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世界を席巻するホロライブ 谷郷氏が語ったVTuberビジネスの本質と可能性

カバー 代表取締役社長CEOの谷郷元昭氏

VTuberプロダクション事業を手掛けるカバーは、VTuber事業の市場について記者向けの説明会を開催した。代表取締役社長CEOの谷郷元昭氏が登壇し、同社が取り組むVTuberビジネスの最前線が解説された。

カバーは、女性VTuberグループ「ホロライブ」を中心としたVTuber事業を手掛けている。所属タレント数は、87名(2023年12月時点、男性VTuberグループ『ホロスターズ』の23名を含む)。総チャンネル登録者数は8,600万人、月間ユニークユーザー数は2,000万人以上(どちらも公式Ch含む)と、YouTubeを中心とした配信プラットフォームでの展開は非常に大規模になっている。他社調べのVTuber登録者数の世界ランキングでも、トップ10のうち、活動休止中のキズナアイを除く9名がホロライブ所属(海外含む)と、独占状態にある。

ホロライブの概要
VTuber登録者数世界ランキング。トップ10のうち、活動休止中のキズナアイを除く9名がホロライブ所属

海外アニメ人気がVTuberの世界展開を後押し

現在は、個々のタレントによるライブ配信だけでなく、大規模なライブなどのイベントによって、IPの創出・認知からファンコミュニティの獲得にまで成功していることに加えて、グッズ展開、タイアップやライセンスの展開など、IP(知財)を活用するコマース展開も大きな収益源に成長している。コンビニで販売・展開されるような大手企業の商品とのタイアップをはじめ、東京観光大使への就任、地上波キー局の歌謡番組に出演するといったように、活躍の場は拡大している。

主に4つの分野で事業を展開。物販の占める割合が大きくなっている

谷郷氏はVTuber市場の拡大について、まずスマートフォンの普及、通信環境の高度化、YouTubeの動画コンテンツの盛り上がり、若年層によるショート動画の流行といった背景が前提にあるとする。その上で、近年は日本の最新のアニメ作品が世界で同時に配信され人気を獲得しているという、海外のアニメ人気の盛り上がりを指摘。「アニメルックなアバターのVTuberが受け入れられやすい土壌が整っている」とし、市場の拡大が一層進んだ背景には、海外ユーザーの獲得が影響していることも語っている。

カバー自身も英語圏で活動するVTuberを展開しているほか、北米ではVTuber事業をはじめる企業が現れるなど、“日本発の新しいコンテンツ”としてVTuber市場は世界に拡大しつつある。

VTuberの基本的な仕組み
スマートフォン、YouTube、海外アニメ人気などさまざまな背景があるとした

国内で急成長、世界市場は2.5兆円規模の予測も

国内市場に目を向けると、矢野経済研究所の調査では、VTuberの市場規模は2020年度に144億円だったところが、2023年度(見込み)では約800億円と、4年で約5倍に急成長している市場とされている。VTuber事業を手掛ける企業としては、カバーのほかに「にじさんじ」を展開するANYCOLORも東証グロース市場に上場を果たし、規模を拡大している。

VTuber 国内の市場規模

カバーの時価総額は1,636億円(2023年12月18日時点)。売上推移は2,020年3月期が14億円だったところが、2023年3月期は約204.5億円と、4年で14倍の成長をとげている。

ANYCOLORは時価総額が1,922億円(2023年12月18日時点)、2023年4月期の売上は253億円、公開情報を元にした推計を含む2024年4月期の売上は330億円の予想と、2大VTuber事業者はどちらも好調で、右肩上がりの成長を収める形になっている。

世界に目を向けると、グローバルインフォメーションによるVTuberの世界市場の分析によれば、2021年のVTuber世界市場規模の予測は約2,421億円。これが、7年後となる2028年には約2兆5,708億円と、約10倍以上にまで拡大すると予測されている。この世界2.5兆円の市場を攻略していくというのが、カバーのようなVTuber事業トップ企業の目標となる。

熱量のあるファン層

こうした好調な市場を支えているのは、「旺盛な消費意欲と熱量を持っている」という、若年層を中心とした国内外のファン層。昨今はZ世代に大きく支持されている一方、当初は20~30代が中心で、そこから10~20代、30~40代と、両方向に拡大して多彩な年代に支持されているという。

多世代に渡るファン層を獲得していることで、企業とのコラボレーションやタイアップも増加している。例えばZ世代に商品をアピールしたい企業は、Z世代が接触しているYouTubeの動画やショート動画で活躍し、SNSのトレンドランキングでも常連になっていて、ファン層を含めて“拡散力”のあるVTuberを指名するというケースが増加している。これには、キャラクターの見た目がバーチャルで、衣装や演出などで企業の要望に応えやすいという側面も影響しているという。

熱いファン層に支えられているとした

メイン収益は投げ銭からグッズ展開に変遷

ビジネス構造では、YouTubeのSuper Chat(スーパーチャット、スパチャ)に代表される“投げ銭”の金額が集計され耳目を集めるケースもあるが、収益構造はすでに、マーチャンダイジング(=グッズ販売)やライセンス・タイアップ収入が主流になっているという。

カバーによれば、2021年3月期の売上約57億円のうち、配信/コンテンツの収入は46%、ライブ/イベントが14.2%、マーチャンダイジングが32.3%、ライセンス/タイアップが7.5%という割合だった。マーチャンダイジングとライセンス/タイアップは合計で39.8%、約23億円の規模だった。

これが2024年3月期の第2四半期の時点になると、売上予測の約267億円のうち、マーチャンダイジングとライセンス/タイアップの合計は58.4%、約155億円と、約6割を占めるまでに拡大。配信/コンテンツは28.1%と、割合は大きく低下し、すでにVTuber事業のメイン収益ではなくなっている。

収益構造はグッズ販売が主流に

谷郷氏はこうした収益構造の変化について、「IPカンパニーのような構造に変化している」と語る。

これは、例えばサンリオのような、強いキャラクター性のあるIPを持ち、グッズ展開などで安定して収入を得られる形態を指している。広告収入や投げ銭が収益源だった時代は、企業としてもファンとしても「それしか手段がなかった」という。グッズ展開など幅広い収益源を展開できたことで、ファンがお金が支払う対象が変化したという。スーパーチャットの金額自体が低下している、という指摘に対しても、月額課金のサービス(YouTubeのメンバーシップ)やさまざまなグッズの販売で、ファンの“応援する形”が変化しているから、と理由を説明している。

こうしたVTuberのキャラクターIP化は、オファーされている数などを鑑みて、さらに進展すると予想している。例えば、ホロライブのキャラクターが登場するゲームの発売なども予想されるのではないか、と期待を語っている(ガイドラインに沿った二次創作のゲーム作品ではすでに登場している)。

人気が拡大した背景

少数精鋭型、技術の進化で高いクオリティ

VTuberのプロダクション事業にも展開方法にはいくつかのアプローチがあり、例えば、上場しているカバーとANYCOLORでは好対照になっている。カバーのアプローチは、一言でいうと「少数精鋭」型。デビュー候補のタレントはオーディションで厳選し、比較的長い期間をかけて教育・育成してからデビューさせる方針をとっている。

ホロライブは育成型の方針をとっている

タレントに高いクオリティを確保できれば、一人当たりのチャンネル登録者数を高めるなど、多くのファンを獲得でき、一人当たりの年間収益を高められることになる。少数精鋭型・育成型の方針をとることで、人気VTuberを効率的に排出でき、高い収益性を確保することにつながるとしている。

少数精鋭型でひとりあたりのパフォーマンスが高いとする

一方で“クオリティ”には、タレントや企画といったことだけでなく、技術の進歩も大きく影響している。カバーは27億円をかけて新たなスタジオを作り、大規模で最新のVTuber専用のモーションキャプチャー設備を用意。音楽ライブのイベントでも演出を含めて最新の技術を投入しており、こうした新たな映像やイベント体験を作り出すことで、新たなファンを創出しているという。

当初は白い背景で簡素だったが、今では豪華なライブステージのモデルも用意されている
VTuber専門のスタジオ。地方テレビ局と同等の映像配信設備もあるという

UGCで圧倒的なコンテンツ量に

このほかUGC(User Generated Content、ユーザーが作るコンテンツ)の拡大についても触れている。代表例は、ライブ配信の映像から見どころの部分を切り抜いて字幕などの編集を加える「切り抜き動画」で、ほかにもファンが広告を出稿する応援広告、踊ってみた・歌ってみた動画の投稿、自作ゲームなどを含む二次創作作品などがある。

UGCが効果的に機能し、コンテンツ量が拡大した

ファンによる自発的な切り抜き動画はすでに大規模になっており、ホロライブを対象とした切り抜き動画専門チャンネルの数は121件が存在。チャンネル登録者数は合計で1,030万人、総再生数は68.6億回にも上る。

近年のライブ配信やそのアーカイブ映像は長時間になることも多く、忙しい人はあとから見返すことが難しいケースも多い。スポーツの試合のハイライト映像のように、切り抜き動画を見て、配信の見どころだった部分を後から効率的に把握するというユーザーも増えている。

切り抜き動画も高い人気を獲得している

谷郷氏は強力なUGCの具体例として、ホロライブ所属・宝鐘マリンのオリジナル楽曲のミュージックビデオ(MV)の例を挙げている。YouTubeに投稿された公式MVは再生回数が3,390万回と非常に人気を獲得している楽曲だが、この楽曲を使用した動画はTikTokに6万本が投稿され、3億回再生されたという。またYouTubeでは、4,000本の動画が新たに投稿された。コンテンツの量が爆発的に増えて、未視聴層にも拡散する可能性が高まるなど、UGCによりコンテンツのパワーがさらに増大する例となっている。

宝鐘マリンのオリジナル楽曲
TikTokでバズり、YouTubeでもUGCが大量に投稿された
UGCでさらに多くの人に接触できるとした

ホロライブでは二次創作のガイドラインも発表してUGCを促進する環境整備を行なっており、一部は収益化や有償配布にも対応している。

キャラクター大国の日本が放つ“生きたIP”

少数精鋭型や技術投資による高いクオリティ、強力なUGCによる後押しなど複数の要因で独自の成長を遂げてきたVTuber市場だが、谷郷氏は、世界市場で競争が熾烈になると指摘する。北米、東南アジアを中心にすでに市場が拡大しているほか、時差によりライブ配信を視聴しづらい欧州でも市場拡大の余地があると見込む。

一方、日本発のキャラクターIP産業は度々世界を驚かせてきた歴史があると自信をみせる。VTuber自体は個人でも始められるが、高いクオリティを実現するには技術投資が必要で、これが高い参入障壁になり、カバーには優位性があるという。

カバーは日本語で活動するタレントでもすでに海外ユーザーを多数獲得しているほか、「Hololive EN」など海外を対象に活動するタレントのグループも展開しており、海外との接点はすでにある状態で、冒頭のようにアニメ人気などを背景にVTuber市場の拡大に取り組んでいく。

谷郷氏は、日本発で独自の存在という、“生きたIP”であるVTuberは「日本の新しい産業になり得る可能性がある」とし、さらなる成長を目指す方針。

当初は“日本にしかない”コンテンツで、海外ユーザーの獲得にも成功
ライブ体験は海外でも人気
VTuberは日本発のキャラクターIP産業になるとした
カバーは、高い技術力で高いクオリティを実現できるのが強みになるとした

VTuberビジネスの本質は「応援すること」

質疑応答の時間には、広く受け入れられるVTuberの定義が聞かれた。谷郷氏は、「広く受け入れられることが正解なの? という前提がある」と、やんわりと否定。「例えばらでん(儒烏風亭らでん)という美術に造詣が深いタレントがデビューしたが、そういったタイプはこれまでいなかった。新しいコミュニティを取り込むことに成功して、新しい人気を獲得できた。一人ひとりが人気を獲得しているのは、いままでにない需要が満たされたから」とし、タレントの個性を重視して、万人受けする方針では選んでいないことを語っている。

経営判断として、人気が出ていないVTuberの活動を終了させるのか? との問いには、「ディスコン(ディスコンティニュー、提供中止の意)はしない会社だと思っている」と回答。「多産多死モデルではない。たくさんデビューすると、プロモーションの機会が減ってしまう。デビューも間隔を空けることで、ひとつひとつやっていく」とした。また、技術の進展により、専用スタジオではなく自宅から配信が行なえることなど、タレントの日々の活動は経営上の負担にはなりづらく、翻って、モチベーションの維持などが重要になるとしている。

VTuber(の中の人)を将来的に生成AIが担う可能性はあるのか、という問いに対しては、すでに実験を行なったとした上で、「可能性はない」と明言。「VTuberのビジネスは、ファンがタレントの目標を応援するという構造。VTuberビジネスの本質は、応援すること」とし、生成AIによるキャラクターは、そうした人の熱意を向ける対象にはなりえないとした。

谷郷氏はまた、2020年開催の音楽ライブイベントの成功をきっかけにして、人気に拍車がかかり、苦労していたという運営資金面でも大きく改善したことを語っている。当時すでに、「AKB48」のようなアイドルグループとして展開したいと公言しており、「本当のニーズは、リアルなひとりが、羽ばたいていくこと。その姿を見られることが、求められていると思った」と振り返っている。

2020年開催の全体ライブ。技術的に野心的な試みで、人気拡大のきっかけにもなった
技術を盛り込んだライブが成功、人気も拡大した。ライブ前、苦労して資金調達した7億円は手つかずのまま残ったという

谷郷氏は最後に、VTuber事業について「IPビジネスとしてはまだ序盤戦」と語っている。ライセンスビジネスは始まったばかりという認識で、「今後ゲーム化やアニメ化などが実現すると、さらに広がる」と、さらなる市場拡大に意気込みを語っている。