石野純也のモバイル通信SE
第64回
買いやすさをアピールしだした“ハイエンド”スマホ AI活用と売り方の変化
2024年12月11日 08:20
OPPOブランドのスマートフォンを日本で販売するオウガ・ジャパンは、12日にハイエンドモデル「OPPO Find X8」を発売する。同社がFindシリーズを販売するのは、約3年ぶり。'21年に投入された「Find X3 Pro」以降、ハイエンドモデルの投入が途絶えていた。今回も、最上位モデルの「Find X8 Pro」は見送られたが、日本市場では久々のFindシリーズなだけに、業界では注目が高まっている。
その間、OPPOは老舗カメラメーカーのハッセルブラッドとの協業を開始しており、海外では、Findシリーズの売りとして同ブランドを冠したカメラが一般的になりつつあった。Find X8でも、ハッセルブラッドとの関係は続いており、カメラの色味や絵作りにはそのノウハウが注入されている。カメラスマホでは、シャープやシャオミが協業するライカの存在感が高まっていたが、Find X8はその対抗馬になりうる存在と言えそうだ。
3年間という「サイクル」とAIの進化
では、オウガ・ジャパンはなぜ3年ぶりにFindシリーズの投入を決めたのか。これは、裏返すと、Find X5シリーズ(ちなみに、X4は欠番。中国でも4は死を意味する不吉な数字と見なされている)やそれ以降のモデルの発売を控えてきた理由にもつながる。
オウガ・ジャパンの専務取締役を務める河野謙三氏は、「(Find X5以降のモデルは)日本で価値を訴求するには弱いと判断した」としながら、次のように語る。
「一番大きいのはお客様からの声で、3年間ハイエンドが途絶えていた。Findシリーズにはグローバルモデルと呼ばれるものがある場合とそうでない場合(中国市場限定のもの)があるが、今回のX8はグローバルで発表した端末。お客様の声におこたえするため、このタイミングで投入した。また、AIというキーワードを掲げたが、メーカーとして、今後3年なり5年なりの方向性が定まったこともある」
一般的な機種変更のサイクルをふまえると、'24年はFind X3 Proを手にしたユーザーがちょうどその検討に入る時期だ。ハイエンドモデルの投入を求める声が高まったのは、必然的なタイミングだったと言えるだろう。また、ハイエンドモデルは、そのメーカーの“顔”ともいえる存在。価格が高いぶんだけ技術の粋を詰め込みやすい。
Find X8も、最上位モデルのFind X8 Proほどではないが、カメラ機能は優秀。特に、望遠カメラは光を2回反射させる「Wプリズム」の採用により、他社のミッドハイモデルと同等の大型センサー(ソニー製のLYT600)を配置することを可能にした。チップセットに「Dimensity 9400」を採用し、処理能力も高めたため、利用できるAIの機能も多い。
'24年はスマホがAIを取り込むことで技術的な転換期に入ろうとしている。河野氏も「これから3年から5年で、スマホはもっとも重要なAIデバイスになる」と語る。この市場環境の変化に合わせ、OPPOは1月に「AIセンター」を設立。端末への実装も急ピッチで進めている。
Find X8では、写真の写り込みを消す「AI消しゴム」が2.0に進化。手ブレした写真をくっきりと補正する「AIぼかし除去」や、ガラスの映り込みを消し去る「AI反射除去」といった機能を搭載している。特に、ぼかし除去はその仕上がりのよさに驚かされたほどだ。
'25年3月以降のアップデートでの対応になるが、AIが文章作成を補助する「AIライター」や「AI文章アシスタント」という機能も利用できるようになる。
こうしたAIの一部はクラウドで実行されるが、レスポンスの高さやプライバシーを重視するようなものはデバイス上で処理されることが多い。そのため、実装はどうしてもハイエンドモデル優先になる。ラインナップの中にハイエンドモデルがないと、転換期に後れを取り、ビジネスチャンスを逃してしまう可能性があるというわけだ。
各社強化するスマホのAI活用 買いやすくなった「ハイエンド」
実際、'24年はサムスン電子がGalaxy S24シリーズで「Galaxy AI」を導入。過去モデルや、フォルダブルスマホにも対応を広げており、登場と同時に日本語にも対応した。対するアップルも、iPhone 16シリーズを「Apple Intelligence」のために設計し、ベースとなるスペックを底上げした。
日本語での対応は'25年になるが、「クリーンアップ」など一部の機能は有効になっている。さらに、シャオミも「Xiaomi 14T/14T Pro」で、日本語対応のAI機能を大幅に強化し、ボイスレコーダーの文字起こしなども可能になった。
OPPOに限らず、Xiaomiやモトローラ、シャープなどがハイエンドモデルを続々投入している背景には、こうした市場の変化があると言ってもいいだろう。また、ハイエンドモデルを買いやすくするビジネスモデルが確立され始めたことも挙げられる。残価設定型のアップグレードプログラムが定着したためだ。
中でも、ドコモやソフトバンクは1年間で端末を返却することで実質価格を抑える仕組みを導入しており、アグレッシブな価格を打ち出すことが多い。極端な例だとソフトバンクが取り扱うXiaomi 14T Proや「iPhone 16」「Pixel 9」などの端末は、12回までの支払いが月額3円に設定されており、その後に下取りに出せば、2万前後でハイエンドモデルを使うことができる。最上位モデルとなると話は別だが、10万円台前半のハイエンドスマホであれば、負担感を抑えながら利用することが可能になったと言えるだろう。
OPPOのFind X8はキャリアでの取り扱いがないため、このケースには当てはまらないものの、IIJmioがMNPでの割引を積み増しており、同社経由で購入すれば3万円ほど安い94,800円で購入することができる。2年間の支払額は毎月3,951円。MVNOならではの安価な通信費と組み合わせれば、大手キャリアより安くハイエンドモデルを維持できる。
スマホのトレンドが変化していることに加え、ハイエンドモデルでも買いやすい仕組みが整いつつある。
もっとも、オウガ・ジャパンはFind X8の販売台数を控えめに見ているようで、FeliCa搭載や国内周波数への完全対応といったローカライズは見送られている。同様に、シャオミも最上位モデルの「Xiaomi 14 Ultra」は、グローバル仕様に近く、おサイフケータイには対応していない。大手キャリアを介さないハイエンドモデルは、こうしたカスタマイズをするコスト的な余裕がないのが現状の課題と言えそうだ。