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刀剣ファン必見! 国宝の名刀から妖刀まで見られる「超・日本刀入門」と「徳川美術館展」

国宝の名刀から妖刀まで見られる東京開催の2つの展覧会が開催中(写真は静嘉堂@丸の内)

刀剣ファンはもちろん、ちょっと興味があるんだよね……という人におすすめの2つの展覧会が、東京で開催されている。

まず先に行っておきたいのが、国宝・重要文化財刀剣9件などがずらりと並ぶ静嘉堂@丸の内の「超・日本刀入門 revive ‐鎌倉時代の名刀に学ぶ」。

もう1つが、国宝の《太刀 津田遠江長光》や、妖刀と呼ばれる《刀 銘 村正》をはじめとした武具が並ぶ、六本木のサントリー美術館で開催中の「徳川美術館展 尾張徳川家の至宝」。それぞれの展覧会の魅力を詳細にレポートしていく。

刀剣初心者に分かりやすく解説「超・日本刀入門 revive」

静嘉堂@丸の内で開催されている「超・日本刀入門 revive ‐鎌倉時代の名刀に学ぶ」

東京駅からもほど近い静嘉堂@丸の内で、8月25日までの会期で開催されているのが「超・日本刀入門 revive ‐鎌倉時代の名刀に学ぶ」。国宝の《太刀 銘 包永》や重要文化財8振、それにオンラインゲームの「刀剣乱舞」でキャラクター化されている《刀 大磨上げ無銘 号 後家兼光》をはじめ、全23振が展示されている。

【展示会概要】

「超・日本刀入門 revive― 鎌倉時代の名刀に学ぶ」
会場:静嘉堂@丸の内
会期:2024年6月22日~8月25日
料金:一般:1,500円、大高生:1,000円、中学生以下無料

メインタイトルに「超・日本刀入門」とある通り、静嘉堂@丸の内での刀剣の展示は、とても分かりやすい。それぞれの刀剣には、それぞれ文章による解説のほか、見どころが記された図解パネルが設置されている。これらを実物と合わせ見れば、各刀剣の魅力が分かるのだ。

例えば国宝の《太刀 銘 包永(かねなが)》、通称「手掻包永」であれば下の写真のとおり。

実物の《太刀 銘 包永(かねなが)》と《附 菊桐紋蒔絵鞘糸巻太刀拵(きくきりもんいとまきたちこしらえ)》
実物のそばにある文章での解説
実物の下には、見どころを図解したパネルが用意されている

その他にも各展示室には、「太刀と刀」の違いを解説したり、「刀剣鑑賞はじめの一歩」と題した美術館や博物館での鑑賞方法を解説したり、「後家兼光の伝来について」を解説するパネルが掛けられている。実物と合わせて、こうした解説を読んでいくことで、刀剣への理解が否が応でも深まっていく。

展示は1章の「日本刀の種類」から始まり、「名刀のいずるところ」、「きら星のごとき名刀たち」、「武将と名刀」の全4章の構成されている。

1章「日本刀の種類」の展示風景
2章「名刀のいずるところ」の展示風景
3章「きら星のごとき名刀たち」の展示風景
4章「武将と名刀」の展示風景

前述のとおり、展示されているのは全23振。見どころは? と聞かれれば「すべてが見どころです」と言いたいほど、一振ごとをじっくりと見ていく価値があると思う。だがやはり筆頭に挙げるとすれば、国宝の《太刀 銘 包永(かねなが)》や《刀 大磨上げ無銘 号 後家兼光》ということになる。

鎌倉時代 13世紀に作られた《太刀 銘 包永(かねなが)》と、江戸時代 18〜19世紀に作られた《附 桐紋蒔絵鞘糸巻太刀拵》。

特に長船兼光の作と伝わる《刀 大磨上げ無銘》については、解説パネルで伝来が分かる点が面白い。ざっくりと記すと、もともと豊臣秀吉が所有していたものが、形見として、上杉景勝の家老だった直江兼続に渡った。その没後に、未亡人(後家)となった“お船の方”が主家に献上したことから《後家兼光》と呼ばれるようになったという。さらに時代が下った江戸の幕末、上杉家から土佐(現・高知県)の山内家……山内容堂へ贈られ、なぜか分からないが当時の重臣の後藤象二郎に与えられる。そこから娘婿の岩崎彌之助に譲られて、静嘉堂文庫の所蔵となり今に至るそうだ。

ちなみに「大磨上げ」とは、はじめに作刀された時よりも、長さを大幅に短くされているということ。その時に、もともと刻まれていた文字が消えてしまったのか、現在では製作者などの名が見えない状態を「無銘」という。「伝 長船兼光」とは、「長船兼光が作ったもの」と伝承されているという意味。

南北朝時代 14世紀に作られたのち、大磨上げされた《刀 大磨上げ無銘 号 後家兼光》と、明治時代 19世紀の《附 芦雁蒔絵鞘打刀拵》
切れ味が良さそうな《後家兼光》

《後家兼光》の隣に展示されている一文字守利による《太刀 銘 守利》も見応えがある。金象嵌で「本多平八郎忠為所持之」とあり、徳川家康の四天王と言われた、本多平八郎忠勝の孫の所持刀だったことが分かる。その本多忠為(=忠刻)と言えば、徳川家康の愛孫で豊臣秀頼の正室となった千姫を、大阪城の落城後に娶ったことで知られる。

一文字守利により鎌倉時代 13世紀に作られた《太刀 銘 守利》
金象嵌で「本多平八郎忠為所持之」とある
《太刀 銘 守利》の鋒(きっさき)

その他、重要文化財や重要美術品などに指定されているものを含め、見るべき刀剣は少なくない。できれば、一振一振を味わうように見ていきたいところだ。

そして、前述した国宝《手掻包永》や《後家兼光》もそうだが、今展では、鞘(さや)などの拵(こしらえ)が刀剣と一緒に展示されているものがある。これら拵(こしらえ)は、江戸時代から明治時代に拵えられたものだが、工芸品として鑑賞するのにも良い。

好みにもよるが、重要文化財の《太刀 銘 高綱(号 滝川高綱)》の《附 朱塗鞘打刀拵》などは、思わず「かっこいい!」と言いたくなるほど。滝川一益が織田信長から拝領したこの太刀に付属する拵えは、織田信長が特注したものと考えられている。「そりゃかっこいいはずだよね」と思ってしまう。

《太刀 銘 高綱(号 滝川高綱)》鎌倉時代 12〜13世紀と、《附 朱塗鞘打刀拵》桃山時代 16世紀
柄の形が持ちやすそう。また頭(かしら)には織田家の家紋「織田木瓜」と足利将軍家から拝領した「桐紋」が散らされている

長船真長による《小太力 銘 真長》のために作られた《黒蠟色塗鞘菊水紋金具突兵拵》は、「なんか、やたらおしゃれだな」と思ったら、「幕末期に西洋式の軍事調練に用いられ、流行した突兵拵(とっぺいごしらえ)」と呼ばれるものなのだそう。

《黒蠟色塗鞘菊水紋金具突兵拵》昭和時代 20世紀
おしゃれな突兵拵

なお今回は、国宝《曜変天目(ようへんてんもく) 稲葉天目》以外のすべての展示品の撮影が可能。

《曜変天目(稲葉天目)》以外の撮影はすべてOK

刀剣だけでなく源氏物語関連の展示も豊富な「徳川美術館展」

サントリー美術館の「徳川美術館展 尾張徳川家の至宝」

東京メトロの六本木駅から、地上へ一度も出ることなく行ける、東京ミッドタウン内にあるサントリー美術館。同館で9月1日まで開催されているのが「徳川美術館展 尾張徳川家の至宝」。その名の通り、御三家筆頭の尾張徳川家の品々を伝える、徳川美術館の所蔵品が展開されている。

なお、以下の展示品は全て徳川美術館蔵。展示室内の撮影は禁止。以下は、主催者の撮影許可を得たうえで掲載している。

【展示会概要】

「徳川美術館展 尾張徳川家の至宝」
会場:サントリー美術館
会期:2024年7月3日~9月1日
料金:一般:1,800円、大学・高校生:1,000円、中学生以下無料

同展は、国宝の《源氏物語絵巻》のほか、同じく国宝の《初音の調度》が見られることが、最も注目されるポイントだろう。だが、刀剣ファンが特にじっくりと見ておきたいのは、1章の「尚武 もののふの備え」だろう。

「もののふの備え」というだけあり、展示は刀剣のみにとどまらない。徳川家康が合戦で使ったとされる《陣太鼓》、家康の九男で尾張家初代の徳川義直が着用した《銀溜白糸威具足》をはじめ、2人が使ったという軍配《網代軍配団扇》、火縄銃や大筒(おおづつ)まで揃う贅沢なラインナップだ。

展示風景
展示風景
《唐銅飛龍形百目大筒》江戸時代 17世紀

それらと一緒に展示されている刀剣もまた豪華。まずは国宝にも指定されている《太刀 銘 長光(名物 津田遠江長光)》。かつては織田信長の所用刀だった同太刀は、本能寺の変の後に明智光秀が安土城から接収し、家老の津田遠江守重久に与えたもの。そこから加賀の前田家、5代将軍徳川綱吉、尾張徳川家へと伝わった。

展示風景
《太刀 銘 長光(名物 津田遠江長光)》鎌倉時代 13世紀

その国宝の隣にあるのが《刀 銘 村正》。「村正」と言えば、刀剣ファンではなくても、戦国時代の歴史好きであれば「徳川家に祟りをもたらす不吉な刀剣」……つまり「妖刀」として、聞いたことがあるに違いない。ちなみに「村正」とは、「村正さんが作った刀」のことで、戦国期に人気を博した刀工だったこともあり、現存する「村正」は少なくない。筆者も過去に別の村正を見たことがあるが、「へぇ〜、これが村正かぁ」と思った。

だけれど、徳川美術館蔵の《刀 銘 村正》は、少し様子が異なる。どこが? と言われれば、その刃文だ。解説に「通常の村正の作とは異なり、刀身全面に刃文を焼く皆焼(みたつら)と呼ばれる刃文が特徴的」と記されている。実物を見ると、その様子が理解できるだろう。妖刀と呼ぶのにふさわしいようにも思える、なにか、おどろおどろしい雰囲気の刃文なのだ。

とはいえ同刀は、徳川家康の遺品として同家に渡ったものであり、尾張徳川家に禍をもたらしたという記録もない。

《刀 銘 村正》室町時代 16世紀

南北朝時代に作られ、豊臣秀吉→豊臣秀頼→徳川家康→徳川義直へと伝わった、重要文化財の《脇指 無銘 貞宗(名物 物吉貞宗)》も見ものだ。名前に「名物」とあるのは、江戸時代に刀剣鑑定の重鎮である、本阿弥家の光忠が全国の名刀をリストアップした「享保名物帳」に選ばれたということ。

《脇指 無銘 貞宗(名物 物吉貞宗)》南北朝時代 14世紀

武具のほかにも見るべきものは多い。石川五右衛門が伏見城の秀吉の寝室に忍び込んだ時に、香炉の蓋にある千鳥が啼いたために捕らえられたという(根拠のない)話が、江戸時代の小説「絵本太平記」に記されている、その《青磁香炉 銘 千鳥》も展示されている。

《青磁香炉 銘 千鳥 大名物》南宋時代 13世紀

剣豪として名高い、宮本武蔵が描いた水墨画《蘆棄達磨図》や、江戸時代初期に、本阿弥光悦や松花堂昭乗とともに「寛永の三筆」の一人として能筆家として知られる、近衛信尹がしるした《朗詠屏風》なども置いてあったりする。

宮本武蔵筆《蘆葉達磨図》江戸時代 17世紀 展示期間:7月3日~7月29日
近衛信尹筆《朗詠屏風》江戸時代 17世紀 展示期間:7月3日~7月29日

そして展示のクライマックスには、いずれも国宝の《源氏物語絵巻》と《初音の調度》が控えている。

《源氏物語絵巻》は、12世紀前半に製作されたと考えられ、現存最古の物語絵巻。7月15日まで「柏木(三)」の帖が展示されたあと、「横笛」、「橋姫」、「宿木(二)」と展示替えされていく。会場にも解説パネルがあるが、それぞれどんな場面なのかの概要だけでも事前に知っておくと、より深みを感じられるだろう。

国宝《源氏物語絵巻 柏木(三)》平安時代 12世紀 展示期間:7月3日~7月15日

同じく国宝の《初音の調度》は、三代将軍徳川家光の長女、千代姫が、尾張徳川家へ嫁いだ際の婚礼調度のこと。「源氏物語」の第23帖「初音」に題材をとった《初音蒔絵旅眉作箱》が7月29日までの前期に、第24帖「胡蝶」に基づく《胡蝶蒔絵将棋盤・駒箱》が7月31日以降の後期に展示される。

国宝《初音蒔絵旅眉作箱》江戸時代 寛永16年(1639) 展示期間:7月3日~7月29日

静嘉堂@丸の内とサントリー美術館での展覧会では、それぞれ国宝や重要文化財に指定された貴重な刀剣が見られる。丁寧に記された解説を読みながら見ていくと、それぞれの刀剣のストーリーが展開されて楽しく見ていけるだろう。

刀剣以外にも、静嘉堂@丸の内の「超・日本刀入門 revive」では国宝の《曜変天目(稲葉天目)》や重要文化財《木造十二神将立像》の7躯が、サントリー美術館の「徳川美術館展 尾張徳川家の至宝」では、東京ではめったに見られない国宝の《源氏物語絵巻》と《初音の調度》などが展開されている貴重な展覧会。充実の内容なので、たっぷりと時間を取って見に行ってほしい。