石野純也のモバイル通信SE

第62回

ドコモが「手に届きやすいプラチナカード」を投入する狙い

ドコモは、dカードPLATINUMを11月25日に開始する。券面は3種類で、縦型も用意した。ブランドはVISAとマスターカードから選択できる

ドコモは、11月25日から「dカードPLATINUM」の提供を開始する。このカードは、「dカードGOLD」より上位のクレジットカードで、ドコモ回線やドコモのサービスを利用した際の還元率が大きく底上げされているのが最大の特徴だ。

毎月20万円以上利用した際には、その還元率は20%まで上がる。また、年間の利用額に応じた特典も400万円で最大4万円相当まで引き上げられる。

目指したのは「手に届きやすいプラチナ」

一部ドコモの料金プランと連携しているのもこのカードの特徴だ。具体的には、「eximoポイ活」を契約した際の還元率が10%まで向上する。dカードGOLDは5%だったため、2倍還元されやすくなる格好だ。還元される上限は5,000ポイントまでと変わらないため、dカードPLATINUMの方が、より早く上限に達しやすくなるということだ。

ほかにも、世界各国の空港ラウンジやレストランでの食事に使える「プライオリティ・パス」(利用は年10回まで)が発行されたり、dカードケータイ補償の金額が最大20万円まで引き上げられていたりと、各種特典はこれまでのdカードGOLD以上に充実している。そのぶん、年会費はdカードGOLDの11,000円より高い29,700円に設定された。

dカードPLATINUMの主なスペック(表組左)。ドコモのモバイル回線やドコモ光に対し、最大で20%還元を受けられるのが大きな特徴だ

プラチナカードといっても特にそのカテゴリーに厳密な定義があるわけではなく、中には年会費だけで10万円を超えるようなものも存在する。こうしたカードと比べると、dカードPLATINUMはやや“庶民的”だ。ドコモのコンシューマーサービスカンパニー クレジットサービス部長の鈴木貴久彦氏によると、意識したのは「手に届きやすいプラチナ」だったという。

具体的には、「楽天ブラックカードや三井住友のプラチナプリファードのような、もうちょっとこういうプラチナがあってもいいんじゃないか」というカードだ。どちらも年会費は33,000円。特定の店舗やサービスで利用すると、ポイント還元率が大きく上がる点も共通している。

「手に届きやすいプラチナ」を目指したという、ドコモの鈴木部長

それでも29,700円という年会費には「賛否両論あった」というが、実際には、ドコモにプラチナカードを求めるユーザーの声も少なくなかったという。鈴木氏は「他社にはもっと夢のあるカードがあり、熱心に使っているとポイントが貯まる。あるいはプライオリティ・パスもつく。もうワンランク上のカードがないのかというお客様の声も多かった」と話す。

現行のdカードGOLDは、年間利用額100万円で1万円ぶんの特典を受けられるが、それ以上はいくら使っても金額が変わらなかった。鈴木氏は、「ここに対する期待も強かった」といい、400万円で4万円ぶんの特典まで用意した。現在は、携帯電話端末代のほか、「いったんはdショッピング、dファッション、高島屋のグルメコンフォートなど使えるが、その中でもっとい商品を出せるようにしていきたい」と語る。

プラチナ100万超えは初? 意欲的な目標とドコモ20%還元

dカードPLATINUMを投入する背景には、dカードGOLDの会員数が1,100万人を超え、利用者層が多様化していることがありそうだ。ドコモの代表取締役社長、前田義晃氏は、dカードPLATINUMの発表時に目標を「3ケタ万」と答えていた。100万契約以上を獲得するということだ。年会費が3万円に迫るプラチナカードの目標として、非常にチャレンジングな数値にも聞こえる。

dカードPLATINUMを披露したドコモの前田社長。目標の契約数は3ケタ万と高い

鈴木氏も、「各社が数を発表しているわけではないので正確なところは分からないが、プラチナの会員向けに発行している会報誌の部数から類推すると、3ケタ万になっているところはなさそう」だと語る。前田氏の発言を聞いて、担当部長として「ドキドキした」というのもそのためだ。

一方で、「dカードGOLDを積極的に使っている方がどのぐらいいるかと言うと、3ケタ万人いる。その方々に使っていただきたいという思いがあり、3ケタ万という数字になった」という。根拠がない目標ではなく、dカードGOLDの利用実態に基づいているというわけだ。dカードGOLDで還元を受け切ってしまった人が、よりお得になるためにdカードPLATINUMに切り替えると考えれば、「道のりは長いが達成不可能な数字ではない」。

dカードGOLD契約者は、すでに1100万を超えている。その中で、より積極的に利用しているユーザーをターゲットにdカードPLATINUMを開発したという

ドコモ回線やドコモのサービスに限定されているとはいえ、20%還元は非常に大きい。例えば、eximoとドコモ光を契約していると、家族割引の「みんなドコモ割」を含めても料金は約9,000円になる。通話定額などのオプションを足していれば、1万円は超えるはずだ。すると、dカードPLATINUMでの還元は毎月2,000ポイント以上になる。年間で24,000ポイントは非常に大きい。

さらに、還元率の高い中部・関西・九州電力エリアでドコモでんきを使っていると、ここにも最大で20%の還元を受けられる。電気代が平均で15,000円程度だったすると、還元額は3,000円。年間で36,000円だ。回線と電気料金だけで、6万円ぶんのポイントを得られる計算になる。ここまで大盤振る舞いして、収益的には問題ないのだろうか。

この疑問に対し、鈴木氏は「年会費でもれなく20%をつけると、大変なことになってしまう」と語る。毎月の利用額に応じて、還元率が変動する仕組みを入れたのはそのためだ。とは言え、入会1年目は全員一律で20%還元。2年目以降も、1カ月ごとに20万円以上利用していれば、20%還元を受けられる。20万円というのは、「すごくdカードを使っている方であれば、なんとか達成できる」金額だという。

一律20%還元は収益的に厳しいとの理由もあり、毎月20万円以上の利用という制限も設けられた。年額に換算すると240万。dカードGOLDの100万円を軽く超えていた人であれば、達成はできない金額ではなさそうだ

目指すはロイヤリティ向上 通信品質改善がカード加入の鍵に

また、収益性よりも、ロイヤリティを高めることに重きを置いていることもうかがえる。鈴木氏は「ここで儲けるというより、特に我々のファンでいただける方に、もっと好きになってもらいたいというのが一番大きかった。収益のところは目をつぶってでも、たさくんのポイントを貯めていただきたい思いがあった」と語る。一言で言えば、「ロイヤルなお客様になっていただきたい」ということだ。

鈴木氏が「通常のプラチナと比べても勝負できるようにしたが、ドコモ回線を持っていただければもっとお得になる」と語るように、ユーザー層として浮かび上がるのは、ドコモの回線やサービスを長く利用し続ける人たちだ。キャリアのクレジットカード事業の中で群を抜いてゴールドカード比率が高いのも、このようなロイヤリティの高いユーザーが支えているからと言える。

とは言え、肝心の通信品質が悪ければ、いくらお得でも“縛りの強化”につながるプラチナカードへの移行に二の足を踏んでしまう人は出てくるだろう。dカードPLATINUMは、eximoポイ活と連動しており、データ通信をたくさん使うユーザーとも相性がいいだけに、なおさら通信品質が重要になる。

目下改善を急ぐドコモだが、Opensignalなどの調査では他社が大きくリードしている状況は変わっていない。年度末までに、ここをどう巻き返せるかが課題と言えそうだ。

通信品質の改善を急ぐドコモ。ネットワークを持っていることはクレジットカード事業にもメリットになる反面、ここが不調だとリスク要因にもなる
石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya