小寺信良のくらしDX
第12回
マイナンバーカードでどこまでDX化できる?
2024年2月29日 08:20
今年もまた、確定申告のシーズンとなった。数年前からスマホとマイナンバーカードで申告できるようになっているが、スタート当初のギクシャクした設計から、毎年少しずつ良くなっているように思う。
特によくなったと感じるのは、医療費の計算だ。マイナポータル連携を利用する事で、病院や薬局などで支払った医療費が確定申告書に自動入力できる。扶養家族の分の医療費も、それぞれのスマホのマイナポータルから代理人設定を行なうと、それも自動で合算される。最初はちゃんと動くのか懐疑的だったが、やってみると問題なく動作した。
ご承知のように医療費は原則10万円を超えなければ控除されないが、これまで10万円を超えるような量のものを手動で入力していくのは大変であった。さらにせっかく入力したのに10万円いかなかったりして、なんだよもーとなっていたわけだが、病院の分だけでも自動合算されれば、10万円超えそうかどうか、当たりが付けられる。
あとは財務省がどれぐらい頑張るかの話ではあるが、すでに源泉徴収票や社会保険の控除証明書などを添付する必要もなくなっており、最終的には確定申告自体もかなりの部分が自動化されていくだろうし、またそうあるべきだと思う。
マイナンバーカードの普及も進んで来ており、令和6年1月末で全国平均73.1%となっている。都道府県別では1位が筆者の住む宮崎県の81.4%で、中核市のくくりでも1位は宮崎市で、81.6%となっている。だが実は中核市としてはカウントされていない都城市のほうが普及率では勝っており、88.2%となかなかの高水準だ。
マイナンバーカードを普及させるには、いろいろなところで使えて便利、という形になる必要がある。これには、各省庁レベル、自治体レベル、民間レベルの3層がある。
資格証明書としての活用
各省庁レベルの取り組みとしてよく知られているのは、厚生労働省が主導する「マイナ保険証」だろう。実際にはマイナンバー法の改正を受けて始まった話だが、今年(2024年)の12月2日には現行の健康保険証の発行が停止し、マイナ保険証1本となる。とはいえ、中核市の中でももっとも普及率が高い宮崎市においてもなお、マイナ保険証非対応の個人病院は多いのが現実だ。
また医師や薬剤師、看護師などの資格情報もデジタル化することが予定されている。こちらも今年度から順次サービス開始を目指す。
そのほか、国家資格のデジタル化の取り組みとして、総務省は行政書士、文科省は教員、経済産業省は情報処理安全確保支援士のデジタル化に取り組む。資格所持者がマイナンバーカードとスマホを使ってオンライン申請することで、厳格に本人確認された資格情報が表示できる。以前から教員免許を持たずに教員として働いていた事例があるところだが、就職時の資格情報確認も一歩進むだろう。
一方自治体でできる事は多い。すでにコンビニで住民票などが出力できるのは当然として、母子手帳替わりにしたり、介護保険証としての活用や、公立図書館の貸出カードや避難所への入所手続きなど、公的施設の利用資格証明書として活用するといった取り組みを進めている。ただこれはどこに引っ越しても同じではなく、基本的には各自治体のやる気次第となっている。
民間レベルとしては、社員証や学生証として利用するケースもあるという。社員証はオートロックを解除する入館カードと兼用している場合も多いが、マイナンバーカードで代用するという事だろう。ただ、マイナンバーカードを首からぶら下げて仕事するというのは大丈夫なのかと心配になる。
これらの取り組みに共通するのは、「マイナンバーカードを資格証明書として利用する」という発想だ。カードは自治体が厳格な本人確認を行なった上で発行しているうえに、個人情報や署名用電子証明書、利用者証明用電子証明書も格納されているので、公的個人認証の切り札とされている。
ただ、「マイナンバーカード」という物理カードにどこまで依存するのかという点については、色々と考えさせられる。例えばクレジットカードなどは、今や物理的なプラスチックのカードを取り出すまでもなく、決済情報が登録されたスマートフォンで利用できるようになっている。多くのショップの会員カードも、今やスマホアプリ化している。物理カードに頼っている間は、DXとは言わないのではないか。
スマホはスマホで問題山積
DXの本質は、情報のデジタル化、すなわち紙処理の廃止がメインではなく、むしろXのほう、これまでのやり方を変えて合理化するというほうがメインである。1回の入力で関連する手続きがいっぺんにできたり、細々した申請もすべてオンラインでできるといった部分だ。何かするたびに毎回毎回暗証番号を入力してマイナンバーカードをスマホに押し当てるのが、DXの最終ゴールだとは思えない。
もちろん、原本としての物理カードはあっていいとは思うが、日常的な利用に関してはスマホアプリ化したもので使いたい。すでにAndroidでは、スマホ向け電子証明書を利用する事ができる。ただ、マイナンバーカードほどには万能ではないので、筆者も登録はしたものの、利用する機会がないまま忘れていた。
そうこうしているうちに、そのスマートフォンを下取りに出し、機種変してしまったのだが、あとから証明書が入ったままだったことを思い出した。電子証明書は、一般のストレージ領域ではないところに記録されるので、スマートフォンの初期化では無効化されない。ただし暗証番号がわからなければ、他人から利用できない状態ではある。
この場合、対処の方法としては2つある。1つはマイナンバー総合フリーダイヤルに電話して、スマホ用電子証明書を一時利用停止する方法。もう1つは、新しいスマートフォンでスマホ向け電子証明書の利用を登録することだ。スマートフォン用電子証明書は常に最新の手続きによるもの1つだけしか有効にならないので、古いスマホの証明書は自動的に失効するというわけである。
スマートフォンの紛失等による電子証明書の一時利用停止は、24時間365日対応するというので、早速電話してみた。ある程度自動応答で対応するのかと思ったら、実際に人が出ての対応で驚いた。
下取りによって本体を手放したので一時利用停止したい旨を伝えると、そこから実際に利用停止をする担当者まで行きつくのに、なんと3人に事情を説明するハメになった。担当者で4人目である。合計4部署の人間が24時間365日対応するのだろうか。ものすごい人海戦術である。
2人目の担当者が言うには、機種変した「Google Pixel 8」は発売されたばかりで、まだスマホ向け電子証明書が対応していないという。とはいえ、発売は昨年の10月である。対応が遅すぎないか。まあそういうことなら、利用停止するしかない(編注:3月1日付けでPixel 8も対応した)。
利用停止するにあたり、マイナンバーの番号の確認は一切なかった。電話口で伝えるものではないから当然ではある。したがって本人確認は、氏名・住所・生年月日のみで行なわれる。住所は郵便番号から伝えたのだが、郵便番号から住所が引けるようにはなっておらず、なんと都道府県から全部口頭で、表示の漢字まで、ゆっくり説明しなければならなかった。先方で何かを入力するキー音は聞こえなかったので、もしかしたら手書きしているのかもしれない。
担当者は最初、スマホ用の電子証明書を利用停止すると、マイナンバーカード内の署名用電子証明書と利用者証明用電子証明書も失効するので、市役所等に赴いてそれらの証明書の再発行を受ける事になると説明した。「それは本当か?スマホ向け電子証明書を利用停止すると、その本体とも言えるマイナンバーカードの証明書情報も同時に停止されるのか?」と再度確認したところ、しばらく電話を保留にされたのち、先の案内は誤りで、マイナンバーカードの証明書は停止しないということであった。
昨年5月からスマホ向けのマイナンバーカード機能が提供されているわけだから、紛失・盗難の届出もそこそこあるだろう。これまでずっと誤った説明をし続けていたのだろうか。
一時利用の停止は、ずいぶんあっさりしたものだった。「それではこれから停止します。停止しました。」と、1秒もかからない。恐らく何らかの端末で失効操作するのだろうが、それでは本人確認時の住所の読み方も漢字すらもわからないという対応はなんなんだよという気がする。受付時は紙で、それを別の担当者に回して端末で確認・停止操作するといった格好なのだろうか。
デジタル庁のあまりにもアナログな手続きに、電話口でこちらがニヤニヤしてしまった。スマホの機能はあくまでも補助機能なので、それこそ別のスマホやPCでマイナンバーカード読み込んでユーザーが自分で停止できる方法も提供すべきだろう。デジタル庁は、こういうところからDX化を始めたらどうだろうか。
【更新】3月1日付けでPixel 8/8 Proがスマホ用電子証明書対応機種に追加された旨を追記(3月4日)