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伝統的な金融市場に広がり始めたビットコイン 世界の潮流と日本の課題

ビットコインに代表される暗号資産について、世界の機関投資家が取り扱う流れが加速している。これは、ビットコイン現物ETF(上場投資信託)が米国で承認されたことがきっかけ。米国市場は暗号資産の市場規模が圧倒的に大きく影響力もあるため、市場ではビットコインが(株式や不動産と同列の)新たな資産クラス(アセットクラス)になりつつあると見なされている。

Binance Japanは11日、こうした暗号資産の現物ETFをめぐる世界と日本の状況を解説する報道関係者向けのセミナーを開催、バイナンス 日本代表の千野剛司氏が、私見を交えながら、業界動向や今後の展開について解説した。

バイナンス 日本代表の千野剛司氏

健全化のカギは投資家層の広がり

ビットコインに代表される暗号資産はこれまで、ビットコインのホワイトペーパーで宣言されたように、伝統的な金融機関とは距離を置いた場所でやり取りされてきた。

「暗号資産の世界はまだまだ未熟で、個人投資家が中心。(ギャンブル的なリスク選好を)健全化するのが業界の課題」(千野氏)という。

暗号資産の市場は、値動きが激しく、ギャンブル的要素を好むリスク選好の(=リスク愛好型)プレイヤーを惹きつけ、同種のプレイヤーが多いため皆が同じような行動をとり、それが激しい値動きに繋がる……という循環に陥りやすい。これは業界として課題と認識されており、健全化の方策は「投資家層を広げるしかない」(千野氏)といい、伝統的な金融市場で活躍する機関投資家の参入は、暗号資産市場の成熟に欠かせない要素と位置づけられている。

「機関投資家は重要。聞いたところによると、暗号資産についてずっと様子見をしていたそう。ところがここ数年で、米国、欧州、中東で機関投資家の参入が相次いでいる。その契機のひとつになったのは、米国のSECがビットコイン現物ETFを承認したことで、“安心して投資してもいい空気”になっている」(千野氏)。

暗号資産に機関投資家が参入する時代に

ビットコイン現物ETFは、現物を直接保有しなくても投資できることに加え、伝統的な金融商品としての流動性や信頼性、規制が秩序としてポジティブに働くことなど、ビットコインを様子見していた旧来の投資家にとっては、さまざまなメリットがある。

ビットコイン現物ETFが人気になる背景

米国ではイーサリアム現物ETFも承認されており、商品としてのバリエーションも豊富になりつつある。またすでに目新しさで人気になる時期は過ぎ、その内容で人気・不人気が分かれる段階に入っているという。

暗号資産現物ETFの承認は、すでに欧州を中心に先行しており、米国での承認はむしろ遅めのタイミングだったという。しかし暗号資産の市場としては米国が圧倒的に大きいため「米国で承認されたということは、世界で認められたと言っても過言ではない。ほかの国も、やらないといけないと考える契機になる」(千野氏)というほど、大きな意味を持つという。

欧州でもすでにスタートしている暗号資産現物ETF
市場規模は米国が圧倒的
グラフの下半分は資金の流出を示す。ブラックロックの商品(IBIT)が人気で、グレイスケールの商品(GBTC)は人気を落としているなど、選別される時期に入っている
機関投資家は暗号資産をアセットクラスとして認知
世界最大の資産運用会社であるブラックロックのビットコイン現物ETF「iShares Bitcoin Trust」(IBIT)商品紹介ページ

日本では規制と税制に大きな壁

「日本は重要な金融市場のひとつだが、こうした流れに対応できていない。プレゼンスという意味では不安」と千野氏が指摘するように、日本市場は難しい課題が浮上している。

その課題は、規制と税制という2つの大きな制度にまたがっており、調整や改革の壁が高くなっている。

規制と税制の2つで課題が残る

仮に日本で暗号資産の現物ETFを発行する場合、投資信託法の規制を受けることになるが、ETFに含められるのは「特定資産」として限定列挙されるものだけで、現在、「特定資産」に暗号資産は含まれていない。金融庁はこうした点を認識しているものの、暗号資産が「資産クラス」にふさわしい信頼度を持つのかといった議論は大いに残されている。

投資信託法ではまた、株式以外の金・銀・プラチナといったコモディティ(実物資産)をETFに含められるケースがあり、暗号資産についてもこのケースを応用し、東証の上場審査部や金融庁に相談して判断を仰ぐルートが考えられるという。ただしこのルートは、承認される可能性は低いと千野氏は指摘する。

千野氏は新卒で東証に入り、10年間、東証の職員として勤務していた。元職員の私見と断った上で、予想される東証の判断について、「2つの法律にまたがるアセットは、同じ目線で判断される。1つめ(特定資産かどうか)も、満たさないといけないという判断になるだろう」との見解を示した。抜け道のように、片方の基準だけ簡単にクリアして承認を得られる、という結果になるような判断はされないと予想している。

暗号資産は雑所得 根本的な認識や信頼度の問題も

暗号資産業界からみると、税制にも大きな課題が残っている。現在、暗号資産の所得は総合課税の雑所得に分類され、20万円以上は最大45%の累進課税の対象。地方税10%を含めると最大55%が課税される。一方、株式などは分離課税で最大20.315%となっており、雑所得に分類される暗号資産とは課税額に大きな差がある。

千野氏は、暗号資産業界として、日本で暗号資産現物ETFをなるべく早く承認してもらいたいと訴える。「(機関投資家をはじめとした)伝統的なプレイヤーが参入することで、安定し、信用を得られる」。

しかし、税制をめぐっては、暗号資産業界が一枚岩ではないとも指摘する。千野氏のようにETFの承認や機関投資家の参入を歓迎する派がいる一方で、税制が変わらないまま暗号資産現物ETFが導入されると、課税額を抑えられる現物ETFに多くの顧客が流出するのではないかという不安を抱く派があり、税制を変えないままETFを承認するケースには否定的な反応もあるという。

税制改革の兆しについては「根本的な問題は、資産クラスとしての暗号資産を、多くの人が理解していないこと」(千野氏)と、一連の議論が難しい問題であることを隠さない。

「株式なら会社や発行体があるが、暗号資産は誰が発行しているのか? というのが一般的な認識。公開されているプロジェクトやホワイトペーパーがあっても、信頼できるのか? と懸念を持つ人は多い。そうした懸念を払拭するのが、ユースケース」(千野氏)とし、暗号資産が役に立つというユースケースで不安が解消されないと、税制を変える議論まではたどり着けないとする。

大企業がユースケースを開発する日本独自の流れ

日本の暗号資産市場はグローバルと比較して「非常に流動性が低い」(千野氏)のも課題とする。「政府はWeb3を盛り上げようとしているが、マーケットが(小さすぎて)受け止めきれていない。ETFが機能して、資金が市場に流入してくることが重要」(千野氏)。

日本独自の進展もある。海外とは大きく異なるのが、大企業の参入。政府が音頭を取ってWeb3の取り組みを進めていることもあり、日本を代表するさまざまな企業が暗号資産やブロックチェーン技術を活用したユースケースの開発に取り組んでいる。

千野氏は「海外はウォールストリートの金融商品が先行しているが、ユースケースがない。日本はユースケースが先行しており、コントラストが出てきている」といい、ゲームやエンターテイメント系企業も含めて、ブロックチェーンやトークンを活用する日本ならではの取り組みが進んでいるとしている。