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アプリ決済手数料は本当に安くなるのか 新決済サービス「S8 Payment」
2025年1月23日 20:50
ゲームエイトとソニーペイメントサービスによる合弁会社「S8 Plus」が設立され、スマートフォンの“アプリ外課金”などを手がける事業と、決済サービス「S8 Payment」が開始された。2024年6月に成立したスマホソフトウェア競争促進法を受け提供されるサービス。申し込み受付が開始されており、2月以降に提供を開始、エンドユーザーが利用できる最終サービスは3月以降の立ち上げを見込む。
「S8 Payment」は、「S8 Shops」と「Game8 Store」の2つのサービスからなる総合決済サービス。ゲームをプレイするエンドユーザー向けには、ゲームの公式サイトやゲーム攻略サイト「Game8」(ゲームエイト)を通じてアイテムがシームレスに購入できると謳う。アプリ内アイテムだけでなく、Steamなどのゲーム本体のダウンロードキーの販売にも対応する予定。
「S8 Shops」はゲームパブリッシャー(ゲームメーカー)向けのサービスで、アプリ外課金に対応する決済サイトをワンストップで構築・運用できるようになる。独自に構築するよりコストを抑えられるほか、外部サイトに遷移することなく、ゲームタイトルの公式Webサイトの中で展開するといったことが可能。
「Game8 Store」は、ゲーム攻略サイト「Game8」と連動するサービス。Game8のゲーム情報の記事の中に、アイテムを購入できるボタンを設置でき、ゲーム内通貨などの購入が可能。また、PC向けゲーム販売プラットフォームのSteamとも連動でき、Game8内でSteamキーを販売できる。
ゲーム攻略サイトのGame8は、月間5億PV、4,200万UU(ユニークユーザー)の規模で、ゲームパブリッシャーにとっても収益機会が拡大すると訴求している。
一方で、エンドユーザーに対しては、安全策としての購入制限とその方針を策定していることも案内している。ゲーム内に購入制限がない場合、15歳未満は毎月5,000円まで、16歳以上18歳未満は毎月1万円まで、19歳以上は制限なしとなっている。ゲーム内に購入制限がある場合、そのまま適用される。上限まで購入済みの場合、Game8 StoreやS8 Shopsで追加の購入はできない。
4年半をかけて開発 ゲームメーカーを支援
ゲームエイト 代表取締役社長 CEOで、S8 Plus代表取締役社長に就任した沢村俊介氏は、半年前の2024年6月に成立した法がベースになっているものの、4年半前からこの領域の事業の検討をはじめ、長い時間をかけて開発してきたと説明した。
また、1.2兆円ともいわれるアプリ課金の決済市場がAppleやGoogleなど海外資本によって独占されていることは、日本の「デジタル赤字」の一因と指摘。数%を獲得するだけでも大規模で、早期のシェア獲得を目指す。
アプリ外課金をすでに発表している他社は最低5%など手数料の低さをアピールするところもあり、過当な切り下げ競争も懸念されるが、「30%からは減るが、身を削るような数字にはならないだろうし、そうならないようにしたい。ポイントでユーザーに還元するなど、我々を選んでもらう価値を提供する。(楽天などモール型の)EC市場で一般的な8~10%程度に落ち着くのではないか」(沢村氏)との見方を示している。
沢村氏はS8 Plusの今後の展開について、ゲームパブリッシャーが課題として挙げることも多いという海外展開も、決済を含めて一気通貫でサポートとしていく方針を表明している。また、スマートフォンのゲーム以外にも、例えばクリエイターの活動に対する投げ銭やアイテム購入に対応することも構想しているという。決済手段については、クレジットカード以外に拡大していく展望も語られた。
事業は決済手数料だけでなく、マーケティング支援を含めた総合的な収益で判断していく方針。「業界が活性化すれば、果実は大きくなる。ただ、(影響力を行使して)第二のアップルになったら『おまえらなんやねん』という話になる」(沢村氏)と、二の轍は踏まないというスタンス。セキュリティ面では、AppleやGoogleなどに劣った結果「破壊されたら意味がない」(同)として、実績のあるソニーペイメントサービスと組んだ。
ソニーペイメントサービスは、各カード会社と直接接続する体制を構築して高速な処理を可能にしているなど、付加価値を高めた決済代行サービスを提供しているのが特徴。異業種であるゲーム業界との事業は意外性をもって受け止められているが、業務提携にとどまらず合弁会社の設立に至ったのは「強くコミットした形」(ソニーペイメントサービス 取締役専務執行役員の溝口純生氏)という。「物の販売は飽和状態だが、ゲーム・エンタメ業界はまだまだ成長する。我々の成長にとっても必要なビジネス」(溝口氏)と、同社にとっても重要な事業であるとしている。
課金が自由になったスマホ市場
スマートフォンアプリにおいて、アプリ内でサービスを購入する、ゲームのアイテムを購入するといった課金・決済サービスは、iOSならApple、AndroidならGoogleといったように、これまではプラットフォームを提供する企業が独占していた。
例えばゲームアプリなら、ダウンロードや基本的なプレイは無料で、より深く楽しむ場合はアプリ内課金を利用してゲームアイテムを購入するといったモデルが定着している。これはグローバル市場でも同様で、昨今では、ダウンロード販売やアイテム課金の決済手数料として最大30%程度(15~30%)をプラットフォーマーが徴収する仕組みが「高すぎる」として、アプリ提供側に不満がくすぶっていた。また、規約などで“アプリ外課金”を認めなかったことで、AppleとGoogleが決済関連市場を独占する閉鎖的な環境が構築されていた。
2020年にEpic GamesとAppleの間で起こった騒動は、そうした潜在的な不満が表面化した象徴的な例になった。Epicは、AppleとGoogleに対して起こした、30%の手数料が違法に高いとする米国での裁判に勝訴。一連の騒動はAppleとGoogleによるスマホ関連市場の独占という大きな影響力に対して厳しい目が向けられるきっかけになり、欧州のデジタル市場法(DMA)など、厳しいビッグテック規制に先鞭をつける形にもなった。日本でも同様の規制案が立ち上がり、成立に至ったのが、スマホソフトウェア競争促進法となる。
スマホソフトウェア競争促進法の中では、課金システムの強制が禁止されており、ユーザーに選択肢を提供して競争環境を促進するという内容。
こうした市場環境の変化を受けて、スマホアプリ向けの“アプリ外課金”の決済事業として開始されるのが、S8 Plusによるサービスで、基本合意や取り組み自体は2024年9月に発表されていた。
アプリ外決済の市場を狙う事業は他社でも始まっており、例えばGMO TECHの「GMOアプリ外課金」、デジタルガレージの「アプリペイ」などがすでに発表されている。