「お財布ショルダーバッグ」なるものが付属していた。

ショルダーバッグというが、実際にはポシェットぐらいのサイズである。この中に、お財布機能が付いている。つまり小銭を入れるポケット、カード入れ、札入れといった機能が内部にある。従来はなんらかのバッグに財布を入れていたわけだが、財布の中身を直接この中に入れる、という構造になっている。

ものは試しに財布の中身を入れ替えてみたが、スマホや折り畳んだマイバッグなど薄型の小物が入れられるスペースもあり、まさにこれだけ持ち出せば用が足りることに気づいた。1カ月ほど便利に使っていたのだが、ストラップの取り付け部分が壊れてしまったので、同じような品を探した。

アマゾンでは、財布機能と一体になっているバッグはそれほど多くない。ファスナー付きのポケットに小銭は入れられたとしても、カード類を分類して入れるポケットがないのは、財布とは言えない。昨今はむしろ現金よりも、カード類を入れておける方が便利である。

ようやく帆布工房(はんぷこうぼう)のお財布ショルダーというのを見つけて購入したのだが、これは財布機能が表側にくっついた小型のバッグ、といった格好だ。内側のバッグ部分は、ペットボトルみたいな丸いものは入らないが、そこそこ容積があるので、スマホのほかエコバッグも入って型崩れしない。家のカギや車のカギも入れられる。出かける時は何も考えず、本当にこれ1つ持っていけば済むようになった。

他にも荷物がある場合は、ビジネスリュックにこのお財布ショルダーごと突っ込めばいい。昔は財布や小銭入れや鍵などをバッグごとに入れ替えていたのだが、全部が1個にまとまっているので、そうした面倒もなく、忘れ物も減った。

考えてみれば、キャッシュレス時代を向かえたことで、財布というものの役割が終わろうとしているのではないだろうか。都市部に住んでいれば、現金を使うチャンスはほとんどないはずだ。

それはここ宮崎のような地方都市でも、だいたい同じである。唯一近所のドラッグストアだけは現金主義なので、仕方なく現金を持っている。ただそれも自動精算機なので、お金の出し方も変わった。まず小銭の入り口に、何も考えず財布にある小銭を投入する。足りない分の札を入れて、お釣りを掴んで小銭入れにぶち込むだけである。有人レジのように、なるべくお釣りが少なくなるように計算して支払うといった行為もなく、スピーディだ。

現代における財布とは、カード、レシート、スマホ入れとしての機能があれば十分だ。バックアップとして、最低限の現金が入ればなおよし。つまり財布の中身の中心は、もはや現金ではない。それなら財布という形態でなくてもいい、ということになる。

バッグ型財布は、バッグに直接カードや現金が入れられる構造を持ったものということになるが、基本的にはバッグが従来の財布の機能を吸収してしまったもの、と理解できる。

すべてがスマホに吸い込まれる

スマホ決済で事足りるなら、そもそも財布を開ける必要がない。そこで、スマートフォンをどう持ち歩くか、がポイントになる。

昨今のスマートフォンは大画面化が進み、概ね7インチ弱というサイズになっている。ベゼル部分が狭いのであまり大きさを感じないが、それでも昔のようにワイシャツの胸ポケットに入れられるレベルを超えている。また尻ポケットに入れてしまうと、うっかり座ったときに折れる可能性がある。

微妙に持ち歩きにくいサイズではあるのだ。

昨今ショッピングモールなどを歩いていると、女性を中心にスマホに長い紐を付けて肩掛けにするというスタイルをよく見かけるようになった。従来ならポシェットやサコッシュのような小物入れにスマホを収納していたはずだが、スマホ決済や写真撮影、SNSチェックなど、スマホを取り出すタイミングが増えれば、いちいち取り出すのは面倒だ。そうしたことからこのスタイルが流行したものだろう。

なかにはスマホ以外何も持っていない、手ぶらという人もいる。ポケットの中にはハンカチのような小物も入っているのかもしれないが、他に小物入れのようなものをまるで持たない人も見かけるようになった。

たぶんあのスタイルが、キャッシュレス決済の最終系なのだろう。手ぶらでスマホだけ下げていれば事足りるというシンプルさは、すでに多くの人が経験しているはずだ。例えば会社の近くでお昼を食べるとき、首からセキュリティカードを下げてスマホだけ持って出るという人も多い。昔は財布だけ持って出る、というスタイルだった。

クレジットカードや交通系カードはすでにスマホに吸収された。クレジットカードは、物理カードが郵便で届いても、封も開けていないという人も出てきた。各種会員証やポイントカードも吸収されつつある。

現在健康保険証はマイナンバーカードへ吸収され、今後は運転免許証も統合される見込みだ。すでにマイナンバーカードの一部機能は、スマートフォンへの搭載が始まっている。ゆくゆくはスマホ保険証やスマホ免許証が登場することになる。現金の次に消滅するのは、カード類だ。

多くの決済を現金で行なっていた時代は、なにはなくともとにかく財布さえあればどうにかなっていた。それが電子決済をはじめ、多くの情報がデジタル化されるにつれて、スマホさえあればどうにかなる時代になりつつある。

バッグ型財布の登場は、そこに至るまでの道のりのうち、まず「財布を不要にする」という段階まで来たということではないかとも思う。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。