石野純也のモバイル通信SE

第72回

Pixel 9aの登場が告げる“カメラ競争時代”の黄昏

グーグルは、日本でPixel 9aを発表した

グーグルは、日本でPixel 9シリーズの廉価モデル「Pixel 9a」を発売することを明かした。直販価格は、128GB版の79,900円から。また、これまで日本では提供されていなかった256GB版も展開される。

4月27日までのキャンペーンでは、ストアクレジット15,000円分と25,100円の下取りで、実質価格は39,800円まで下がる。25,100円という下取り価格は、「Pixel 6a」や「iPhone SE(第2世代)」を参照しているという。

Pixel 9と9a。違いは「価格とデザイン」

Pixel Aシリーズは、上位モデルから半年程度遅れて投入する廉価モデルという位置づけ。チップセットは上位モデルそのままだが、ディスプレイやカメラの仕様をダウングレードすることで価格を抑えていた。Pixel 9aにも、そのコンセプトは踏襲されており、Pixel 9と比べるとカメラのセンサーサイズが小さくなるといった違いがある。また、メモリの容量もPixel 9aは8GBとなっており、Pixel 9の12GBから減少した。

Pixel 9a

そのぶん、価格はPixel 9の128,900円から49,000円も安くなっている。処理能力は大きな違いがないため、リーズナブルながら性能の高いスマホがほしいという人にはうってつけの存在だ。オンデバイスAIの「Gemini Nano」を活用したボイスレコーダーの文字起こし&要約や、クラウドAIを掛け合わせて画像を生成する「Pixel Studio」などの機能は、そのまま利用できる。

Pixel 9のレコーダーは、Gemini Nanoで要約ができる。この機能は、Pixel 9aにも踏襲されている

一方で、これまでのPixel Aシリーズとは少々方向性を変えているのも事実だ。1つ目がデザイン。従来モデルは外観に統一性を持たせていたが、Pixel 9aでは、Pixel 9シリーズの他のモデルで特徴的だったカメラバーを廃し、より本体と一体化されたカメラを採用している。あえてカメラを強調していた他のPixel 9シリーズに対し、よりカメラが背面になじんだデザインと言えるだろう。

デザイン変更の理由を、グーグルのプロダクトマネジメント ディレクター、ソニヤ ジョバンプトラ氏は「ポートフォリオの中でのプロダクトの位置づけを反映させようとした」と語る。確かに、カメラを強調するより、シンプルな方がPixel 9シリーズのコアな機能に絞っていることは伝わりやすい。1つ上のモデルであるPixel 9とも差別化を図りやすい。

Pixel 8シリーズでは、キャリアが標準モデルの「Pixel 8」を格安で販売していたこともあり、廉価モデルの「Pixel 8a」との違いが分かりづらい側面があった。最大のライバルが、自身でラインナップした端末になってしまっていたというわけだ。より背面がフラットで、持ち運びやすいという価値があれば、価格以外の要素でPixel 9aを選択するユーザーも増えるだろう。

カメラ部分の出っ張りが少なく、背面のデザインテイストも他のPixel 9シリーズとは異なる

ソニヤ氏が「これをやらなければいけないということや、ユーザーのインサイトがあったわけではないが、(ディスプレイやカメラの)組み合せで、ミニマルなデザインにするか、従来型にするかの選択肢があった」というように、採用したパーツによって、こうしたデザインが可能になった側面もある。

もう1つは、メモリ容量の違いでAIを使った機能に差が出ていること。3月に、Pixel 9シリーズが対応した「Pixel Screenshots」は、発売時点では利用できない。今後、AIモデルを軽量化するなどすれば、シリーズでAI関連機能を統一できる可能性はあるが、同じシリーズでも、スペックによってAIでできることにも差がつくようになってきた。

日本語版が提供されていないため、日本で利用するにはあまり関係ない話だが、米国では他のPixel 9シリーズの売りの1つだった「通話メモ(Call Notes)」も非対応になった。この機能は、音声通話を自動で録音して、通話終了後に要点を教えてくれるというもの。Pixel Screenshotsと同様、オンデバイスでの処理を活用している。Pixel 9aは上位モデルと同じ「Tensor G4」を搭載しているため、処理能力には違いがないが、メモリ容量で差がついた格好だ。

Pixel 9aは、米国でのみ展開されている通話メモに非対応。Pixel Screenshotsも利用できない

値上げの影響はあるか? カメラ競争からAIの競争へ

フラットに近い背面デザインを採用しており、Pixel 9との価格差も大きいPixel 9aだが、日本で値上がりしてしまっているのは懸念材料だ。米国では499ドルで価格は据え置きだった一方で、日本ではPixel 8a発売時の72,600円よりもさらに高い、79,900円になってしまった。Pixel 8aのときには1ドル=132円程度だった“グーグルレート”が、Pixel 9aでは145円台まで上昇している。

直近では、ドル売りが進んで円高気味に振れていることもあり、リアルタイムの実レートに近い形になっている。為替相場の影響を受けざるをえないため、仕方がないところはあるが、Pixel Aシリーズは、世代を経るに従って徐々に値上げしており、お得感が薄れているのも事実だ。

昨年は値上げに伴い、日本市場では急成長していたグーグルのシェアにブレーキがかかっている。

IDCが発表した24年のスマホ出荷台数調査では、Pixelの成長に急ブレーキがかかっていることが分かった

23年は「Pixel 7a」からドコモでの取り扱いが再開するという強力な追い風があったため、昨年のシェア縮小はその反動という見方もできるが、豊富なバリエーションを展開するシャオミやFCNTを傘下に収めたモトローラにシェアを奪われた側面もあり、予断を許さない状況だ。さらに今年は、iPhone 16eというライバルも存在する。

他のAndroidスマホメーカーとは異なり、Pixelにはミドルレンジ以下のモデルが存在しない。戦略として、アップルに近いプレミアムモデルに特化したラインナップを構築していると言えるだろう。一方、Androidで数を稼いでいるのは、より低い価格帯の端末。キャリアの端末購入プログラム次第なところはあるが、コスパの高さで受け入れられてきたPixel Aシリーズが曲がり角に来ているのも事実だ。

シャープの「AQUOS sense9」は約6万円。8万円に迫るPixel 9aは、売れ筋モデルの中ではやや高い。高コスパという売りは、過去のものになりつつある

刷新したデザインが、価格上昇というネガティブな要素を補えるかどうかは、現時点では未知数と言える。

もっとも、昨今のスマホはカメラ機能に注力した結果、センサーの大型化や多眼化が進み、背面の出っ張りも多くなっていた。その代償として、机やテーブルの上に置いた際に、使いづらくなっていた。

iPhone 16eに続き、注目度の高いPixelがカメラの目立たないデザインを採用したのは、スマホの売りが徐々にカメラからAIに移りつつあることを象徴しているという見方もできる。このトレンドが定着するかどうかにも、注目しておきたい。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya