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電動キックボード「Lime」本格展開 年内10倍、関東から拡大

Limeの電動シートボードと電動キックボード

電動キックボードのシェアリングサービス「Lime(ライム)」は6日、日本での事業展開を説明した。8月19日に東京6区で日本事業を開始しているが、安全を重視した取り組みとともに、2025年3月までに関東の主要都市へ拡大し、2030年の全国展開を目指すと発表した。

電動マイクロモビリティのシェアリングサービス「Lime」は、街中に設置されたポート(駐輪場)にある電動キックボードや電動シートボードを、専用のアプリから予約して乗車し、目的地の近くにあるポートに返せる近距離移動のシェアリングサービス。世界280都市で展開している最大手だが、日本での本格サービスを開始する。

8月19日のサービス開始時には、東京都渋谷区、新宿区、目黒区、世田谷区、豊島区、中野区の6エリアに約40のポートを設置し、計200台の電動マイクロモビリティを投入。料金は30分490円~、もしくは基本料金100円+30円/分。30分(490円)や60分(890円)などの時間固定料金の「Limeパス」を特徴的な体験としてアピールしている。

「シートボード」で長距離移動

モビリティは、立って乗る「電動キックボード」のほか、国内で初めて「座って乗る電動シートボード」を提供。専用のアプリから予約して乗車し、目的地の近くにあるポートに返却する。

Limeの車両は、自社設計、生産管理を行なっており、特定小型原動機付自転車に該当する。安定性を高めるため、車輪は一般的な電動パーソナルモビリティと比較して150%大きく、縁石に乗り上げても危険を回避しやすいように設計。Limeの旧型車両より車体の重心を低くすることで安定性を高め、乗り心地の良さも追求しているという。

キックボードとシートボードは、Gen4.1と呼ばれる世代のもの。いずれも最高速度は通常モードが時速20km、歩行モードが時速6km。バッテリー容量は18.3Ah。

着座式のシートボードはキックボード式と比べてより安定感があり、座って乗ることから疲れにくく自転車に似た感覚で運転可能。買い物袋など荷物を置く収納スペースも設けている。

電動シートボード

タイヤもキックボードとしては口径が大きく安定性を重視。また、取外し可能なバッテリーや再利用可能なモジュール化部品や設計などにより、安定性のほか“整備しやすさ”を向上。このことが車両のコスト競争力や運用のしやすさにつながっており、Limeの特徴になっているという。

電動キックボード

キックボードはLUUPと比べると大型だが、海外での実績がある、安定性・安全性を重視した設計。日本の特定小型原付の規制にあわせるため、ハンドル部を短くするなどの修正を加えているという。

なお、他の国では電動自転車も展開しているが、日本の投入は見送った。理由は、「車両が欧米向けで大きく重いため。日本市場では、日本向けに改良したものを提供したい」(Lime カントリー・マネージャー兼アジア太平洋地域統括責任者 テリー・サイ氏)という。

8月19日のサービス開始から数週間の実績では、利用者の7割が電動シートボード、約3割がキックボードとなっているという。また、他社のサービス(LUUPと思われる)の平均距離は2km程度だが、電動シートボードは乗車距離が長く、長時間利用されており、最も長い移動では19kmというデータもあるという。「シートボードでは、座って乗りやすいので、長距離の移動に使われるという仮説を検証できた(Lime テリー・サイ氏)」。

ヘルメット着用を推奨

Limeでは、ヘルメットの着用を推奨。安全策として、「ヘルメットセルフィ」機能を搭載しており、ヘルメットを被った自分の写真をアプリ経由で送ることで、通常料金から10%割引する特典が受けられる。

乗車前には安全教育を受講し、理解度を確認するため、Limeアプリで事前の安全テストに合格する必要がある。サービスの悪用や、継続的な交通ルール違反のあるユーザには、違反金、利用停止、退会措置を行なう。

6日には三井住友海上火災保険と、電動マイクロモビリティシェアリングのエコシステム構築を目的とした、包括連携協定を発表。安全な電動マイクロモビリティの普及に向けて、利用者に対する損害保険の提供などで協力していく。

具体的な協力内容は以下の通り。

  • 利用者に対する損害保険の提供
  • 安全講習会の開催
  • 電動キックボード等の利用ガイドブックの共同制作
  • 三井住友海上のネットワークを活用したポート設置の展開
  • 三井住友海上の自治体とのネットワークを活用した地域展開

Limeの利用者向けには、損害保険が用意されるほか、ポートの開拓などでも協力。三井住友海上のビジネスマッチングを活用し、Limeの電動キックボードのポートの提携企業などでの設置を促していくなど、利用者利便性と稼働率向上でも連携していく。

三井住友海上火災と包括連携

LimeはEスクーター会社 2030年全国展開へ

Limeの親会社Neutron Holdingsのウッディ・ハートマンCOOは、Limeのミッション「電動マイクロモビリティを公共交通手段として発展させ、カーボンフリーでサステナブルな未来をつくる」と紹介。280以上の都市で展開し、総走行距離10億km以上、20万台の車両、6億回の乗車、7,500万ユーザーなど、膨大なデータと実績を紹介し、「東京でサービスを開始できることを嬉しく思う」と言及。CO2の削減効果についても、5.5万トン以上と強調する。

また、Limeについては、自社でモビリティに投資する「Eスクーターカンパニーだ」と強調。電動キックボードと電動シートボードは、第4世代のモビリティで常に改善を重ねていることと、自社設計により、都市のニーズに合ったモビリティ展開ができる点が強みだという。

創業から7年が経つLimeだが、2020年から始まったコロナ禍では大きな影響を受け、レイオフ(解雇)や経営体制の変更なども経験した。また電動キックボードシェアの大手だった米Birdも2023年に破産している。

Limeが苦境から回復し、成長を続けられた理由について最も大きな理由として、ハートマンCOOは、「自社でのモビリティ設計」を挙げる。壊れにくく、修理しやすい車両の開発により、モビリティの収益性を向上できたとする。また、都市との関係構築に力を注いだことも苦境を抜けられた要因と語る。

Neutron Holdings ウッディ・ハートマンCOO

例えば、オーストラリアのメルボルンでは、一部の地区で電動キックボードが禁止。また、パリでは電動キックボードシェアリングは全面禁止された。都市での電動キックボードサービスに逆風が吹いているように見えるが、「コミュニティの要望により、規制に調整が入ることはある。ただ、パリの事例ではキックボードから電動自転車に置き換わり、利用は2倍に増えている」という。こうした地域の要望にあわせながら、マイクロモビリティの普及・成長は図れると説明。日本市場でもコミュニティを重視した事業展開を進める。

日本については、「大きな都市がある世界有数の魅力的な市場。以前から検討を進めていたが、昨年のルール改正(道交法改正)が助けになった」という。今後の日本市場展開は、利便性向上のためのポート密度の向上を進めながら、2025年3月末までに関東の主要都市へ拡大。その後、関西地方にも進出する。モビリティは現在は200台だが、2024年12月末までに2,000台、2026年3月までに2万台まで拡大。2030年までの全国展開を目指す。