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花火体験を「触覚」で拡張する椅子「チェイニー」
2022年10月22日 09:00
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)は、10月21日、椅子型の触覚提示装置「Chainy(チェイニー)」を、巨大スクリーン展示「打ち上げ花火をデザインする」を体感して楽しむ触覚提示装置として期間限定で一般公開する。場所は、東京スカイツリータウン ソラマチ8Fにある千葉工大スカイツリータウンキャンパス。
Chainyを開発したのは、fuRo副所長の大和秀彰氏。東京大学 先端科学技術研究センター 特任助教の堀江新氏らが、JST ERATO「自在化身体プロジェクト」で開発した、皮膚せん断変形に基づく椅子型触覚提示装置「TorsionCrowds(トーションクラウズ)」をもとにしたデバイス。座面や背もたれにモーターを使った回転振動子の鎖を使用することで、触覚を提示できる。
10月22日~12月18日の土日祝日に一般公開する予定。この展示フロアでは2022年夏から、自分で好きな花火を選んで組み合わせて15mの巨大スクリーンに打ち上げることができる「打ち上げ花火をデザインする」が紹介されている。Chainyは、この花火を見ながら触覚でも体験できる椅子として、一般来場者が鑑賞できる。
Chainyの刺激は打ち上げ花火のフォルムの変容に合わせてインタラクティブに変化するほか、自分でディスプレイをタッチすることで刺激を感じることもできる。実際に体験してみたところ、多数の指で背中やお尻をくすぐられているような、今まで感じたことがない触覚体験だった。
今回の展示は東大と千葉工大のコラボレーションによって実現した。今後も両者は連携を深めていく予定。身体拡張体験の一つとして様々な未来の椅子のありようを来場者に投げかけるものであり、また、知覚や身体活動の一部に障がいのある方への触覚による身体体験の支援などの可能性も探索するとしている。
「背中を指でネジネジされる」感覚
会見では千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 所長の古田貴之氏は「我々はTorsionCrowds技術のユーザーの立場。これはとても可能性のある技術。たとえばモビリティに触覚技術で情報を提示できる。通常の方法では走行中に刺激を与えても意外とわからない。だがTorsionCrowdsはビビッときた。『背中を指でネジネジされる』感覚で、刺激がよくわかる。ぜひ体感してもらいたい」と述べた。
そして「ただ単に背中をネジネジだけでは面白くないので、以前から展示していた花火打ち上げ映像と組み合わせた。この技術とプロジェクトの楽しさや未来を感じてもらいたい」と紹介した。
東京大学 先端科学技術研究センター教授で、JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクト研究総括の稲見昌彦氏は「我々の触覚を背中に提示できる技術を、きちんと椅子のかたちにしてもらった。我々は人に寄り添った技術を開発してきたが、どうしてもプロトタイプ止まり、論文で終わってしまうことが多かった。fuRoの方はこれまでにもきちんとプロダクト化している。今回、このシーズを世の中につなげてもらった」とコメント。
そして「触覚は『繋げる技術』。他者と繋がったり、ロボットや乗り物、コンテンツとも繋がれる。振動を提示するだけではない。ふだんは椅子に座っていても触覚は意識しない。だが、もし触覚がなければバランスをとることもできない。無意識に働きかける技術でもある」と可能性を語った。
様々な体験と新たな繋がりを持てる
Chainyの原型機「TorsionCrowds」の技術の詳細は、東京大学 先端科学技術研究センター 特任助教 堀江新氏が解説した。TorsionCrowdsは、背もたれや座面に、複数の回転する刺激素子を埋め込み、皮膚の表面の同時かつ広範囲にひねりを加えることで、時空間的な分布を持つ力感覚を作り出す新しい触覚提示手法。回転接触子の角度や回転方向を制御すれば、体表面に生じる刺激の強度分布をダイナミックに再現できる触覚ディスプレイになるという。
展示用として開発されたChainyは、そこからエッセンスを取り出して基本構造から考え直したもの。TorsionCrowdsでは2軸ジンバル機構に支えられていたモーター群を金属の輪で連結し、チェーン化した。それが鎖の面として体重の圧を柔軟に支え、面的に分散させる。軽量化と低コスト化を両立することで、既存のオフィスチェアにも埋め込めるようになった。
いま、映像体験やメタバース体験、遠隔体験への需要が高まっている。様々なデバイスやロボットの腕、コンテンツとも繋がる研究も行なわれている。堀江氏らは、身体と情報層の境界を「身体の感覚」によって有機的に繋ぐインターフェイスが必要と考えて、触覚に着目して研究を進めている。
触覚は皮膚のひずみの分布によって生まれる。TorsionCrowdsはそこに着目し、モーターで皮膚に面的なひずみを生み出す。人の知覚を計測する心理物理実験等を行ない、ハードウェアの設計指針や、滑らかな刺激を与えるための制御指針を明らかにして、TorsionCrowdsを実現した。Chainyはそれを広く一般に届けるための取り組みの一つ。今後、ウェアラブル化をはじめとした新しい形態への応用も研究しているという。
マニュアル、オート、花火モードを体験可能
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 副所長の大和秀彰氏は、「これは面白い、一般の人に体験してもらうことができないかと考えたことが今回の開発の発端だ」と紹介。オリジナルは複雑な機構であったため、一般的に体験してもらうためにメカ構造的に簡素化することから始めた。
まずは触覚刺激デバイスをチェーン化。これにより様々な体型の人にも適応できるようにもなった。これをオフィスチェアに組み込んだ。全体で48の刺激デバイスを組み込み、音響や映像に合わせて触覚刺激を与える。
モードは3つ。自分で刺激できるマニュアル、スライドバーに応じたオート、そして花火モードである。来場者が自分で花火を選び、順番をプログラムできる。その結果をディスプレイで投影するのに合わせて、触覚を体験提示する。「是非体験してもらい、どんなことに使えるか考えを巡らせてもらいたい」と語った。