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“当たり前”に近づくタッチ決済乗車 首都圏やMaaS拡大、水牛車も対応

クレジットカードのタッチ決済を使った公共交通機関乗車の拡大に向け、三井住友カードは「stera transitシンポジウム2024」を27日に開催。今後の事業展開を説明した。stera transitは日本国内でクレジットカードのNFCタッチ決済を使った公共交通乗車のほぼ全てで採用されているタッチ決済乗車のインフラであり、採用が急拡大している。今後のポイント対応などのほか、決済データを使った地位活性化やMaaS展開の強化などが紹介された。

カード利用=タッチ決済で「乗車」も拡大

stera transitは、国際カードブランドのタッチ決済を交通機関で利用できるようにする決済プラットフォームで、2020年7月にスタート。交通機関でも対応を拡大している。

これを後押ししているのが、タッチ決済対応カードの「広がり」だ。対面の決済におけるタッチ決済比率は'24年6月時点で40%まで拡大。2022年には13%だったので、1年あまりで一気に拡大したこととなる。

世界では対面決済の80%となっているが、各地域をみても20%を超えると一気に普及が進むため、「日本も急拡大フェーズにはいった。世界水準に追いついていく。カード利用=タッチになるのは間違いない」(三井住友カード 大西 幸彦社長)とする。

三井住友カード 大西 幸彦社長

stera transitの導入は、カード普及に歩調をあわせるように拡大。日本におけるstera transitは、2024年度で180社まで広がり、'25年度は230社まで拡大予定。'24年度は36都道府県、'25年度は43都道府県に拡大し、「日本全国で使える環境が一気に整ってくる」という。

'24年度は特に首都圏、関西圏など大都市圏での整備が進み、関西は2025年の万博に向けてほとんどの私鉄で導入、首都圏でも東急、京王などが実証実験を開始しているほか、年内には都営地下鉄と京急らもスタート予定。'25年には首都圏にも一気に拡大していく見込みだ。

変わる「タッチ決済乗車」導入の目的

これまで、「タッチ決済乗車」は、インバウンド対応や定期利用減、働き手不足、設備更新などを背景に導入が進められてきた。また、「現金の削減」は多くの事業者に最も支持されている部分だ。

一方、交通事業者からのニーズは、当初のインバウンドや空港路線から、「地域交通の解決手段」が増えてきているという。そのため、今後は柔軟なサービス展開やデータ活用なども強化していく。

柔軟なサービスの一例は「割引」だ。一例としては、福岡市交通局による1日乗り放題の「1日割引」や鹿児島市営交通による「月額上限割引」など。企画券や定期券の代替として、カードの特徴を活かしたタッチ決済乗車で、片道・往復・回数・段階別・上限運賃など、様々な割引展開を可能としていく。

また、マイナンバーカード連携による高齢者割引や若年割引、地域在住者限定の割引などを実現。ほかにも、特定会員割引、オフピーク割引、定期券など、柔軟な乗車方法を実現するため、stera transit上で様々メニューを交通事業者向けに整備。これを事業者側で選択可能としていく。

さらに交通・移動だけでなく、日々の買い物やポイントサービスなどとの連携を強化。汎用的に使われるカードの特徴を活かし、例えば宿泊施設での消費と交通利用を連携させたサービスや、沿線のスーパー・百貨店との連携、マイクロモビリティとの接続などを想定している。

加えて、移動・属性・消費データのプラットフォーム「Custella」を活用したデータ把握により、事業者のサービス展開につなげていく。

こうした施策の先で目指すものが「MaaSプラットフォーム」だ。移動データとともに、移動に関連する消費データを把握。全国の交通事業者が共通のクラウドを活用し、複数の交通と消費を繋いだデータ分析が可能になる。

三井住友カードがMaaSプラットフォームで動作するアプリを交通事業者に提供。企画交通券をstera transit上で展開可能とし、全国の企画チケットや乗車方法などを集約してアプリに搭載。企画乗車券の販売と合わせて観光情報をおすすめするなどの取り組みを進める。

アプリはフェーズ1として、企画券などの機能を搭載し、2025年3月にサービス開始予定。その後、乗車券の拡充や地図や施設情報、買い物情報、おすすめ情報、ポイントサービスなどの機能を搭載していく。

stera transitの導入拡大とともに、データ利用を強化。「移動」と「購買」のデータによる「動態把握」を進めていく。

利用者向けサービスとしては、タッチ決済乗車で「Vポイント」が貯まるサービスなどを予定。交通事業者独自のポイントサービスとの連携を含め、乗車でのポイント付与を実現していく。また、法人カードとも連携し、経費精算システムでスムーズに対応できる仕組みなどを構築するほか、交通事業者のアプリからのVisaバーチャルカード発行などの取り組みも予定している。

三井住友カードの大西社長は、「タッチ決済による交通乗車は、本格拡大の時を迎えた。運営面で万全を期しながら定着に向けて努力していく」と訴えた。

高速バスから水牛車まで。広がるタッチ決済の可能性

また、政府による取り組みの説明のほか、stera transit採用の各社が現状や今後の展開を説明した。

東急電鉄は、stera transitを活用し、事前購入型のデジタルチケットサービス「Q SKIP」と、クレジットカード等のタッチ決済の実証実験を行なっている。

QRコードを使うQSKIPは、磁気の企画乗車券の30%以上が移行し、販売枚数は右肩上がりとするもっとも使われる商品は、「東急線一日乗り放題パス」。沿線在住者を中心に幅広く利用され、利用者は世田谷区、大田区、横浜市青葉区が多い。

タッチ決済は、東急線内の都度利用に限定されるが、7月の初乗り140円キャッシュバックキャンペーンでは乗車数が200%向上。認知向上を図っているという。タッチ決済の利用は、渋谷、横浜、蒲田、二子玉川など、ターミナル駅が多い。

QSKIPの利用状況

みちのりホールディングスでは、2020年に全国で初めて高速バスからVisaのタッチ決済を導入。以来、グループ各社のバスや公共交通機関でタッチ決済導入を進めており、現在はグループの高速バスの単独運行路線全てと一部共同運行路線で導入している。

路線バスでも、2月には茨城交通の路線バス全車両(約400台)で対応。ハウスカードの「いばっピ」を継続しながら、タッチ決済やコード決済などキャッシュレス決済に対応した。この際に重視したのが1台の端末で対応できることだったという。7月時点の利用状況はクレジットカードが3%、コード決済が3.6%。現金や交通系ICからの移行は順調という。

また、27日には福島交通と会津交通におけるキャッシュレス対応も発表。こちらはnanacoやWAONなどの電子マネーにも対応する。

湘南モノレールにおいては、タッチ決済やデジタルチケットに対応予定で、1~2年で紙の企画乗車券等を撤廃予定。佐渡汽船でも、世界遺産登録によりインバウンド増が見込まれるためキャッシュレスを推進していく。

福岡市は、福岡市営地下鉄でタッチ決済を'21年から導入し、'24年4月からは本格導入として、36駅で対応。タッチ決済による障がい者割引や小児料金も導入したほか、1日640円で市営地下鉄乗り放題となる乗車券も、'23年7月から開始している。

1日上限サービス導入により、利用は右肩あがりで増加しており、現在1日の利用は、約1.5万件/日。うち海外発行カードは27.5%で、国籍は韓国が66.1%と非常に多くなっている。

今後は、1カ月最大12,750円上限で定期券的に活用できるサービスを導入。また、消費データと交通データを連携した観光振興などに役立てていく。

具体的な例としては、カード購入データから、韓国・米国・タイの観光客の観光の違いについて紹介。多くは福岡市や北九州市の百貨店などで使われているが、タイだけ川下りで有名な柳川市で非常に多く使われていた。これは、福岡県によるタイ向けのYouTubeにおけるプロモーションの結果で、「タイの人だけ」が柳川市に訪問し、実際にお金を使っていることがわかったという。「税金を使って事業を行なう自治体にとって非常に重要なこと」と説明した。

琉球銀行は、2021年11月に三井住友カードと交通系分野で提携。観光系路線バスでの「Visaのタッチ決済」の導入を進めた。

「観光をいかに伸ばすか」が前提で、インバウンドの観光客を見込むため、国際ブランドのタッチ決済を重視し、観光バスから導入を開始。その後、西表島交通バス、八重山エリアへの一括導入などを行ない、船舶でも導入されている。海外だけでなく、国内の観光客のタッチ決済利用も非常に多いという。

2024年度は、ゆいレールや、宮古島路線バスにタッチ決済を導入する。さらに由布島の「水牛車」も公共交通機関と位置づけられており、水牛車にもタッチ決済を導入予定。導入されれば、世界初の水牛車のタッチ決済対応となる。

また、2025年度は沖縄本島の主要バス全てに拡大するほか、宮古島内の全ての路線バスに導入予定としている。