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四足歩行ロボ「Spot」斜面を登る。スマート林業に投入
2022年6月29日 12:10
森林研究・整備機構 森林総合研究所とソフトバンクは、林業における電動ロボットの活用に向けた実証実験に関する説明会を6月28日に開催し、茨城県つくば市にある森林総合研究所の模擬試験場でロボットのデモを行なった。ソフトバンクの高精度測位サービス「ichimill(イチミル)」と、米国Boston Dynamicsの四足歩行ロボット「Spot(スポット)」を用いて、人工林のなかでの自律移動・監視・点検、運搬能力などを検証する。
国内の人工林は、約半分が伐採時期を迎えて木材の利用が拡大している。しかし林業事業者の高齢化や担い手不足、少ない伐採収益のために森林の再造林は進んでいない。これは二酸化炭素の吸収量低下や森林荒廃による災害増などにも繋がる。また、林業は人力作業が多く、省力化と労働災害の削減が課題となっている。そこでロボット他の技術を用いて2050年の完全自動化に向けて「スマート林業」の早期実現を目指す。
デモでは斜度10度、17.5度、25度の斜面を自動で登り下りする様子が紹介された。炎天下で気温34度超と、Androidのコントローラーが熱で止まってしまう過酷な環境のなか、ロボットは合計10kg以上のペットボトルを背中に載せて動作し続けた。
農山村の森林整備に対応した脱炭素型電動ロボットの研究開発
この実験は、2021年度に森林総合研究所とソフトバンクが共同提案を行ない、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から受託した「NEDO先導研究プログラム/農山村の森林整備に対応した脱炭素型電動ロボットの研究開発」において実施するもの。期間は2021年4月から2023年3月31日まで。
2021年度は北海道下川町にある造林地や急傾斜地などの過酷な環境下で電動四足歩行ロボットの歩行能力について調査・検討を行ない、一定の条件下であれば、斜面や障害物などがあっても安定した歩行ができることを確認した。
2022年度は電動四足歩行ロボットが造林地の巡回や監視、荷物の運搬等を担えるか検証する試験を実施する。作業が可能な地表面の凹凸や柔らかさ、傾斜などを明らかにする。また、造林地で設定したルートを自動歩行する機能や、複数台のロボットで協調作業を行なうためのシステムの開発に取り組む。
造林地の多くは携帯電話の電波が届かない。そういった場所でもロボットを運用するために、衛星通信や長距離・広範囲をカバーするWi-Fiなど複数の通信手段を用いて、造林地でロボットが自動で歩行するための通信環境の構築および検証も行なう。ソフトバンクは自動歩行機能向けに高精度測位サービス「ichimill」のほか、通信事業者としての知見やノウハウを提供する。実験は北海道下川町および、茨城県つくば市で計2回行なう予定。つくばでは森林総合研究所のほか筑波山で実験を行なう。スケジュールは検討中。
林業の課題とロボットへの期待
森林研究・整備機構 森林総合研究所 研究ディレクターの宇都木玄氏は、「緒に就いたばかりだが、国をあげた研究にしていきたい」と意気込みを述べた。そして「国産材の供給力を強化していかなければならない。次世代確保も大きな課題。特にこの10年、再造林率が40%以下と横ばいで進んでいない」と林業の課題を紹介した。伐採収益が再造林経費よりも低く、植栽や下刈りが手作業であること、急傾斜地や伐採したあとの根の点在、集材時に生じる端材が散乱するなど機械化が困難な環境条件が再造林の機械化が進まない要因となっている。また鹿により苗木が食べられてしまうという被害もある。
そこで走破性が高く多機能に使える機械、小型で脱炭素にむけた電動化が必要だと考えた。森林管理の自動化、人手作業の手伝い、安全確保、見回り作業、各種機械の協調による全自動化を想定し、今回の四脚式ロボットの検証となった。Spotは30度までの斜面に対応、30cmまでの障害物乗り越えが可能。自動歩行、全方位の環境認識機能がある。そして「ロボットが貢献できることは明らかになりつつある。ソフトバンクには技術のポテンシャルを具体的に明らかにするとともに、通信環境などの課題解消を期待したい」と語った。
なおSpotを選んだ理由は他と比較して一番性能が高いと判断したため。「現在のロボットで何ができるかできないかがわかれば次のロボット開発にも活用できるだろう」と考えているという。
ロボットと通信技術による地域課題の解決
ソフトバンクは2030年にカーボンニュートラルを実現する目標を掲げている。ソフトバンク CSR本部 地域CSR企画室室長の安東幸治氏は、脱炭素の取組の重要性を再度強調した。では、なぜ林業なのか。「林業は大きな岐路に立たされているが、技術で解決できる課題もある。環境負荷の低減と、通信技術そのほかで林業を活性化する上でできることがある」と考えて、今回の検証に至ったという。
具体的には防鹿柵(鹿を防ぐ柵)の自動点検、苗木や防鹿柵などの運搬、森林の調査計測における可能性を検証する。これまでに、30度までの斜面で歩けること、切り株も超えられること、雪がある場所でも歩けることは検証した。1年目は、ほぼ期待どおりの成果を挙げた。
2年目は準天頂衛星を使った位置情報サービスである「ichimill」を使った高精度な自動歩行、自動追従を使った道具や苗の運搬、複数台の協調動作による作業時間の短縮を検証する。SpotのSDKを活用しながら用途開発を進める。
また通信環境の改善も検証する。労働力を確保するためにも通信環境は重要であり、機器間通信にも重要だ。ロボット間は長距離Wi-Fi、人の端末とはプライベートLTE(sXGP)を使って通信を行なう。どの作業にはどの電波帯が向くかは実際にやってみないとわからない面が多く、実際の林で検証する必要がある。性能と設備投資費用の抑制などを見極める。
なお、ロボットと人との通信手段を分けているのは、ロボットをコントロールするための通信帯域を確保するため。低軌道衛星を使ったロボット管理システムとの通信の検証も進める。それぞれの実用性を実際の山で検証する。5Gを使わない理由は「低遅延である必要や多接続する必要がないから」とのこと。