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「自販機の価値を取り戻す」 サントリー、キャッシュレス自販機「ジハンピ」全国展開

サントリーは、自販機事業においてキャッシュレス化を加速するため、独自開発した自販機キャッシュレスアプリ「ジハンピ」対応の自販機を3月より順次全国展開する。2025年中に15万台の導入を目指す。

ジハンピは、既存の自販機に低コストで後付けできる決済端末を用いる。決済には専用アプリ「ジハンピ」を利用。アプリを起動してスマートフォンを自販機にタッチするだけで飲料を購入できる。氏名や年齢、メールアドレスなどの登録は不要で、SMS認証と支払い方法の連携のみで最短60秒で利用を開始できる。

対応する支払い手段は、PayPayやクレジットカード、各種電子マネーなど13種類。さらに、楽天ポイントなど5種類の共通ポイントとも連携し、1本あたり1ポイントが貯まる仕組みも備える。貯めたポイントを使っての購入も可能。最初に決済方法を設定することで、次回以降は購入したい飲料ボタンを押したあと、アプリを起動してタッチするだけで購入できる。

対応する決済手段
対応する共通ポイント

「ジハンピ」でキャッシュレス化を加速

ジハンピは2024年12月に北海道で先行展開され、「早くて便利」「登録が簡単ですぐ使える」といった評価を得ている。先行展開地域に北海道が選ばれたのは、同地域における自販機のキャッシュレス対応が他の都府県よりも遅れていたためで、実証地域としてニーズが高いと判断された。今回の全国展開では、キャッシュレス未対応自販機への不満や、既存のキャッシュレス自販機における操作の複雑さなど、利用者の不便を解消し、利便性の向上を図る。

同社はこれまでも自販機事業の価値向上に向けた取り組みを進めてきた。2022年以降は、1台あたりの売上(パーマシン)向上を目指し、500mlペットボトル商品の投入拡大や自販機専用商品の開発強化、「社長のおごり自販機」や「SUNTORY+」など、法人向けの付加価値サービスを展開。また、AIを活用したルート最適化により、業務効率の改善にも取り組んできた。これらの施策により、既存自販機での売上は3割増、法人向けサービスは1万7,000台超の導入、直販ルートの生産性は25%向上するなど、着実な成果を挙げている。

2025年は、そうした取り組みの次なる一手として自販機の「キャッシュレス化」を戦略の柱に位置づける。「ジハンピ」の全国展開はその中心施策であり、さらなる価値提供と基盤強化を進める方針。

コスト課題を解決 「自販機の価値を取り戻す」

国内の飲料自販機におけるキャッシュレス対応比率は約4割にとどまり、コンビニエンスストアなど他業態に比べて大きく後れを取っている。サントリーが実施した調査では、「財布を持ち歩いていなかった」「小銭を使いたくなかった」などの理由から、キャッシュレス非対応の自販機で購入を断念した人が約3割にのぼった。このように、現金決済しか対応していないことが、機会損失やユーザーの不満につながっている実態がある。

一方で、自販機のキャッシュレス対応が進まない最大の要因は導入コストの高さにあった。従来のキャッシュレス端末は高機能かつ高額で、導入には専門業者による設置作業が必要となり、一定以上の売上が見込める設置先に限定されていた。サントリーはこの課題を解決するため、約3年をかけてジハンピを独自開発。スマートフォン側の機能を活用することで、自販機側の受け端末をシンプルかつ低コストに抑えることに成功した。これにより、既存の自販機にも約5分の作業でジハンピの決済端末を後付け可能となり、広範囲への導入が可能となった。

既存の自販機にも取り付けられる

開発を主導したサントリービバレッジソリューション 副部長の井上尊之氏は、「本来、自販機は“どこでもすぐに買える”というシンプルな体験が価値。キャッシュレス化の遅れや操作の煩雑さでその価値が損なわれていた」と語る。現場で何十人もの購入を諦める人を目の当たりにし、「これはもう自販機ではない」と感じたことが開発の原点だったという。

サントリービバレッジソリューション 副部長 井上尊之氏

対応端末の開発には、異なるメーカーや年式の自販機への対応など多くの課題があったが、「とにかく自販機をいじり尽くし、検証を重ねた」と井上氏。少人数のチームで3年をかけて開発されたジハンピには、「もう一度、自販機の価値を取り戻したい」という現場発の強い思いが込められており、登壇中涙ぐむ場面がみられた。

なお、「ジハンピ」アプリのダウンロード後、支払い方法を連携すると、対応自販機で300円以下の飲料3本を無料で引き換えできるキャンペーンも実施中。

左から、サントリービバレッジソリューション 社長 森祐二氏、同社 副部長 井上尊之