石野純也のモバイル通信SE

第65回

スマホが高くなる? 26日のガイドライン改定はスマホ販売をどう変えるのか

12月26日にガイドラインが改正され、端末価格が見直される可能性が高まった。店頭には価格改定を示唆するポスターが掲示されており、駆け込み購入をあおっている

端末購入補助や通信料金割引を規制するガイドラインが、12月26日に改正される。これを受け、端末価格が見直される可能性が高まってきた。現行の価格体系だと、ガイドラインに反してしまうおそれがあるからだ。

同時に後者の料金割引の規制が一部緩和されることで、6カ月間の「お試し割」を導入するキャリアも出てくる可能性がある。ここでは、間もなく開始される新ガイドラインの影響を考察していこう。

23年ガイドライン改正の成果と課題

'23年のガイドライン改正では、端末の割引が“総額”で最大44,000円までに制限された。それまでは、回線契約に紐づく割引が22,000円までだった一方、端末単体への割引は自由に行なわれていた。結果として、一括で端末を値引く手法が横行。これに対する規制として総額割引規制が導入され、大幅な端末単体値引きは姿を消した。

代わりに台頭したのが、端末購入プログラムを活用し、実質価格を下げる手法だ。

端末購入プログラムとは、1年ないしは2年後の下取りを条件に、残価を免除する仕組みのことを指す。これ自体は以前から導入されていたものだが、残価を高めに見積もり、割引と組み合わせることで実質価格を抑える動きが顕在化していた。

中でも、ソフトバンクはアグレッシブにこの仕組みを活用。最新のiPhone 16(128GB版)を1年実質36円、Pixel 9も2年実質24円で販売している。10万円台前半の価格を抑えたハイエンドモデルも、1年36円や2年24円で販売されることが多かった。

9月に発売されたばかりのiPhone 16も、1年実質36円で販売されている。ただし、1年で機種変更するには、これに加えて19,800円の「早トクオプション利用料」がかかる

こうした売り方が成立するのは、割引とは見なされない高めの残価を下取りで相殺できるからにほかならない。上記の例で言えば、iPhone 16は145,404円、Pixel 9は110,136円が残価として設定されている。ただし、下取り価格にこっそり割引が混ぜられてしまわないよう、キャリア各社には13カ月後なり25カ月後なりの買い取り予想価格を公表することが義務付けられている。

ソフトバンクの場合、12月23日時点で13カ月後のiPhone 16を99,627円、25カ月後のPixel 9を66,551円と予想している。残価からこの予想価格を引いたぶんは割引と見なされるが、総額で44,000円の範囲に収まっていれば“セーフ”。ここで挙げた2機種はいずれもかなりギリギリだが、ガイドラインはきちんと守りながら、実質価格を抑えていることがうかがえる。

12月26日に変わるのは、この買い取り価格の予想方法だ。

ソフトバンクが公開している買取等予想価格。端末購入プログラムを導入しているキャリア各社には、このような予想を公開することが義務付けられている

改定ガイドラインで変わること

これまでは同じ端末でも買い取り価格の予想がキャリアごとにばらついていたため、改定後のガイドラインには、新たに中古携帯電話店の業界団体であるリユースモバイル・ジャパン(RMJ)が公表した平均値を用いることが明記された。

キャリアの下取りとは異なり、RMJの買い取り価格はそこに一定の利益を乗せ、別のユーザーに販売することを前提としたもの。おのずとキャリアが予想する価格よりは厳しめの評価になりがちだ。

例えば、iPhone 16の1世代前にあたるiPhone 15は、10カ月目の買い取り価格の平均が80,114円。Pixel 8はさらに下落率が高く、8カ月目で48,010円まで買い取り価格が下がっている。このままだと、キャリアの買い取り価格が“盛りすぎ”と判定されてしまうおそれが出てくると言えるだろう。現状の価格を維持するためには、本体価格そのものを下げるなど、別の手を打つ必要がある。

改定後のガイドラインでは、RMJの平均値を予想に反映させることになった。その価格一覧は、同団体のサイトで確認できる

昨年は総額での規制が実施されたのと同時に、ソフトバンクが1年での買い替えで実質価格を抑える端末購入プログラムを導入したが、こうした“対抗策”が繰り出される可能性もある。

とは言え、少なくともガイドラインを遵守すると、実質価格が上がってしまう端末は増えてくる。回復し始めていた端末販売にブレーキがかかってしまわないか、注視しておきたいポイントだ。

“値下げ”の可能性も。気になる楽天モバイルの動き

実質価格が上がるおそれがある端末とは逆に、通信料金に対する規制が一部緩和され、お試し値下げがしやすい環境が生まれる。現行のガイドラインでは、契約のインセンティブとして通信料金を直接値引くことが禁止されている。各社がポイント還元やキャッシュバックなどを行なっているのは、そのためだ。改正されたガイドラインでは、6カ月に限り、上限22,000円までのお試し割が可能になる。

総務省の『競争ルールの検証に関する報告書2024』から抜粋。競争促進のため、お試し割を認められた

これが実現すれば、単純計算で、約3,666円まで毎月無料で通信を提供可能になる。お試し割を総務省の有識者会議で提案していたのは、楽天モバイルだ。

同社は、ユーザーの乗り換えを促進する仕組みの1つとして、これを提案。結果として、楽天モバイルに限らず、既存キャリア全体に対して規制が緩和され、お試し割を導入することが可能になった。

提案していた楽天モバイルが、ガイドライン改正でこの仕組みを使わない手はない。

現状では新規契約に対してポイント還元を実施している楽天モバイルだが、これをお試し割に切り替えてくる可能性は高いと言える。

楽天モバイルの料金体系であれば、6カ月間、使い放題の回線を無料にすることもできる。新規参入事業者でエリアや回線品質が多くのユーザーにとって未知なだけに、とりあえず無料で契約できるようになるインパクトは大きい。

楽天モバイルが総務省の「競争ルールの検証に関するWG」に提出していた資料。同社は、ユーザーが気軽に回線を試せるよう、お試し割の導入を求めていた

気になる3社の対応策 MVNOは苦境に?

逆に、ある程度実力が知れ渡っている既存の大手3社は、お試し割を積極的に展開するメリットが少ない。そのため、ドコモやKDDI、ソフトバンクがこの仕組みを活用するかどうかは未知数だ。もっとも、楽天モバイルが「6カ月間無料」などのキャンペーンを展開してくれば、対抗措置を講じる必要も出てくる。最終的には、4社だけでなく、MVNOを巻き込む形で無料合戦が激化する可能性もある。

このお試し割は、1社がユーザー1人に対して1回まで認められており、複数回割引を提供することは禁止されている。一方で、仮に4社がそろって6カ月間のお試し割を導入すると、大手キャリアを6カ月ごとに乗りかえていくだけで、2年もの間、無料で通信回線を利用できるようになってしまう。合理的に動き、無料期間を最大化する“渡り鳥”が増えることは、間違いないだろう。停滞しているMNPの利用が活性化する半面、無料で獲得したユーザーをどう引き止めるかはキャリアにとって頭の痛い問題と言えるだろう。

現状でも、市場に与える影響、特にMVNOへの影響が懸念されており、総務省では実施後に検証を行なう方針を示している

大手キャリア同士でユーザーの奪い合いになるだけでなく、MVNOが大手キャリアの草刈り場になってしまうおそれもある。楽天モバイルが1GB以下0円の「UN-LIMIT VI」を廃止した際には、MVNOへ流出するユーザーが多く、一時は契約者が純減するまでになった。それほどまでに、無料のインパクトは大きい。

特にMVNOは価格に敏感なユーザーを多く抱えているだけに、大手キャリアが禁止されている継続割引などの対抗策を強化してくる可能性もある。この制度をきっかけに、やや沈静化していたユーザー獲得競争が再び激化することになりそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya