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“公式とつながる”“生成AI禁止” サンリオ「キャラフォリオ」とクリエイター支援の新形態
2024年11月21日 08:20
サンリオが“公式とファンがつながる創作プラットフォーム”というキャッチコピーでスタートした新サービス「Charaforio」(キャラフォリオ)。企業やクリエイターが自身のシリーズ作品をIPとして登録し、そのファンがルールの中で創作活動を楽しめるプラットフォームとして注目を集めるほか、規約で生成AIの利用を禁止した点もネット上では話題になった。
サンリオは近年、VR空間で開催する「SANRIO Virtual Festival」を定期的に開催するなど、デジタル領域での活動を活発化させており、社内体制が変革されていることを窺わせる。キャラクタービジネス界の老舗であるサンリオが、デジタル領域で仕掛ける新たな取り組みとはどんなものなのか。
本稿ではCaraforioのプロデューサーを務める、サンリオ 事業戦略本部 デジタル事業開発部の湯木貴子氏に話を伺い、Caraforioの戦略やサンリオのデジタル戦略について明らかにしている。
安心して盛り上がれるファン創作の新たな場所
「Charaforio」は、キャッチコピーを「公式とファンがつながる創作プラットフォーム」としているように、ファン創作を通して、公式とファンが一緒になってIPを盛り上げるプラットフォームという位置付けになっている。
「ユーザー調査を行なったところ、ファン創作(二次創作)について、権利許諾に関してグレーと感じ、手を出しづらいと思っているユーザーが多いことが分かりました。また、クリエイターやファンが、公式の権利許諾のもとで安心して楽しめる場所が欲しいというニーズがあることも分かりました。
そうした“潜在市場”に対する課題を解決して、ルールを守って活動したい、公式と一緒にIPを盛り上げたいと思っているユーザーに、ファン創作をより楽しんでもらい、潜在市場が顕在化して、活性化することを目指しています」。
サンリオが手掛ける意味は「クリエイター支援」
Caraforioは、サンリオが自社キャラクターの展開を最大化するためのプラットフォームではなく、クリエイターやファンに使ってもらうためのプラットフォームになっている。デジタル領域でこうした事業を進める背景とはどのようなものだろうか。
「サンリオはもともとクリエイターと関わる機会が多い企業ですが、近年はSNSをはじめクリエイターの活動の場が広がったことで、個人クリエイターの存在感も大きくなっている状況です。
これまで60年以上にわたりキャラクターIPビジネスをグローバルで展開しています。版権管理やグッズ化、ライセンスビジネスのノウハウを持っており、それらを活かして、クリエイターが活躍できる場を作りたいと考えています。
またCaraforioの運営を通して、クリエイターに活躍の場を広げてもらったり、私たちと一緒に仕事をしたいと思ってもらったり、サンリオという企業を支持してもらうことで、つながりが生まれると考えています。
趣旨をもう少しCaraforioに絞ると、ファン創作市場でまだ十分に理解が進んでいない知財や権利、知識、考え方を広めることにも、貢献できると思います。これらは、結果としてクリエイターの権利や活動を守ることにもつながります」。
このように、クリエイターの支援の場であることを明確に打ち出し、ファン活動やIP(知財)についての理解も深めてもらおうということも背景にあるとしている。
生成AIに対する課題感
規約に明記され話題にもなった生成AIに対するスタンスも、概ねクリエイター側の立場で設定されている。
「生成AIについては、現時点では、クリエイターの健全な創作活動を阻害するケースや、クリエイターの不安につながる場合があることについて、大変重く受け止めています。
Caraforioは、クリエイターに安心して使ってもらえるサービスを目指しています。そのため、生成AIによって作られた作品の投稿と、生成AIの学習元として利用する行為については、禁止させていただきました。
実際に生成AIで作成されたものかどうかを見分けるのは、技術の進歩もあり難しい点もあると実感していますが、クリエイターが自身の作品と権利を守れるという点についての仕組みづくりは、現在検討を進めています」。
“生成AI禁止”や“公式とつながる”の反応は?
大手のイラスト投稿サイトにおける生成AIイラストは、賛否両論の域を脱せず、ユーザーの反応は別れているように見受けられる。“生成AI禁止”として注目を集めた側面もあるCaraforioにおいて、参加しているユーザーやクリエイターの反応はどのようなものだろうか。
「生成AI関連は反響が大きかったですね。元々の課題感や、クリエイターに安心して使ってもらいたいという点で、重要だと受け止めていた部分です。皆さんの反応を見て、今後もクリエイターが作品や権利を守れるような仕組みづくりは、さらに強化していきたいです」。
また担当の湯木氏としては、“公式とつながる”というスタイルも、ユーザーやファンの反応として少し見通せない部分があったという。「今まで“公式が用意した場所でファン創作を見てもらう”という経験がない中で、それが受け入れられるのかどうか心配していましたが、受け入れてもらえているようです。IPとの公認コラボとしてイラストに公認マークが押されて、喜んでいる反応などもありましたね」。
「IPの権利まわりは、一般ユーザーには馴染みのない部分かもしれませんが、あえて『IP』という単語を使って、言葉の意味や、Caraforioではどう扱うのかといった説明を随所で行なっています。そうした新しい言葉についても、皆さんに受け入れてもらっているようで、これは想定していたよりも良い結果だと思いました」というように、クリエイターの権利や保護の面でも新しい言葉やその浸透に腐心している。
過去の実績を紹介できるポートフォリオとして
クリエイターの活動という意味では、既存のサービスはクリエイターの収入基盤として運用するには課題が残っていると感じていたという。Caraforioではそうしたクリエイターの活動が受注につながるような仕組みも用意している。
「多くのクリエイターは高い品質で納期を守って活動したいと考えていると思いますが、既存のサービスではそうした過去の実績を示す手段が無いか、あるいは分散しているため、発注する側から見ると、どのクリエイターが良いのか分からないという面がありました。
Caraforioでは、公認コラボ機能を用いて過去の案件を記録することもできますし、サンリオからライセンシーにクリエイターを紹介することなどを通して、クリエイターと企業のマッチング支援を行なっていきたいと考えています。こうしたことも、サンリオのこれまでのビジネスを活かしたものになります」。
Caraforioでは、クリエイターが持つシリーズ作品をIPページに登録でき、作品のポートフォリオにように使うことも可能だ。「ポートフォリオのページがあることで、ゲーム化やアニメ化といったメディア展開の可能性も高められるのではないかと考えています」という。
既存サービスがある中での挑戦
Caraforioが当初に対応する“イラストを投稿できる二次創作のプラットフォーム”という面でみると、既存サービスといくつか似通った面があるのは確か。しかし、「Caraforioは公式とファンが一緒にファン創作を楽しむという特徴から、対象になるユーザーや市場が、既存サービスとは異なります。そのため、直接的な競合関係にあるとは考えていません」というように、コンセプトや対象が異なる部分は多い。
「IPページにはファン創作作品が蓄積されていきますし、作品に公式から『公認マーク』が押されるといったCaraforioならではの特徴も楽しんでもらいたいですね。また、ファン創作活動はCaraforio内にとどまって活動してほしいと考えているわけではなく、むしろ拡散に向いている他のサービスと併用して使ってもらいたいというイメージです」というように、ほかのSNSなどと積極的に連携してほしいという方針。
「クリエイターが企業から仕事を獲得しやすくなる場、という点も目指していますので、近いうちに、企業が安心して使えるような受発注機能の実装も予定しています。物販販売などのビジネスを手掛けてきたサンリオだからこそ支援できる部分で、ここも既存サービスにはない点だと思います」。
IP登録数が拡大、方針に共感する声も
8月7日のサービス立ち上げから(取材時点の)9月末までで、会員登録者数は約7,000人、IP登録数は280件以上とのこと。閲覧のみなら会員登録は不要で、「いいね」やコメント、作品を投稿するに場合に会員登録が必要になる。
Caraforio上ではすでに、大型企画として「次に来る新人VTuber大投票~国内編~」を開催し、60名のVTuberが参加したという。
「この企画では、公式という立場のVTuberがファン創作作品を取り上げたり、配信素材として活用したり、作品へコメントしたりといった、公式(VTuber)とファンとの活発な関わりが見受けられました。SNSなどでもCaraforioの方針に共感してもらえている意見が多く、今後も機能のアップデートなどを進めていきたいです」。
無料で提供開始、今後の収益は?
Caraforioはプラットフォームサービスで、ユーザーには無料で提供されている。ビジネスモデル、収益化構造はどうなっているのだろうか。
「現在は完全無料のサービスとして提供していますが、今後は受発注機能や、ファンがIPやクリイターを金銭的に支援する仕組みなどの実装を予定しています」。
また、例えばゲーム化などの、「作品の出口づくり」も行なっていく予定。この場合、収益はサンリオ、IPのホルダー、クリエイターで分配するスキーム構築を目指していくとしている。
ファン創作グッズでも“推し”に収益還元
近年は「推し活」としてファンがさまざまなグッズを購入、作品の展開や存続を“支援”するという活動スタイルも一般的になっている。Caraforioは、例えばグッズ販売などの形で、そうした活動の受け皿にもなり得るのだろうか。
湯木氏は、「そこも作品の“出口づくり”のひとつとして捉えており、グッズ販売機能の実装なども現在検討しています」と、検討中である旨を回答している。
さらに、Caraforioの仕組みを利用して、ファン創作のグッズ販売でもIPホルダーに収益が還元される仕組みも実現する方針。
「既存サービスでは、ファン創作のモノを販売した時に、収益がIPホルダーにまで還元される仕組みは難しいと思いますが、Caraforioでは、ガイドラインの内容次第でそうしたことも実現できると考えています。
既存IPのファン創作のグッズ販売でも、IPホルダーまで還元される世界で、商品を買うファンにとっても、クリエイターだけでなく好きなIPにも還元されるという世界を目指したいと思います。
この1~2年での実装は難しいかもしれませんが、最初から構想として検討しているので、受発注機能などを経て、最終的にはそうした収益還元の仕組みまで目指したいと考えています」。
Caraforioはクリエイター支援を打ち出しているサービスだが、将来的には投稿できる作品の種類を拡大したり、ファンがIPを応援できる仕組みを増やしたりするなど、機能の拡大も予定している。
「この1年は、クリエイターが使いやすく、クリエイターが仕事を獲得できるプラットフォームになれるように注力した施策を展開していく予定です。
それ以降のフェーズについては、ファンやクリエイターがIPを“推せる”機能の実装を考えています。
そうした実装を経て、Caraforioに投稿された作品がCaraforioの外に飛び出す、あるいはCaraforioの中から新しいスターが誕生する、そういう世界を目指しています」。
“スターの誕生”をサンリオが支援
Caraforioの将来像や目指す姿はどんなものだろうか。それは、原石であるクリエイターが成長してスターになることだという。
「Caraforioは、ファンの力で創作活動が活発になり、新しいファンに見つけられて、クリエイターが成長してスターになる。そういう形を実現したいと思っています。
今回実施したVTuberイベントでは、優勝したVTuberを「SANRIO Virtual Festival」に招待して出演してもらうという取り組みも用意しますが、そうしたクリエイターの活動を支援できる場を用意していきたいと考えています。
原石であるクリエイターやIPが、ファン創作活動で盛り上がっていくという状況は、自発的なものだけでは難しいこともあり、課題と感じていますので、企業がなにかしらの支援をする仕組みは重要だと思います」。
サンリオのデジタル戦略の一環として
サンリオがデジタル領域でイラスト投稿プラットフォームを立ち上げ、クリエイター支援を行なう――これだけでは唐突に聞こえるが、実際には2020年に現在の社長が就任したのを機にデジタル戦略を推進しており、VRイベント「SANRIO Virtual Festival」を開催。Caraforioもデジタル領域での取り組みの一環という位置付けだ。
「Caraforioの事業継続にあたっての取り組みや、収益構造の確立は大切ですが、今回、サンリオとして突然クリエイター支援の活動を始めたわけではありません。
サンリオは創業当初、一般読者から募集した詩にプロのイラストレーターが挿絵を入れるコーナーも用意した文芸誌の刊行事業を行なうなど、クリエイターやアーティストを志す人たちに活躍する場を提供する試みを行なってきました。
一方、時代がデジタルへと切り替わっても、そういった取り組みを実現する必要があるという考えや背景があります。
2020年に(創業以来はじめて)社長が交代し『第二の創業』を掲げていますが、その中では、既存のライセンスビジネスや物販ビジネスのほかに、さらなるグローバルエンターテイメント企業を目指すことを掲げています。
その一環として、デジタルでのエンタメの提供があります。従来の販売店を通したつながりだけでなく、デジタル領域にも重きを置いて、展開しています。
VR空間でイベントを開催する「SANRIO Virtual Festival」をはじめ、昨年はVTuberグループ『にゃんたじあ!』もデビューしましたし、そうしたデジタル領域の活動が、Caraforioにつながっています。
クリエイターとの関わりという点でも、例えば「SANRIO Virtual Festival」はエンタメ提供の場というだけでなく、個人クリエイターに制作や出演を依頼していることもあり、外のクリエイターを巻き込みながらコンテンツを作っているという経緯があります。今後ますますクリエイターとの関わりが増えていくことを考えても、クリエイターを支援して、さらに良い関係を築いていくことは、非常に大切な取り組みになります。
それぞれのデジタル領域のプロジェクトは、最終的には相互関係をさらに強めるような形にしていきたいですね。すでに(サンリオが手掛ける)VTuberグループの「にゃんたじあ!」は、CaraforioにIPとして登録して、ファン創作を活性化する取り組みを行なっています。またCaraforioの投票イベントに参加して優勝したVTuberには「SANRIO Virtual Festival」に3Dモデルで出演してもらう予定です。そうしたデジタルプロジェクトが一体となって取り組みが実現できればと思います」。
サンリオは、デジタル領域での活動において、今まで以上に外部のクリエイターと関わる機会が多くなると予想している。そうしたクリエイターを、ファンの創作活動の場や力を絡めながら支援していくプラットフォームがCaraforioという形になっている。
(C)'24 SANRIO 著作(株)サンリオ