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パナソニック「発電するガラス窓」 住宅で長期実証実験
2023年9月1日 09:10
パナソニックホールディングスは、窓ガラスで発電可能なガラス建材一体型のペロブスカイト太陽電池のプロトタイプを開発。1年以上にわたる長期実証実験を神奈川県藤沢市辻堂にある「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」内にオープンする三井不動産レジデンシャルのモデルハウス「Future Co-Creation FINECOURT III」で開始した。一軒家の2Fバルコニー部分に設置し、実際の屋外における長期影響を検証する。
ペロブスカイト結晶を発電層とする「ペロブスカイト太陽電池」はフレキシブルで軽量、印刷・塗布技術を使って安価に製造でき、一般的なシリコン系太陽電池では設置が難しい場所にも設置できるといった利点がある。パナソニックHDではペロブスカイト太陽電池を、まち・くらしに調和する「発電するガラス」と位置付け、再生可能エネルギーの創出と都市景観の調和を両立するとともに、CO2削減へのインパクトとして貢献していくことを目指す。実証実験を通して発電性能や耐久性等の確認などを行ないながら事業化に向けて技術開発を加速する。
パナソニックのサステナブルスマートタウン「Fujisawa SST」
「Fujisawa SST」は2009年に撤退したパナソニック藤沢工場の跡地を活用した街づくりプロジェクト。藤沢市とパナソニックが協力して様々な先進的取り組みを行なっている。会見ではまずパナソニック オペレーショナルエクセレンス ビジネスソリューション本部 スマートシティ推進部 部長の荒川剛氏が、「Fujisawa SST」について解説した。当初から特に「サステナブル(持続性)」という点を重視して、「くらし発想」でバックキャストでスマートライフ実現に必要な開発を進めてきたという。
藤沢駅からバスで10分程度の場所にある「Fujisawa SST」の敷地面積は19ヘクタール。スマートハウスが約600戸、2,000名以上が居住している。コンセプトは「生きるエネルギーがうまれる街。」。街全体として環境目標、エネルギー目標、安心・安全目標を掲げている。18団体と行政が連携し、2014年の「まちびらき」から70件を超えるトライアルを実施してきた。
モデルハウス「Future Co-Creation FINECOURT」
今回の実証実験の場である「Future Co-Creation FINECOURT」とは三井不動産レジデンシャルとFujisawa SST協議会によって2017年から構築されているモデルハウスで、今回が第3弾となる。
五感の覚醒や心身のウェルネスを重視。リビング・ダイニングは吹抜けとし、在宅ワークのライフスタイルも意識した空間設計となっている。ペロブスカイト太陽電池以外にも、非常時にも使えるV2H蓄電システム、全館空調の熱交換気システム、ライフコンディショニング・シーリングライト、デジタルミラーの「ミロモ」、油ヤシの廃材を活用した再生木質ボード「PALM LOOP」などを取り入れている。環境に配慮した部材を積極的に活用することで「LCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)」住宅認定を取得している。
ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池
本題の実証実験については、パナソニック ホールディングス テクノロジー本部 マテリアル応用技術センター 1部 部長の金子幸広氏が解説した。ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は、戸建て住宅の2F、南東方向バルコニーに設置されている。発電もできるがガラスとしての機能も持ち合わせているため、いまガラスとして使われている全ての部材を置き換えることも可能だと考えているという。
CO2排出削減が強く求められる時代になっているが、日本国内で太陽光発電を行なえる場所は限られている。2050年には全ての建築物には太陽光発電設備設置が求められる予定であり、そのような背景からも「発電するガラス」のニーズは高い。
パナソニックは脱炭素に向けた取り組み「Panasonic GREEN IMPACT」の一環としてペロブスカイト太陽電池の発電効率の改善を進めてきた。「ペロブスカイト(灰チタン石)」とは結晶構造の名称で、有機-無機のハイブリッド構造となっており、これを発電部に利用する。厚さは約0.5μmと非常に薄い。有機材料の持つ「加工性・柔軟性・低温形成」と、無機材料の持つ優れた半導体特性による高効率を併せ持っている。
有機LEDディスプレイ生産で培った技術を活用することで、ガラス基板に直接、インクジェット技術を使って大面積塗布を行なうことで製造できる。金子氏は「薄くて軽いだけではない。液体原料から作れる高効率な太陽電池として認識してもらいたい」と語った。「ガラス建材」といっても様々なデザインがあるが、それら全てに対して対応していこうとしているという。
開発されたガラス建材一体型太陽電池(Building Integrated Photovoltaic、BIPV)は、シリコン型太陽電池とほぼ同等の、17.9%と世界最高レベルの効率を持つ。金子氏は「街中のビルの垂直面に使うことができれば、面積の問題はなくなる」と語った。
通常の窓ガラスは複層ガラス、合わせガラスだが、ペロブスカイト太陽電池はその内側に塗ることを想定している。厚さは変わらないので、従来通りそのまま施工できる。レーザーによるグラデーション加工によって透過性を変えることもできる。
まとめるとデザイン、サイズの自由度、実用サイズでは世界最高レベルの発電効率、シリコンに比べて製造時のエネルギー消費が少なく地球環境にやさしいこと、ガラス基板を使用することで建材対応をクリアしていること、そしてカスタマイズ対応が可能であることが特徴だという。
今回はバルコニー向けということで、グラデーション柄を提案している。実証実験のため、15cm角のモジュールを12枚貼り合わせているが、将来は1枚で作ることが可能になるという。「この1年を通して実証データを積み重ねて、きれいな、安定性のあるものをお届けしたい」と述べた。ガラスが利用されるあらゆる箇所が太陽電池化できるという。「まち・くらしに調和する『発電するガラス』で、あらゆる箇所の創エネ化ができる。社会実装を早めるためにガラスに注力している」と語った。