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ソニー「スタースフィア」開始 「誰でも人工衛星で撮影」を体験した

超小型人工衛星「EYE」が撮影した日本列島

ソニーは、東大やJAXAとともに推進する「STAR SPHERE」(スタースフィア)プロジェクトについて、3月から期間限定で抽選で選ばれた30組にサービスを開始します。2月13日から募集を開始し、追加の体験者募集も2024年中に順次行なわれます。

STAR SPHEREは、一般ユーザーが人工衛星を利用して宇宙で写真撮影ができるプロジェクトです。2023年1月3日に超小型人工衛星「EYE」(アイ)を打ち上げましたが、その後、姿勢制御などに問題が生じたため、サービスの開始を延期していました。今回、衛星に不具合はありつつも、一定の条件下で撮影は可能であることから、サービスの開始がアナウンスされました。本来は有料サービスの予定でしたが、抽選に当選した人は無料で衛星を使った撮影を楽しむことが可能です。

今回はサービス開始に先立ち、撮影体験の機会を得られましたので、実際に撮影を行なった体験談をお伝えしたいと思います。

「EYE」が撮影したカリブ海
「EYE」が撮影したアラル海

STAR SPHEREプロジェクトとは

まずは、STAR SPHEREプロジェクトについて、おさらいしていこうと思います。STAR SPHEREは、ソニーと東京大学、JAXAによる共同プロジェクトで、開発した人工衛星「EYE」は「CubeSat」と呼ばれる小型衛星の一種です。ソニーがカメラシステムを開発し、コンテンツやサービスを提供、東京大学は人工衛星の主要部分を開発し、JAXAは人工衛星開発・運用を中心とした技術・事業開発支援を行なっています。

超小型人工衛星「EYE」には、地上から撮影シミュレーター「EYEコネクト」を使用して命令を送ります。EYEコネクトはWebブラウザで動作し、会員登録をすれば誰でも利用できます。「EYEコネクト」では、超小型人工衛星「EYE」と、そこから見下ろした地球をCGで再現していて、「EYE」が地球の上空を移動しているイメージを眺められます。地球のイメージはかなりリアルに作られていて、これを眺めているだけでも意外と楽しめます。

EYEコネクトの操作画面

デフォルトでは、衛星を見下ろすような3人称視点ですが、視点を切り替えることで、「EYE」の1人称視点に切り替え可能で、カメラから見える地球の様子を確認できます。これを参考に、撮影したい時間帯を指定して、「EYE」に命令を送信することになります。

EYEコネクト。起動後は衛星を離れたところから見ているイメージ
衛星を俯瞰でみるイメージ
衛星のカメラからみたイメージ

「EYEコネクト」から命令が発信されると、順次衛星に撮影予約が送られ、指定された時間に撮影が行なわれ、ダウンロードが可能になります。

「EYEコネクト」上では、リアルタイムで「EYE」が飛行している場所を表示していますが、時間は自由に変更できますので、自分が撮影したい場所はいつ撮影可能なのかを視覚的に確認できます。

また、具体的な地名を入力することで、その場所を通過する時間帯をすぐに確認可能です。撮影したい場所が決まっている場合は、地名を検索したほうが早いでしょう。

「EYE」が撮影したヒマラヤ山脈

EYEでできる事とできない事

「EYE」は、周回軌道にそって、地球の高度約500kmを1周約95分で回っています。本来はこの状態から、「EYE」を地球側に向けたり、宇宙側に向けたりなど、自由な動きを命令することができる予定だったのですが、残念ながら前述のトラブルにより、自由な姿勢を命令することはできなくなりました。現在は、電力供給を安定させるため、太陽電池を常に太陽に向ける姿勢で固定され、衛星自身も1周6分ほどの速度で回転をしています。そのため、カメラは常に太陽の反対側を向いていることになります。その状態で地球を周回しているため、撮影可能な範囲は限られます。位置によっては太陽を背にして宇宙しか写らない場所もありえます。

EYEは太陽を背にした姿勢で固定されています

また、衛星の回転運動により、写真の角度がズレる事があります。本来は「EYEコネクト」で確認した撮影イメージをそのまま撮影できるはずでしたが、衛星自身が回転していることから、完全にイメージ通りの撮影をすることは難しくなっています。

EYEの姿勢以外にも撮影にはさまざまな条件が関わってきます

たとえば、EYEに搭載されているカメラの焦点距離が28mmの時、姿勢が10度ずれると、画角が水平方向で20%弱、垂直方向で20%ずれることになります。撮影タイミングでどれだけズレるかは予測できないため、完全に思い通りの撮影をすることは難しく、運次第、ということになります。カメラの性能としてはズーム撮影も可能なのですが、画角がより狭くなり、位置がズレた時の影響が大きいのでお勧めされていません。

姿勢が10度ズレた場合のイメージ
EYEコネクトとのズレ

「EYEコネクト」では、「EYE」のカメラから見た映像のイメージをCGで確認できますが、実際の撮影では誤差が発生することは意識しておきましょう。

どんな写真になるかは運次第?

今回実際に撮影したのは、「EYE」が「2023年12月12日9時20分49秒」に日本上空を通過したときの写真です。今まで宇宙飛行士ぐらいしか撮影できなかったような写真をあっさり撮れてしまっています。普通に凄くないですか? STAR SPHEREプロジェクトのコンセプトの一つとして「宇宙旅行にでかけた人が手持ちのカメラで撮影したような写真を撮れる」というものがあったのですが、まさにそれを実現しています。

筆者が撮影した地球の画像

残念ながら当日は雲が多く、日本列島はみえないのですが、この日、宇宙からこの場所の写真を撮ったのは、まず間違いなく自分だけです。そう思うとカタルシスがありますね。宇宙と青い地球のコントラストも素晴らしいです。真っ先に思い浮かんだ感想は月並みな「地球は青かった」ですが、自分でこの言葉を原稿に書く日はこの先なさそうなので、記念に記しておきます。

ちなみに「EYEコネクト」上では、もう少し日本列島が中心に来る予定でしたが、このあたりはやはり運試しですね。運が良ければそうした写真も撮れるはずですので、機会があればぜひ試してみてください。正直なところ、想定通りではなくても、宇宙から撮った写真というだけで満足度がかなり高いです。

EYEコネクトで筆者が指示した時点でのイメージ

STAR SPHEREの楽しさは、なんと言っても「誰でも人工衛星で写真が撮れる」という点につきます。実際に宇宙からの写真を自分の命令によって撮影できる、というのはワクワクしませんか? 打ち上げ後に不具合が発生したという知らせを聞いた時にはどうなることかと思いましたが、撮影が可能なところまでこぎ着けた関係者の方々には敬意を表します。

人工衛星には寿命があり、「EYE」の場合は約2.5年と言われています。将来、新しい衛星が打ち上げられるかは現時点ではわかりませんが、新たな「EYE」が打ち上げられて自由に写真が撮れるときが来るのを楽しみにしながらも、今は衛星軌道上で活動している「EYE」で運試しをしながら写真撮影を楽しむのも良いのではないでしょうか。

「EYE」が撮影したオリオン座と地球の大気光