いつモノコト
小さくても常に正確な時刻 セイコーの卓上電波時計
2020年9月26日 10:00
機械式の腕時計を使うので、電波式の置き時計を買った……え?
筆者は、スマートフォンが普及し正確な時刻が手元で分かるようになった今でも、腕時計を手放せないタイプの人間だ。それも、ゼンマイを巻く機械式の腕時計がメインだ。腕時計を身につけることの意義はともかく、そうした人でもぜひとも欲しいのが、見るだけですぐに正確な時刻が分かる電波時計だ。
時計のために別の時計が必要というのは珍妙な意見だと思われるかもしれないが、ゼンマイを巻き上げる機械式腕時計の精度はクオーツ式に遠く及ばないし、ましてや携帯電話基地局の正確な時計で定期的に補正されるスマートフォンの時刻表示とは比べる次元にない。しかし、分単位で到着する都心の電車に乗るには、腕時計を可能な限り正確な時刻に合わせておきたいし、そのためにはこまめに腕時計の時刻合わせを行なっておきたい、ということになるのだ(ここでは喜んで腕時計を使っているので、「スマホ見ればええやん」という意見はあえて無粋とさせていただく)。
また、一般的にリザーブ(ゼンマイを巻き上げきってからの最大駆動時間)が40時間程度である機械式腕時計は、2日ほど使用しない、つまり週末の土日に着けていないと、止まってしまう。月曜日の朝、出勤前の忙しいタイミングで、止まっている腕時計の時刻合わせも必要になるのだ。また、連続で動かしていても、2週間もすると数秒~数十秒はずれるので、やはり時刻合わせをしたくなる。
そうした時、手っ取り早く正確な時刻を確認できるのが、電波時計だ。実はデジタル表示の壁掛け時計をすでに持っているのだが、内部はシンプルなクオーツ式で、1~2カ月もすると1分程度はずれてしまう。家にいるときに簡単に時刻を確認する程度ならそれでもいいが、ほかの時計の時刻合わせに使うのには、さすがに精度が足りない。引っ越しを機に、改めてアナログ表示の壁掛け時計を探していたのだが、リフォーム済みの綺麗な部屋を見ると、あれやこれやと壁にモノを増やすのは気が引けてきたので、ひとまずは机に置ける小型の電波時計を探した。
小型でアナログ表示のシンプルな目覚まし時計「KR328K」
そこで買ってみたのが、セイコークロック(セイコー)の電波修正機能対応の目覚まし時計「KR328K」だ。家電量販店での価格は2,580円(税込)だった。筆者は仕事部屋で置き時計として利用するため、目覚まし機能を使わないが、シンプルなアラームやスヌーズ機能、文字盤を照らすライトといった定番機能が搭載されている。文字盤は黒と白の2つのバリエーションがあったが、よりシンプルに見える印象の黒を選んだ。
文字盤は、外周のバーインデックスが少し長い気がするが、インデックス以外はセイコーのロゴしかないシンプルなデザインだ。内側にあるアラーム針とアラーム用インデックスには黄色が使われ、アクセントになっている。秒針は銀色で、角度によっては見えにくかったりキラッと光ったりするのは好みが分かれる部分かもしれない。
実は筆者が電波時計を買うのは初めて。設置する場所は窓に近く電波が届かないということはないだろうと踏んでいたが、手動操作での電波の受信には最長約15分かかるとあり、初めて電波の受信に成功するまでは少しドキドキした(実際には数分で完了した)。
基本的に電波の受信は自動で、2、3,6、10、14、18、22時の各16分に受信を行なう。
ボタンを押すとライトが点滅して、電波の受信に成功しているかどうかも分かるようになっている。手動で時刻を修正したり電波の自動受信を止めたりすることもできる。
時刻修正時以外はクオーツ式ムーブメントで動いており、時刻修正をしない場合の精度は平均月差±30秒。単3形アルカリ乾電池1本で駆動し、電池寿命はアラームを併用した場合で約1年だ。
正直なところを言うと、見た目だけならブラウンの目覚まし時計のような、機能的でシンプルな定番的デザインが良かったのだが、ブラウンの電波受信機能はデジタル表示の時計にしか搭載されていない。電波時計は針を小型モーターで制御するため、内部は比較的複雑なデジタル時計になっていることも影響しているだろう。
例えば今回購入した「KR328K」は、アラームをセットすると、秒針の「コチコチ」音を鳴らさないよう秒針を止める機能が搭載されているが、その状態でも時刻は正しく表示し続けるし、アラームをオフにすると、モーター制御により秒針が急いで現在時刻の場所まで移動する。そもそもの電波受信時の時刻の修正も、モーター制御で秒針と分針を個別に回転させて行なう(時針は分針と連動している)。手動で時刻を修正する際もつまみを回すのではなく、ボタンを押せば1分ずつ分針を動かせるというデジタル制御だ(アラームの針はつまみを回すアナログ式だが)。
こうしたことから、「電波」「小型」「針を動かすアナログ表示」の3つを満たす時計となると、国内の大手メーカーのラインナップに絞られるのが実情のようだ。
そもそも、デジタル表示かアナログ表示かという選択もあるが、筆者は昔から、アナログな針の表示でないと時間の感覚をつかみにくいタイプの人間だ。時針と分針の配置を絵として頭に思い浮かべて「まだ余裕がある」「30分後だと(分針が反対側になり)、次の予定までほとんど時間がない」などの感覚を得ている。
デジタル表示の時計を見た場合も、頭の中で針の配置に置き換えて感覚を掴んでいる。このため、例えばキャンプに行くので多機能なアウトドアウォッチを着けていきたいといった特別な理由がない限りは、より直感的に把握できるという意味でアナログ表示の時計をメインに使用している。
「PCでええやん」「スマホあるやん」と言われても
実際にデスクに電波時計の「KR328K」を置いてみたが、電波の時刻修正機能により常に正確な時刻を刻んでいるというのは、大きな安心感がある。
PCのOSの時刻表示は、タイムサーバーにアクセスすることで正確さを保っているが、裏を返すとスタンドアローンでの精度は低い。過去には、タイムサーバーがダウンし時刻が修正されないまま大きく狂うといった、苦い経験もあった。現在は改善されていると思うものの、「秒単位の正確な時刻を知るツール」としては今も信頼しきれていない。もちろん、さまざまな時刻表示のアプリケーションを追加するという方法もあるが、当然ながらPCの時計はPCを起動していないと確認できないので、出かける前などPCをシャットダウンしているタイミングでは時刻を確認できない。「x日の0時0分から販売を開始します」といった通信販売サイトでの人気商品の争奪戦では、数秒の遅れが響いて致命的な結果になる場合もあるが、そうした場合も、今はより信頼がおける電波時計を睨みながら臨んでいる。
前述のように機械式の腕時計の時刻合わせをしたい場面で、PCを起動していないシチュエーションだと、これまではスマートフォンの出番だったのだが、実はここにも小さくない落とし穴がある。スマートフォンには省電力機能として、一定時間操作されないと画面を消灯する画面スリープ機能が備わっているが、腕時計の時刻を合わせようとしてタイミングを図っている間に、画面が消えてしまうということが起こるのだ。あわてて画面のロックを解除しようとするもののマスクを着けて出かける準備万端だと顔認証は機能せず、認識速度がそれほど早くない画面内指紋認証に手間取っている間にすでに目的の0秒は過ぎており……ということが往々にして起こる。
機械式の腕時計の時刻を合わせる場合、リューズを引いて秒針を12時の位置で止めて(=ハック機能、秒針を止められない時計もある)、時針・分針を調整後、目的の時刻の秒が0秒になったタイミングでリューズを戻し秒針を動かすという手順が一般的だと思う。この時、最大で1分弱は、呼吸を整え、リューズに指を添えて待機することになるのだが、この間にスマートフォンの省電力機能が発動し、画面が消灯してしまうのだ。
そうならないために、今度は定期的に画面を触るということをし始めるのだが、そこはかとなく虚しいうえ、画面を触る手の動きでリューズに添えた指がリューズを動かしてしまい、ピッタリ合わせておいた分針がずれてしまうという事故もわりと起こる。ではなぜリューズに指を添えているのかというと、指を離しておいてからリューズを押し込むと、ひねりが加わってしまう場合が多く、押下と同時にリューズを回してしまって分針が動いてしまう場合があるのと、機械式腕時計の中で最も負荷がかかり、トラブルの主な原因になっているのがリューズ周辺だからで、勢いよくバチっと押し込むのは、はっきりいって絶対にやりたいくないからだ。
スマートフォンの画面が消灯するまで1分以上という設定は、個人的には少し長めの印象で、30秒ぐらいに設定しておきたいのが正直なところ。しかし腕時計の時刻合わせのためだけに日常的な省電力機能を弱体化させてしまうのは避けたい。以上のような理由で、機械式腕時計の時刻合わせにスマートフォンを使うのは、ちょっとコツがいるというか、煩わしさが拭えない。
一体なにと戦っているのかという感じだが、「PCでええやん」「スマホあるやん」と言われても、マウスクリックもタッチ操作も不要で、視線を移動するだけで常に正確な時刻を確認できるという小型の電波時計は、筆者としては大きな意義を見出しているのだ。