石野純也のモバイル通信SE

第11回

新AirPods Proが素晴らしい。本体ボリューム・強力NC・探すが便利

第2世代になったAirPods Proを発売に先立ちチェックした

「AirPods Pro(第2世代)」が、9月23日に発売される。「H2チップ」を搭載し、アクティブノイズキャンセリング(ANC)が従来比で“2倍”に強化されたほか、外音取り込み機能もさらに自然になっているのが特徴だ。バッテリーを兼ねるケースにも改良が加わり、スピーカーが搭載された。これによって、「探す」アプリから「AirTag」のように音を鳴らすことが可能になった。発売に先立ち、このAirPods Pro(第2世代)を試用することができたので、その使い勝手や性能をレビューしていきたい。

音量を上げたいときに上げられるという「便利」

のっけから言い訳になってしまうが、筆者はAV評論家やAVライターのように、音を正確に聞き分け、テキストでそれを描写する能力はない。音質に関しては僚誌AV Watchに掲載されるであろうレビューを参照した方がいいんじゃないかと思っている。AirPods Pro(第2世代)で音楽を聞いても、「何となくよくなってるような気がする」レベルでしか違いが分かっていない。

ただ、それでも、ボーカル、特に低音域の声の解像感が高くなったような印象は受けた。具体的な例で言えば、globeの楽曲を再生したら、小室哲哉のハモリがより輪郭を持って聞こえてきたといった感じだ。ナチュラルで聞きやすい音なのは、初代AirPods Pro譲り。完全ワイヤレスイヤフォンとしては、かなり高レベルなんじゃないかと思っている。

音質は向上した一方で、外観は初代とほぼ同じ。聞き比べる際に混ざってしまい、ちょっと困ったほどである

それ以上に便利になったなと感じたのが、音量の操作。日常的にAirPods Proを使っていると、音量の上げ下げをイヤフォン側でできず、困ることが度々あった。Siriを呼び出せばできないことはないが、街や電車の中でそれをやってしまうと、ちょっと怪しい人に見えてしまうおそれがある。これに対し、AirPods Pro(第2世代)は、ステム(軸の部分)を上下になぞると、音量を調整することができる。

ステムの面積は非常に小さいが、ちょっと触っただけで音量が一気に上がってしまうようなことはなく、思い通りの操作を行なえた。誤検知が全然ない。これは、いい意味で驚きだ。

実は、この操作には、機械学習を活用しており、ユーザーがどう操作するかをチューニングしてきたという。結果として、音量を上げたいときに上げることができ、下げたいときに下げることができる。当たり前のことかもしれないが、ちょっとした誤操作が積み重なるとストレスになる。それがないのは、AirPods Pro(第2世代)を評価できるポイントだ。

ステム部分に設けられた溝を上下にスワイプすることで音量の調整が可能。初代AirPods Proにはなかった機能だ

もう1つ、明らかに分かったのが、アクティブノイズキャンセル(ANC)の効き具合だ。初代AirPods Proの場合、ガヤガヤした街で使うと、どうしてもノイズが残ってしまっていた。特に低音部分が消し切れていなかった気がする。これに対し、AirPods Pro(第2世代)は、静寂が訪れる……とまでは言わないが、さらにもう一段、騒音が消えるような感じだ。初代AirPodsだと残ってしまっていた、低音の雑音まできっちり消えている。元々ノイズキャンセリングに定評のあったAirPods Proだが、その評価をさらに高めることは間違いないだろう。

エアコンの“煩さ”がわかる

ユーザーインターフェイスとしておもしろいのが、Apple Watchの騒音アプリと連動して、どの程度の効果があるのかが可視化されるところだ。実際に、複数のシチュエーションでどの程度、ノイズが削減されるのかを試してみた。まず、エアコンを強風でつけた室内。幹線道路沿いの部屋で、ガラスは防音仕様になっているが、少し車などの外音は入ってくる場所だ。ここでの騒音は、ノイズキャンセリング前が40dB。ノイズキャンセリングをオンにしたところ、これが22dBまで下がった。

Apple Watchの騒音アプリと連携。ノイズキャンセリング時にどの程度まで周囲の騒音を減少できたかを表示できる
強風のエアコンを回した状態の室内。40dBが22dBまで下がった

次に、そのまま外に出てみた。国道沿いで、大型トラックも含め、車がガンガン走っている通りだ。こちらでは、元々の騒音が76dBとかなり高め。あとちょっとで、Apple Watchから警告が送られてくるうるささになる。ここでノイズキャンセリングをオンにしたところ、騒音は52dBまで下がった。先ほどの部屋で何もしていないときよりはうるさいが、外としては驚くような静かさ。外音取り込みにしていないと、ちょっと危ないかなと思うぐらいだ。

こちらは、国道沿いの変化。76dBとかなりうるさいが、ANCによって52dBまで騒音を低減できている

電車の音もかなり消すことが可能。反響が大きく、かなりうるさい地下鉄が駅に到着するときの音も、82dBから57dBまで下がった。地下鉄乗車中は、76dBから53dBまでノイズを削減。エアコン以外は特に大きな音が鳴っていない部屋より、ちょっとうるさいレベルまでは静かになる。音楽をかければ、走行音はほぼ気にならない。耳障りな音が鳴らないため、音楽に集中できるのがうれしい。

今回試した中でもっとも騒音が大きかった地下鉄の入線。82dBが57dBまで下がった

ちなみに、外音取り込みモードの状態でも、うるさい騒音はある程度消すことができた。「適応型環境音除去」という機能が搭載されているためだ。外音取り込み自体も、H2チップの力でかなり自然になっている。

これなら、AirPods Pro(第2世代)をつけっぱなしにしたまま生活することができる。カナル型のため、あまりに長時間だと人によっては耳が痛くなることもあるが(筆者もこれに該当する)、そうでない場合は常時装着し、ウェアラブルデバイスのように利用することもできそうだ。

適用環境音除去に対応しているのも、AirPods Pro(第2世代)ならではだ

ケースを“鳴らせる”から見つけやすい

ケースの改良も、個人的に評価しているポイント。部屋の中で見失ってしまったり、カバンに入れっぱなしにしてどこにあるのかが分からなくなったりしがちなAirPodsだが、AirPods Pro(第2世代)のケースは、AirTagのように音が鳴らせる。音量はAirTagより少しだけ大きめ。似たような音階だが、少しだけ音が高いような気もする。鳴らせば、なんとなくどの辺にあるのかが分かって探す際の手がかりになる。

ケースの底面に、スピーカーが搭載されている。音量はAirTagよりやや大きく、なくしたときに発見しやすくなる

なくさないという観点では、ケースにストラップホールがついたのも評価できる。中身だけがスポッと抜けてしまった場合はどうしようもないが、少なくとも、ケースごと落としてしまう心配は少なくなる。人のAirPods Proと間違えないよう、この部分でパーソナライズすることも可能。細かな改良点かもしれないが、ケースも含めて使い勝手がよくなっている印象を受ける。

紛失防止の観点では、ストラップホールを採用したのも重要な進化点と言える

最大の難点は、その価格かもしれない。円安ドル高が急激に進んだこともあり、AirPods Pro(第2世代)は39,800円と、ワイヤレスイヤフォンとしてはかなり高額になってしまった。ノイズキャンセリングは強力で使い勝手もいいが、なかなか悩ましい値段だ。また、AirPods Pro(第2世代)に限らず、AirPodsは、アップルのエコシステムから外れてしまうと、使い勝手が落ちてしまうのもネック。この価格帯だともう少し広い機器で使いたくなってくるため、Apple Musicのように、他のプラットフォームに接続用アプリを用意するような取り組みにも期待したい。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya