いつモノコト
スマホで聴く音楽の音質をグレードアップする「スティック型DAC」
2024年1月27日 09:30
移動中にスマホで音楽を聴いている人も多いと思いますが、今回は筆者がスマホで音楽を聴くときに使っている音質向上アイテムを紹介します。
それは「スティック型DAC」と呼ばれるもので、音質重視派の人からは数年来支持を集めいている製品です。これを使うとスマホのイヤフォン端子よりも高音質で音楽を楽しむことができるのです。
加えて、最近はイヤフォン端子を省略するスマホが増えているので、USBやLightning端子でイヤフォンが使えるとあって注目されています。新モデルも各社から続々と投入されており、ポータブルオーディオアイテムの中でも盛り上がっているジャンルのひとつとなっています。
デュアルDACチップや高精度発振器など充実の中身
筆者がここ1年ほど使っているのがiBasso Audioの「DC03PRO」というモデル。約1万円と買いやすい価格なのもあって購入してみました。インターフェースはUSB Type-Cで、電源はスマホから供給される仕組みです。iBasso Audioは中国のブランドで、この手の製品ではメジャーなブランドと言えます。
「DAC」というのはD/Aコンバーターのことで、デジタルデータをアナログデータに変換するパーツ。スティック型DACにはこれに加えてヘッドフォンアンプも入っていて、スマホ内蔵のDACやアンプよりも高音質になるという触れ込みになっています。
DACのチップはCirrus Logic(シーラスロジック)の「CS43131」を採用。同社でも上位グレードに当たる「MasterHIFI」ラインの1つで、ヘッドフォンアンプ内蔵のICです。
CS43131は1個でステレオの仕様ですが、本機は音質向上のために左右別で2個搭載するという贅沢な構成となっています。また、クロックには大真空(KDS)の「フェムト・クロック水晶発振器」が採用されているとのことで、これも音質向上に期待できる部分です。
イヤフォン端子は一般的なシングルエンド(バランス非対応)のミニジャック。筆者は使っているイヤフォンがバランス接続ではないのでDC03PROを選びましたが、上位モデルとして同じDACチップを使ったバランス出力対応の「DC04PRO」というモデルも出ています。
対応フォーマットはPCMが最大384kHz/32bit、DSDが最大11.2MHz(DSD256)。MQA形式に非対応なことを除けば、主に流通しているハイレゾフォーマットを十分にカバーしています。スマホ単体では本格的なハイレゾ再生は難しいため、ハイレゾを手軽に楽しみたいという人にもオススメです。
デジタルフィルターが切り換えられる
DC03PROは、Androidのみとなりますが「iBasso UAC」というアプリで音量や音質を調整できるようになっています。
USB DACとしては低価格なモデルにもかかわらず、PCM再生時のデジタルフィルターにおいて特性が切り替え可能となっています。最近はこのようにデジタルフィルターを選べる機器も増えつつありますが、多くのデジタルオーディオ機器ではデジタルフィルターは1つに固定されているのが普通。本機のようにユーザーが選べるのは面白い部分でしょう。
フィルター切り換えはDACチップのCS43131に搭載されている機能になっており、それをアプリからコントロールできるということです。フィルターはそれぞれ「Fast Roll Off」「Short Delay Slow Roll Off」「Short Delay Fast Roll Off」「Slow Roll Off」「NOS」の5種類。
デジタルフィルターは、オーバーサンプリングと組み合わせて量子化ノイズやエイリアシングによる歪みを軽減するために一般的に使われる技術。いくつか種類があるのですが、デジタルフィルターには音質への副作用もあって、どれも一長一短とされています。そのため、ユーザーが好きなタイプを選べるようになっています。
デジタルフィルターを切り替えて聞き比べてみると、その差は思ったほど大きなものでは無く、「言われてみれば少し違うかな」という微妙な差。個人的にはShort Delay Fast Roll Offがより自然なイメージでした。
フィルターの中の「NOS」というのは「ノンオーバーサンプリング」の略で、オーバーサンプリングをせずにアナログ変換した音とのこと。内部のデジタル処理が最小限になるため、本来ノイズや歪みが含まれているはずですが、悪い音ではなくむしろ元気の良い音にも聞こえました。
デジタルフィルターに関してはどれを選んでも一定以上の音質になっているようなので、あとは曲との相性や好みで選べば良いと思います。
そのほかアプリにあるのは「Gain」と「Output」の選択。前者は入力ゲインの設定なので、メインのボリュームが調整しやすいようにLow/Medium/Highから選べます。後者は全体の出力レベルを変更するもので、NormalとTurboがあります。代理店のMUSINによると原音に忠実なのはNormalだそうです。
Onkyo HF Playerのアップサンプリングにも対応
スマホの音楽プレーヤーは国内では定番の「Onkyo HF Player」(Android版)を使っています。HF Playerには「USB Host Audio Driver」という機能があって、OSのボリュームをバイパスしてくれるので、音質面では有利になります。
なお、DC03PROから音が出ていてもHF Playerのボリュームを動かして音量が変わるようだとHF Playerからきちんと認識されていないことになります。筆者の環境では、たまにこの現象が起きていました。その場合は、HF Playerの設定で「USBデバイスの検索」を実行すると再認識されます。これでプレーヤー側のボリュームを動かしても音量は変わらなくなり、OSのボリュームがバイパスされたことが確認できます。
HF Playerは1,600円(Android版の場合)のアンロック版を購入すると、USB DACにハイレゾ出力ができるようになるほか、PCMデータを最大384kHz(iOSは最大192kHz)に変換できる「アップサンプリング機能」などが使えるようになります。先のデジタルフィルターの切り替えを、アップサンプリングと組み合わせていろいろ試してみるのも一興です。
そしてアンロック版では、PCMデータをDSD形式の最大5.6MHz(DSD128)で送り出す「リアルタイムDSD変換」も使えるようになります。
アップサンプリングやフォーマット変換で音が良くなるかどうかは議論のあるところですが、印象としてはCD音源をDSD変換で出力すると、わずかに音に迫力が生まれるようなイメージがありました。筆者もですが、手持ちのCDをFLAC化した非ハイレゾ音源を多くお持ちの方はこの辺りを試してみる価値はあると思いました。
明瞭感があってバランスの良い音
スマホのイヤフォン端子に比べると、やはり明瞭感が一番違うようでした。曇りが無くなるというか、非常に見通しの良い音になります。ボーカルや各楽器の分離が良くなる感じもします。
また音のバランスが良く、イコライザー不要でかなりキマった音が出てくれます。実際、HF Playerのイコライザーは使っていません。普段デスクトップで使っているヘッドフォンアンプ「RNHP」(Rupert Neve Designs)に比べると、少々低音を盛ってあるようですが、わざとらしくないレベルなので好ましいところです。
音量についても十分で、出音が小さめなヘッドフォンでも試してみましたが、それでもボリューム不足ということは全くありませんでした。ともかく、これ無しには戻れないといったところです。
一方で気をつけたいところとしては、スマホのバッテリー消費は幾分大きめになるということ。DC03PROを使用中にはUSB端子が塞がれて充電できませんから、使っていないときにこまめに充電するといった工夫は必要でしょう。使用中はDAC本体がほんのり暖かくなる程度の発熱があります。
加えて、iBasso UACが現状ではAndroid版しか無いのも惜しいところ。PCのOSにも対応して欲しいですし、iOS版を望むユーザーも多いはずです。せっかくのデジタルフィルター切り替え機能もAndroidユーザー以外は持ち腐れになってしまってもったいないと思います。
とはいえ、PCに繋いでもハイクォリティなDAC+ヘッドフォンアンプとして使えますので、例えば据え置き型のヘッドフォンアンプに興味があっても価格や置き場所に二の足を踏んでいるなら、こうしたスティック型DACから入門するのも手だと思います。
さて、注意点がもうひとつあるとすれば“ポータブルオーディオ沼”へのちょうど良い入り口になっているところかも知れません。この音を知ってしまうと「もっと良いイヤフォンにしたら?」「もっと良いDACを使ったら?」「バランス接続も試してみたい!」とエスカレートする危険がありそうです(笑)。