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ソニーのWeb3始まる。共創と“証明”の「推し活」新時代

左からソニーグループ 執行役副社長CSOの御供俊元氏、トークセッションに参加したタレントの高山一実、S.BLOX 代表取締役社長の渡辺潤氏

ソニーグループ傘下でブロックチェーン関連事業を手がける3社(Sony Block Solutions Labs、S.BLOX、SNFT)は、ブロックチェーン技術を中心とした包括的なWeb3ソリューションの提供を開始した。具体的なサービスは今後、順次案内される見込み。1月14日には都内で発表会が開催され、ソニーグループとしてWeb3を手がける理由、方針などが語られた。

ソニーグループはこの日、Web3事業の本格的な取り組みの第一歩として、ブロックチェーン事業、暗号資産交換業、NFTマーケット事業への参入を表明した。

2024年8月に発表していたパブリックブロックチェーンの「Soneium」(ソニューム)が一般公開されたほか、2023年にグループに入ったS.BLOXの暗号資産取引サービスのリニューアル、SNFTによるNFT発行プラットフォームの提供が開始されている。

Web3で「感動の共有」が進化する

Web3と呼ばれる、ブロックチェーン技術や暗号資産、NFTをはじめとしたトークンなどの技術は、次のインターネットの中心になると見込まれている領域で、開発や試行がさかんに行なわれている段階。ただし、暗号資産のビットコインや、デジタルアートに紐付けたNFTは、展開初期の非常に激しい値動きやNFTアートの暴騰で耳目を集めたこともあり、この分野全体に投機的な商品というイメージがつきまとっている。また、法整備が追いついておらず、ユーザー保護の観点からも多くの課題が浮かび上がっている状況。

一方近年では、日本国内の暗号資産取引所は金融庁の管轄下で運営されるようになっているほか、NFTやトークンの開発では、“投機的商品”とは距離を置いた、さまざまなユースケースが開発されている。与党をはじめ政策現場でも暗号資産の税制上の議論が始まっており、多方面で普及に向けた土壌作りが進んでいる段階。

発表会に登壇したソニーグループ 執行役副社長CSOの御供俊元氏は、「ソニーがなぜWeb3? と、疑問に思われる人がいるかもしれない。Web3が、過去においては、投機的で、マネーゲームのツールとして過剰に取り上げられたことも原因」と、Web3のイメージに対する誤解を指摘する。

「ソニーのWeb3は、そのような世界ではない」(御供氏)

ソニーグループ 執行役副社長CSOの御供俊元氏

御供氏は、所有者とその変遷をサインで証明するという発想は、日本の古い茶器の箱や中世ヨーロッパの絵画の「裏書き」に通じるもので、その文化的な価値を高めることに寄与したと指摘。「ブロックチェーンやWeb3はこれらに非常に似ている」とし、文化的な活動における普遍的な側面を含んでいるとする。

インターネットやSNSが普及した現在は、映画・アニメ、ゲームといったエンタメ体験の感動を手軽にSNSなどで共有できる環境が実現している。感動を共有したり証明したりしたいという気持ちは、前述のように中世から普遍的なものとし、エンタメを提供しているソニーグループは、これらの感動の共有を安心して行なえるような技術(Web3技術)を提供することが重要とする。

またこれらはソニーグループで閉じた取り組みではなく、「志を同じくする他社パートナーとともに実現していく」(御供氏)と、オープンなスタンスで取り組んでいくことも語られている。

「これからは、共有で感動の輪が広がるだけでなく、自分が応援する対象の価値をさらに高められる。一緒に応援することが、新たな価値の創造につながる。ソニーとして、安全で安心して利用できるWeb3インフラを提供することが肝要」(御供氏)と説明されたように、エンタメ体験のさらなる進化には、所有や証明の技術をはじめとするWeb3のテクノロジーが重要で、これが、ソニーがWeb3を手がける理由とした。

クリエイター・ファンの双方がWeb3でつながる

S.BLOX 代表取締役社長の渡辺潤氏は、ソニーグループ傘下に加わりWeb3事業の一角を担うS.BLOXの今後の方針や、クリエイターとファン活動の双方の進化という、ソニーグループがWeb3事業でフォーカスする領域について説明した。

S.BLOX 代表取締役社長の渡辺潤氏

Web3を活用すると、例えばコンサートを観た回数など、ファン活動やコミュニティへの貢献度合いが可視化され、他人からも見えるようになり、ブロックチェーン上に時系列で保存され、活動を証明できるようになる。

従来のクリエイターとファンの共創
貢献度合いは可視化されづらい
Web3では活動が記録され証明できる
さまざまな活動を記録できる

ファンが具体的な見返り・報奨を求めていなくても、活動の可視化はモチベーションを高めることにつながるとするほか、こうした活動や貢献度はクリエイター側も確認できるため、クリエイターとファンの共創を促すことにつながるという。

トークンなどを活用しクリエイターとファンの共創を促すことが可能
トークンの例

現在、アーティストやクリエイターを応援するファン活動(推し活)とWeb3は別々に存在しているが、それらをつなげる機能を提供していくのがS.BLOXの活動とした。ソニュームのネットワークを活用したNFTの配布なども行なっていく予定。

S.BLOXが手がけてきた従来の暗号資産取引サービスは継続する一方、ソニーのWeb3展開に合わせてサービスのシステムやUIがリニューアルされ、取引サービスの名称も「WhaleFin」から「S.BLOX」になる。今後はモバイルアプリをリリース予定で、対応通貨も拡充する方針。暗号資産取引サービスはハッキング被害が度々報告されることから、セキュリティ面の強化も継続して行なう。

S.BLOXの今後

また、SNFTからは、NFTを活用した「Fan Marketing Platform」が発表されており、2月から提供が開始される。法人向けのプラットフォームで、NFTを活用してファン向けの施策から分析までをワンストップで提供するソリューションになっているほか、ユーザーもWebウォレット機能で簡単にサービスを利用できる。

「Fan Marketing Platform」は企業がファン向けにNFTやトークンを発行できる

この「Fan Marketing Platform」はソニーグループでも以下のように活用する。

  • ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント:Prime Videoで対象作品を購入した人を対象に、限定コンテンツへのアクセス権を無料でプレゼントするキャンペーン(日本国内)
  • Sony Music Entertainment France:ミュージック&Web3 コミュニティ「Sunny B. 1991」の2周年記念で、コミュニティメンバーのみを対象に限定NFTを配布する実証実験
  • ソニー・ミュージックパブリッシング:ガールズグループ「SANDAL TELEPHONE」のライブイベントと連携した限定NFTの配布キャンペーン(日本国内)

渡辺氏は、現在のWeb3の普及の度合いについて、暗号資産のアクティブユーザーが伸びるペースは、インターネットが大きく伸びていた時代とほぼ同じとし、「2001年のインターネットぐらい」と例えている。

ビッグ・テックや中央集権型の巨大な経済システムを生み出した“Web2”(現在のインターネット)とは異なり、Web3の中心であるブロックチェーンと、ブロックチェーンの概念を披露した上で公開されたビットコイン、そこから派生したさまざまな暗号資産やWeb3関連技術の多くは、ひとつの企業あるいは国家などに支配されない、「非中央集権型のシステム」が強く志向されている。

「このペースで使う人が増えていくと、より非中央集権型のシステムに合わせた仕組みが必要になる」(渡辺氏)というように、「ソニーのWeb3」においても非中央集権型のシステムは尊重しながら、ソニーグループならではの体験の質の高さや共創、付加価値の拡大に取り組んでいく方針。