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NTTと東大、悪天候でもドローンを精密誘導する「ミリ波RFIDタグ」

(a) 正確な航法による船やトラックと協調したドローンの環境計測や物資運搬。(b) ドローンの誘導およびタグ読み取りの方法。(c) RFID読み取り装置であるミリ波レーダを搭載したドローン。(d) コーナリフレクタ構造により広い読み取り範囲を有する、本研究で開発した無電源RFIDタグ

NTTは、東京大学と共同で、ドローンの航法精度を向上させる「ミリ波RFIDタグ」を開発した。可視光に比べて天候の影響を受けにくいミリ波で読み取れるRFIDタグを使用することで、暗闇や悪天候による視界不良状況下でのドローンの航法精度を向上させる。将来的には海域や被災地等の情報の把握が困難であった未踏領域でも、全日全天候下で空から環境を計測し続けるセンサネットワークを構築し、気象予測や災害対応を高度化する。

2022年12月に施行された改正航空法により、ドローンが有人地帯での無人飛行が可能となったが、現在のドローンの無人飛行はカメラを用いた画像認識技術に大きく依存しているため、夜間や霧、雨天時など画像認識が困難な状況下では、飛行性能が著しく低下するという問題があった。そのため、このような状況下でもドローンが周囲の状況を適切に把握し、自動着陸や物資運搬などの飛行を可能とする航法の高精度化が必要になる。

開発したのは、ドローンに搭載可能な小型のミリ波レーダを使い、空中から広範囲で位置と情報を読み取れるバッテリーレスなRFIDタグ。タグを周囲環境の情報を伝える標識として活用することでドローンの航法を高精度化し、視界不良下での高度な自律飛行を可能にする。

これまでにもドローンの航法・飛行誘導にはさまざまな手法が提案されてきたが、本技術は、視界不良下で機能し、電源を設置できない場所でも利用できる点が特徴。これにより、電源の設置が難しい未踏領域でも全天候型のドローンが自律的に活動し、災害対応や気象予測の高度化に貢献できる。

また、従来のミリ波RFID技術が抱えていた、読み取り範囲の狭さや周辺構造物による読み取り性能の低下という問題を解決するため、タグの構造設計と信号処理手法を新たに確立している。

新たなタグの構造設計により読み取り性能を向上

従来のRFIDでは、平面型のアンテナを使用するため電波反射範囲が狭く、空中から読み取れる範囲が限られていた。これを解決するため、3次元の再帰性反射を有するコーナリフレクタを利用した新たなタグ設計手法を開発。具体的には、コーナリフレクタ構造の形状変化やバーコードのような配置によるビットパターンと読み取り可能距離の設計手法を確立した。これにより通信範囲が拡大し、実験により、10m以上の距離から仰角30度以上、方位角20度以上の範囲で読み取れ、3次元の読み取り可能な角度は従来の7.8倍以上であることが確認できた。

ミリ波レーダ信号処理における、従来のFFT(高速フーリエ変換)を使用した位置推定では、空間解像度が固定されているため、ビットパターンの読み取り成功率が低くなるという課題があった。そこで、固有値解析を用いた空間解像度を固定しない空間-反射強度推定手法を導入し、読み取り成功率を向上させた。

また、得られた空間-反射強度情報を含む点群をクラスタリングすることで、ノイズの多い環境下でもタグの位置を自動検出できる信号処理手法を開発。実験の結果、壁や車、階段などの障害物が周囲にある状況でも高精度にタグを検知して読み取ることができることを確認した。

障害物による不要反射が多い環境下におけるタグ検出手法の検証結果。車や壁、階段の近くにタグを置き、測定を行なった。開発したタグはリフレクタの配置および強度に特徴的なパターンを有しているため、障害物が多くても検知できることを示している

今後は、物流や医療などの幅広い分野でのパートナーとの連携も目指し、最終的には、ドローンだけでなく多様なIoTセンサで構成される空のセンサネットワークによる未踏領域の情報把握に向け、ハードウェアからソフトウェアまで最適化されたシステムを実装していく。