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PCのモバイル回線で覇権を狙うKDDI “買うだけで使い放題”

KDDIは、法人向けサービスとして、メーカーが製品と通信を一体化して提供でき、顧客は製品を買うだけでモバイル通信が使い放題になるサービス「ConnectIN」(コネクティン)の提供を開始した。まずはノートPCを開発・販売するメーカーが「ConnectIN」採用PCを法人向けに展開するほか、対象はIoTを含めたほかの分野にも拡大していく方針。

「ConnectIN」は、eSIMを活用し、メーカー企業がKDDIのモバイル回線(WAN回線)を製品に一体化して販売できるようになるサービス。

第1弾では、ノートPCのメーカー企業向けに、WAN回線にまつわるシステムやサービスをまるごと提供して、通信料を請求せず、販売台数からレベニューシェアをするという新しい方法を採用している。

「通信だけで競合と戦う時代ではない。新しい時代の新しいビジネスモデル」(KDDI 執行役員常務 ビジネス事業本部 副事業本部長の那谷雅敏氏)というスタンスで、通信を部品のようにサービスに組み込み、KDDIがかねてから法人向けに訴求している「通信の一体化」「通信が社会基盤に溶け込んでいく」を具現化して、ノートPCにおけるモバイル回線の覇権を取りにいく構え。

「ConnectIN」を発表したKDDI 執行役員常務 ビジネス事業本部 副事業本部長の那谷雅敏氏

採用が決定したノートPCメーカーは、ダイワボウ情報システム、Dynabook、レノボ・ジャパン、パナソニック コネクト、VAIO。ダイワボウはオリジナルの「ConnectIN」対応PCを展開する予定。また日本HPは先行して協業しており、採用済みとなる。Dynabookは対応製品を発表、受注を開始している。

ノートPCのeSIM搭載モデルは市場の10%程度にとどまるが、このうち上記の「ConnectIN」賛同メーカーによるシェアは合計で8割に及ぶとし、売上は早期に100億円以上を目指す。

Dynabookの法人向け新製品
eSIMでau回線に接続されている

買うだけでモバイル回線が使い放題

「ConnectIN」を採用すると、従来ならメーカー企業が行なう、法人向けの通信回線の手配や管理、運用、不正利用防止法対策の確認やルール作り、イレギュラー対応、データベース構築やシステム開発といった、煩雑でコストもかかる部分が、すべてKDDIから提供される。メーカー企業はKDDIから回線を卸提供されるMVNO事業者になる一方、これらの初期投資がゼロでWAN回線対応製品を展開できる。

その通信サービスも、製品のメーカーの保証やサポート期間と連動させ「4年間使い放題」などの形で提供される。通信サービスの内容はメーカー企業とKDDIが協議して、法人向けに設計し販売する。回線の利用状況などは管理者用サーバーや月次レポートがKDDIから提供される。

ConnectINのビジネスモデル
メーカー企業のメリット
製品を購入した企業のメリット

現在のところ、4年間や5年間といった「ConnectIN」の通信サービスが利用できる期間を延長するプランは検討されておらず、メーカー企業はノートPCの保証やサポート期間の終了に合わせて、ノートPC自体の入れ替えを提案していく方針。なお、搭載のeSIMを利用して、ほかの通信事業者のサービスを契約すること自体は可能だが、その場合は「ConnectIN」のサービスの対象外で、従来同様にエンドユーザーが管理し通信料金を支払う。

KDDIとメーカー企業は販売台数に応じたレベニューシェアの契約を結び、メーカー企業やノートPCを使う顧客企業に対して通信料は請求されない。

「ConnectIN」対応のノートPCを購入した企業(PCメーカーの顧客)は、対応ノートPCを購入するだけで、毎月の通信料金を支払わずに通信を利用できる。通信費用に関する管理業務が不要になるほか、年度の予算確保も不要になる。

また、ノートPCを含めたデバイスは、接続する操作が不要で、常時接続で運用できるため、リアルタイムにデータを更新したり受け取ったりする使い方も可能。AIの活用を含め、クラウドやエッジコンピューティングへの対応も容易になるとする。

メーカー企業の初期投資がゼロで、WAN回線対応により製品の付加価値を高めるとする
導入企業では管理の効率化も

法人ノートPCに「理想の環境」

今回展開される「ConnectIN」は、先行して日本HPと協業して提供、KDDIとして「非常に手応えがあった」(KDDI那谷氏)ことから、本格展開に至ったという。

Dynabookは「ConnectIN」が発表された21日、WAN回線が4年間使い放題の新製品を発表し、受注を開始している。VAIOは通信が3Gの時代からWAN回線にこだわってきたとして、「空気のように使える。より理想の環境に近づいた」(VAIO 取締役執行役員 開発本部長の林薫氏)と後押ししている。

VAIOの法人向けノートPCは、市場全体と比較して大きく伸長。無線WAN搭載率は30%を超えているという
左から、Dynabook 常務執行役員 国内PC事業本部長の渋谷正彦氏、KDDI 執行役員常務 ビジネス事業本部 副事業本部長の那谷雅敏氏、VAIO 取締役執行役員 開発本部長の林薫氏

KDDI傘下でIoT向け通信サービスを提供するソラコムとの住み分けについては、ソラコムは海外に強い通信サービスであり「カニバるものではない」(那谷氏)とする一方、「ConnectIN」での展開を含めて、ビジネスプラットフォームのWAKONX(ワコンクロス)の一環としてソラコムのサービスを提供していく方針。

「ConnectIN」はノートPCだけでなくさまざまなデバイスやIoT領域でも展開する

なお、コンシューマー向けでは、ノートPCに搭載のeSIMをターゲットにした通信サービスを「povo」を含めて検討中としている。ただしサービス内容は今回発表のものとは異なる見込みで、通信料をエンドユーザーが支払う一般的なものが想定されている。一方、例えば「購入から1年間は使い放題」といった、メーカー製品に付加価値を付けるような展開は考えられるとしている。