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コクヨ、利き手を問わないハサミ 左利きでも切りやすい
2024年12月4日 09:00
コクヨは「ハサミ<サクサ>」シリーズから、利き手を問わない切りやすさを実現する「傾斜インサート」を搭載した4種類を12月11日に発売する。ラインアップはスタンダード刃、グルーレス刃、フッ素・グルーレス刃、チタン・グルーレス刃で、価格はそれぞれ480円、630円、980円、1,270円。
サクサは厚いものから薄いものまで軽い力で切れるという「ハイブリッドアーチ刃」が特長のハサミ。今回、もっと快適な“切る”体験を届けるためにリニューアルする。
左利きの開発者が使いやすいハサミを求めて
リニューアルではハサミ業界で初めて、ハンドルに対して刃を傾けて成形する「傾斜インサート」構造を搭載した。
一般的にハサミで対象物を切る際は、刃と刃の隙間が少ない方が、切れ味が良くなる。そのため使用者は無意識に、刃と刃の隙間が少なくなるように、自身で左右の刃を近づけるための調整をする傾向があるという。これに対し、傾斜インサート搭載により、ハンドルを開閉するだけで刃と刃の隙間が自然と小さくなることを実現した。
切断する際の刃と刃の隙間が抑えられるため、対象物の噛み込みを軽減し、滑らかな切れ味が維持でき、厚手のものから、ビニールや湿布のような薄手のものまで快適に切れるとしている。
基本構造は右利き用ハサミと同様ながら、利き手を問わず切れることも特徴。左利きの人は日本人口の約10%で、コクヨの推計では、左利きの人の約94%、約1,128万人の人が右利き用ハサミを工夫しながら使用していると見ている。リニューアルしたサクサでは、利き手を問わず切りやすいため、家族や職場に左利きの人がいても同じハサミを共有して使える。
今回の傾斜インサートの開発者自身が左利きであり、これまで使いやすいハサミに出会うことができなかった経験から、「利き手を問わないハサミづくり」に取り組んだ。
カラーは、スタンダード刃がライトブルー、ライトピンク、グレージュ、グルーレス刃とフッ素・グルーレス刃がブルー、ブラック、ホワイト、チタン・グルーレス刃がブラック、ダークブルー、ホワイト。4種類のそれぞれの特徴は以下の通り。
- スタンダード刃:薄いものから厚いものまでしっかり切れる
- グルーレス刃:テープを切ってもベタつきにくい
- フッ素・グルーレス刃:のりの汚れとサビに強い
- チタン・グルーレス刃:耐久性が高い
傾斜インサートの開発においては、多様な特性を持つユーザーとの対話とワークショップによるインクルーシブなものづくり「HOWS DESIGN」を取り入れており、その背景として、ハサミが必ずしもすべての人にとって使いやすい道具ではないことがある。
特に、力が弱かったり、利き手用でないハサミを使用するユーザーは余計な力がかかったりと、切りづらさを感じるという。サクサシリーズではこういった視点を取り入れ、傾斜インサートの標準仕様化をはじめ、快適な“切る”体験の提供を目指す。
なお、サクサシリーズではハイブリッドアーチ刃とストレート刃をラインアップしているが、今回のリニューアルの対象はハイブリッドアーチ刃のモデル。
障がい者を意識した開発から万人に使いやすい製品につなげる
コクヨはHOWS DESIGNについて、メディア向け説明会を実施した。
コクヨは重点課題の1つとして「社内外のWell-beingの向上」を掲げており、インクルーシブデザインの商品開発もその取り組みの一環。障がいを持つ人をはじめとした社会の様々なバリアに阻まれている当事者が、製品デザインの初期段階から参画している。
HOWS DESIGN製品として傾斜インサート構造を搭載したサクサのほか、カフェチェアー<Hemming(ヘミング)>、持ちやすいバンド付きIDカードホルダーがある。
ヘミングは「座り心地」だけでなく、椅子を引く、立ち上がるといった動作の「使い心地」に着目しており、手足に不自由のある人でも使いやすいデザインを採用。片手でも引きやすいハンドルデザイン、身体を横に向けやすく立ち上がりやすい座面形状などの特徴を持つ。
持ちやすいバンド付きIDカードホルダーは、上肢障がいユーザーの「ホルダーが掴みづらい」という課題から、手を入れる・掴む・引っかけるなど多様な持ち方に対応するバンドを開発した。大きな荷物等で両手がふさがっていてもタッチがしやすい点も特徴としている。
こういった製品の開発に参加しているのが、障がいのあるコクヨ社員。法定雇用率を遵守し、それぞれの特性に合わせた任務についてもらうだけではなく、開発に関わってもらうことで、新たな価値を創出することを目指している。そのためにまず社内に「HOWS PARK」という実験の場を構築した。
こういったコクヨの取り組みでは、「こういう人にはこういう物が必要なのではないか」という仮説からではなく、障がいのある社員の参加により「社会のバリアを見つける」ことからスタートする。
また、従来の開発対象は平均的なボリュームゾーンのユーザーを対象としていたが、インクルーシブデザインの対象は高齢者や障がい者など「極端ユーザー」。そこからより多くの人に広げていき、障がいを持っていない人にとっても使いやすい製品にするという考えに基づいている。
例えば社会で広がっている「段差をなくす」という取り組みは、多くの人にとって価値のあるものとなっている。製品でいえば、ナイキが手足に障がいのある青年からの手紙をきっかけに、手を使わずに着脱できるシューズを開発。これは障がいの有無に関わらず、急いでいる時や、子供や荷物で両手をふさがれている時も有用であり、現在では他のメーカーから発売された手を使わずに着脱できるシューズが人気を博している。
一方で、新しいハサミ<サクサ>の開発スタートはHOWS DESIGN立ち上げ前だったため、障がい者にとっての使いやすさではなく、あくまで左利きの人の使いやすさから始まっている。
開発を進める中で、上肢障がい者にも試用してもらいながら7種類を試作。より多くの人にとって使いやすいハサミの製品化に至ったという。
コクヨではHOWS DESIGNから生まれたプロダクトやサービスに対してロゴマークを付け、こういった取り組みから生まれた製品であることの認知拡大を図る。
インクルーシブデザイン製品としてファニチャー事業において、高次脳機能障がい者とともに自然なコミュニケーションを誘発する家具の開発を、'25年6月発売に向けて進めている。そのほか、上肢障がい者と開発した差し込みやすい電源コンセントを'24年12月に、下肢障がい者と開発したつかみやすい肘フレームが特徴のチェアーを'25年2月末に発売予定。
そのほか、BtoB事業を展開するカウネットでも、「取り出しやすいシリーズ」や「視認しやすいシリーズ」を発売している。
またコクヨでは、多様な消費者に商品の価値が伝わりやすいパッケージを目指し、多言語表示や音声で情報を認識できる「アクセシブルコード」をサクサを含めた一部商品で採用した。スマホで二次元バーコードを読み取ることで、その端末の設定に応じた言語で商品の内容を表示し、音声化して読み上げることができるもので、視覚障がいのある人や外国人、高齢者などでも商品を理解し、安全に使えるとしている。