石野純也のモバイル通信SE
第59回
楽天モバイルが「3GB以下」シニアを強化する理由
2024年9月18日 08:20
楽天モバイルは、13日に「最強シニアプログラム」を発表した。「最強家族プログラム」「最強青春プログラム」「最強こどもプログラム」に続く第4弾の実質割引の施策で、今回は65歳以上のシニアが対象。毎月110ポイントの還元を受けられる特典や、110円割引の最強家族プログラムと併用できる仕組みは、最強青春プログラムと同じだが、シニア向けならではの特典も用意されている。
それが、オプションへのポイント還元だ。最強シニアプログラムでは、「15分かけ放題」と「ノートンモバイルセキュリティ」「迷惑電話・SMS対策 by Whoscall」などのセキュリティ系サービスの計4つがセットになったオプションに対し、1,100円ぶんのポイント還元を受けられる。これら4つのオプションパックの料金は2,200円。ポイント還元のため、いったんは料金を払う必要があるが、事実上、半額でオプションを利用できる。
最強家族プログラムで110円割引され、最強シニアプログラムで110ポイント還元を受け、それを料金の支払いに充当した場合、3GBまでの料金は実質858円。ここにオプションを足しても、実質1,980円で利用できる計算になる。65歳以上に限定されてはいるものの、かなり踏み込んだ割引施策と言えそうだ。
シニアの多くは3GB以下。「スマホは怖い」に応える
オプションサービスを還元対象にした理由について、楽天モバイルの共同CEO、鈴木和洋氏は、「私もシニアの1人だが」と前置きしつつ、「同窓会などで友人に聞くと、やはり(スマホは)怖いという声が圧倒的に多い」という。「ウイルス感染や迷惑電話、オレオレ詐欺などがあり、そういう報道もあるため怖いという声が多く、今回のオプションを用意した」と語る。
3G停波などをきっかけに、フィーチャーフォン(ガラケー)から仕方がなくスマホに機種変更したユーザーも依然として多いというのが楽天モバイルの見立てだ。
実際、鈴木氏が発表会で紹介した資料では、60代以下の実に80%が、毎月3GB以下しかデータ通信を使っていない。鈴木氏も「やはり音声通信が中心で、ガラケーからスマホに変えたが、使い方はガラケー時代のままというユーザーが多いのだと思う」と話す。
オプションサービスに15分かけ放題が含まれているのも、こうしたユーザー像があるためだ。
目標ARPUの3000円に近づくオプション展開
また、鈴木氏が「データ量を増やしてARPU(1ユーザーあたりの平均収入)を上げるのも1つだが、オプションもある」と語っていたように、オプションへのポイント還元は、ARPUの向上を見込みやすくなる。仮に3GB以下で収まったとしても、このオプションパックに加入していれば支払額は3,168円まで上昇する。計1,210円分のポイント還元は実施するものの、売上げは見込みやすくなる。
楽天グループの会長兼社長を務める三木谷浩史氏は、決算などの場で、黒字化の目安として800万から1,000万という契約数や、2,500円から3,000円というARPUを挙げていた。この掛け算が実現し、コスト削減が現状通りに進めば黒字になるという計算だ。
一方で、Rakuten最強プランは、20GBを超えると料金が打ち止めになり、その後は3,278円で使い放題になる。そのため、3,000円という目標ARPUを達成するには、ほぼすべてのユーザーが20GBを超えるデータ通信を使う必要がある。ただし、先に挙げたようにシニア層はデータ使用量が少ない。いくらサポートやコンテンツを用意したとしても、そのデータ使用量を一気に20GB超まで引き上げるのは難易度が高い。
これに対し、最強シニアプログラムでオプションまで加入すれば、仮にデータ使用量が3GB以下でも目標とするARPUは超える。必達の目標である黒字化に向け、計算されつくした料金設定になっているというわけだ。
楽天モバイルがシニア獲得に本腰をいれる理由
契約者数に関しても、MVNOやバックアップ回線の合計ながら、すでに785万に達しており、「1,000万契約の大台の背中が見えてきた」(鈴木氏)状況だ。
楽天モバイルはどちらかというと若いユーザーが多く、現状では、「シニア層をまだまだがんばらないといけない」状況だ。逆に言えば、そのぶんだけ「伸びしろが大きい」ため、シニア層の獲得を強化するのもうなずける。最強シニアプログラムは、ARPUを落とさず、ユーザー獲得を伸ばすための方策だというわけだ。
このように見ていくと、一連の「最強○○プログラム」は、世代別の利用スタイルに合わせ、ポイント還元を組み合わせることでより利用を促進するための仕組みであることが分かる。その効果も出ており、最強青春プログラムの対象になる13歳から22歳のユーザーは、毎月の平均データ使用量が44.2GBまで上がっている。これは、楽天モバイル全体の平均である27.9GBを大きく上回る。
結果として、ARPUも全体平均より伸び率が高く、2月と7月の比較では平均が65円増なのに対し、最強青春プログラムの対象は103円と大きく上がっている。データ使用量の平均が全体的に伸びれば、そのぶん目標ARPUを超えるユーザーも増えてくる。加入者獲得にもプラスにつながるため、年齢別に区切ったプログラムは今のところ功を奏していると言えそうだ。
シニア開拓の課題「リアル店舗」
ただ、シニア世代の獲得やサポートには、リアルな店舗が欠かせない。これは、鈴木氏も認めるところで、「オンラインでのサポートが主流になっているが、シニアにとってはちょっと苦手」と語っている。楽天モバイルは848店舗があり、そこでのサポートも十分できるという趣旨でのコメントだが、店舗数やそれぞれの規模に関しては大手3社と比べるとまだまだ開きがある。
端末に関しても、シニアに特化した「らくらくスマートフォン」のような製品を取り扱っていない。楽天モバイルのマーケティング企画本部 本部長の中村礼博氏は、「(オススメに挙げている)『AQUOS wish 4』だと簡単モードに切り替えることで、使い勝手をシニア向けにカスタマイズできる」と語っていたが、一口にシニア世代と言っても幅は広い。
FCNTのらくらくスマートフォンに依然としてニーズがあることからも分かるように、一般向けのスマホだけではカバーできない層も少なくない。音声通話しか使わないというユーザーには、一般的な形のスマホより、Androidなどをベースにしたフィーチャーフォン型端末の方が合っている場合もある。シニア層の獲得を本格化するには、料金以外の魅力も同時に高めていく必要がありそうだ。