鈴木淳也のPay Attention

第224回

マイナ保険証とマイナ免許証の実際

第4代目デジタル大臣に就任会見時の平将明氏。ちなみに右手の小指に付けているのがEVERING、薬指に付けているのがOura Ringとのこと

総務省によれば、2024年10月末時点でのマイナンバーカードの保有枚数は9,449万8,951枚で、全人口に対する保有率は75.7%となる。国外在住者合わせて日本人(在日外国人含む)の4人に3人はマイナンバーカードを保有しており、今後1年以内に8-9割の水準に達することを考えれば、普及にあたっての一定のマイルストーンは達成したといえるだろう。

12月2日からは現行の健康保険証は廃止され、基本的にはマイナンバーカードに紐付けされた保険証、世間的には「マイナ保険証」と呼ばれるものに一本化されることになる。他方で、国民皆保険の日本の保険制度において普及率が4分の3の公的証明書へと一本化されることで、いまだマイナンバーカードを未取得であったり、紐付けが完了していない利用者にとっては不都合が生じる

厚生労働省によれば、9月末時点でのマイナンバーカードの健康保険証利用登録件数は7,627万2,065件で、総務省が公開している9月末時点でのデータと合わせると有効登録率は81.2%となる。

つまり、現在マイナ保険証を利用可能な人の割合は人口の6割程度ということで、一気に移行とするにはまだ低い水準だ。そのため、カードを保有していない、あるいは紐付けを行なっておらず「マイナ保険証」が利用可能な状態でない人には、「資格確認書」が医療保険者(勤務先や自治体)から無償で自動交付されることになっている。

移行のための措置ではあるが、一本化に向けての準備期間での対応といえる。なお、マイナンバーカードに関するデータはデジタル庁がダッシュボードで公開しており、過去のデータを含めてCSVまたはExcel形式で公開されているので、興味ある方は参照してほしい。

総務省が公開するマイナンバーカードの保有枚数に関するデータ(2024年10月末時点)

本稿では直近でマイナンバーカードに続けてやってくる2つの大きなイベント、前段のマイナ保険証ならびに、'25年3月24日にスタートするマイナンバーカードへの運転免許証統合、いわゆる「マイナ免許証」について最新情報に触れたい。

25年3月24日スタートの「マイナ免許証」を予習

まずは「マイナ免許証」から。警察庁によれば、2025年3月24日以降は運転免許証の発行は3つのパターンとなる。

1つは従来の運転免許証をそのまま使うパターン、2つめはマイナンバーカードのICチップ内にデータを記録する「マイナ免許証」のみを発行するパターン、3つめは従来の運転免許証と「マイナ免許証」の両方を発行するパターンだ。

2つめの「マイナ免許証のみ」を選択する場合、3つのメリットがある。1つは従来まで引っ越しなどの住所変更で市役所や区役所への届け出と合わせて、運転免許証保持者は別途警察署へも住所変更手続きが必要だったが、これが自治体への届け出だけで済むようになる。2つめのメリットは、更新手数料は「マイナ免許証」のみを選択した場合が一番安くなること。3つめは「優良運転者講習・一般運転者講習」がオンライン受講可能になることだ。

一方、「マイナ免許証のみ」の顕著なデメリットとしては、券面を直接確認する手段がなくなるため、これを運転免許証として各所で提示したり、あるいは有効期限の確認がすぐに行なえなくなるといったものが挙げられる。そのため、警察庁ではマイナンバーカード内に記録されたデータを読み出すための「マイナ免許証読み取りアプリ」を準備中で、利用者はこれをスマートフォンにインストールすることでデータの読み出しが可能だ。このほか、手続き次第でマイナポータル上から情報を読み出すことも可能になる。

警察庁が配布している「マイナ免許証」のリーフレット

なお、マイナ免許証に記載されるデータは下記のようになっている。

  • マイナ免許証の番号
  • 免許の年月日及びマイナ免許証の有効期間の末日
  • 免許の種類
  • 免許の条件に係る事項
  • 顔写真
「マイナ免許証」に書き込まれるデータ

住所や生年月日などマイナンバーカードと重複するデータは除外され、あくまで運転免許証の資格確認に必要なデータのみの記載となる。ICチップの容量を多めに消費する顔写真データが重複しているのが気になるが、このあたりの意図は後日改めて取材で確認したい。

講習はオンラインで済ませることが可能になる一方で、マイナ免許証への移行やデータの書き換えそのものは免許センターなどへ直接出向く必要がある。視力検査や写真撮影を改めて行なう必要があるためだ。

実際に制度がスタートしてみないと分からない部分があるが、結局書き換え準備のための待ち時間が発生すると思われ、特に優良運転者講習の場合はオンライン受講がどの程度意味があるのかは未知数だ。

'25年3月24日以降、運転免許証に3つの発行パターンが登場するのは上記のとおりだが、両方発行するメリットはあるのだろうか?

おそらく大きいのは国際運転免許証の存在だろう。日本の運転免許証はジュネーブ条約に加盟する国において国際運転免許証を提示することで車両の運転が可能になるが、場合によってはレンタカー利用時などに原本である日本の運転免許証の提示を求められるケースがある。その際、データのみで券面情報のないマイナ免許証では提示が難しい。そのため、従来の運転免許証のみの発行よりも割高になるが、マイナ免許証と両方を発行してもらうことが考えられる。これが3つめのパターンを選択する理由だ。

国際運転免許証の例

マイナンバーカードへの運転免許証情報の登録は、新たに「AP」と呼ばれる専用領域を作って対応する。マイナンバーカードには機能ごとに「AP」と呼ばれる領域が確保されており、この中に電子証明書や券面情報が登録されている。マイナ免許証もまた、「マイナ免許証AP」の形で領域が確保され、各種データの読み取りに対応する形になる。

なお、これはマイナンバーカードという物理カードでの実装の話だが、スマートフォン対応となると話が少し異なる。

現在デジタル庁では2025年初夏を予定しているiPhoneへのマイナンバーカード機能搭載に合わせ、「mdoc」形式でのマイナンバーカードのスマートフォンへのデータ格納を準備している。mdocはスマートデバイスでのデジタル身分証を格納する標準形式で、特に「ISO/IEC 18013-5」と呼ばれるISO標準は運転免許証を格納する「mDL」の仕様となっている。

現在iPhoneでは米国の一部州の運転免許証ならびに州発行のID(State ID)の格納にこの仕様を用いており、マイナ免許証のスマートフォンへの格納もまたこれに収れんしていく形となる。mdoc/mDLの詳細と最新トレンドについては後日改めて解説したい。

マイナンバーカードに格納されるデータ(出典:デジタル庁)
現在スマートフォンへのマイナンバーカード機能搭載はmdoc対応を目指して準備中(出典:デジタル庁)

マイナ保険証にまつわる誤情報の流布

続いてマイナ保険証だ。政府は従来の保険証からマイナ保険証への一本化を前提に制度を進めているが、一方でマイナンバーカードの普及率とマイナ保険証の利用登録率を鑑みれば一足飛びでの移行は難しく、それが「資格確認書」の提供となった。

11月15日に行なわれたデジタル大臣の平将明氏による閣議後会見では、恒例のように「従来の健康保険証は本人確認には不十分で、マイナ保険証への移行はそれを強化する狙いがあるというが、一方で顔写真もICチップもない資格確認書を提供するわけで、政府は不正利用をなくしたいのか、あるいは減らしたいのか。従来の保険証や資格確認書に顔写真やICチップを付与するだけではだめなのか」といった質問がなされていた。

これについて平氏は「指摘の通りだが、移行期間であり、『資格確認書』はこの際に不安に思われる方に提供するもの。(デジタル化の考えから)一本化の原則には変わりなく、マイナンバーカードと同等の発行方法を強いる仕組みの併走は考えられない」と、本来の目的であるコスト削減とデジタル化の進展の両面から一部で上がっている意見を否定する。またマイナ保険証利用に足踏みが続いている状況についても、電車の改札が紙切符から自動改札を経てSuicaへと至った事例を挙げ、周辺環境が整備されることでマイナ保険証もまた利用が進展していくと考えていると述べた。

マイナ保険証一本化へのスケジュール。12月2日に現行の保険証が廃止されて以降は1年間の猶予期間の間に資格確認書の提供が行なわれ、マイナ保険証を保持しない利用者はこの資格確認書を当面利用することになる

なお、現行の保険証は廃止から1年後の2025年12月までは利用が可能だが、以後マイナ保険証の利用登録をしていない人は、資格確認書を利用する形となる。資格確認書は最大で5年の有効期限が設定されている(各保険者が設定)が、平氏によれば「現状で5年から先のことで決まっていることはない」という。

また、現在で医療機関に設置されているマイナンバーカードを使ったオンライン資格確認の顔認証装置については、モバイル端末からの利用が行なえず、仕様的にもソフトウェアの改修等で対応できる状態ではない。そのため、「アタッチメントなどの追加装置でモバイル対応できる方法を考えている」と以前にデジタル庁の関係者が説明していたが、平氏は「少なくとも機器リプレイスなどの二重投資は考えられない。どう対応するか、また時期について現状でデジタル大臣として持ち合わせているコメントはない」と語っている。

少なくともiPhoneへのマイナンバーカード機能搭載が始まる夏以降はモバイル利用者の急増が見込まれるため、何らかの形で早期対応を実現すべきだろう。

医療機関に設置されているマイナンバーカードによるオンライン資格確認装置の例

厚労省によれば9月時点でのマイナ保険証利用率は13.87%。現行保険証廃止の12月時点では20%近い水準に近づいている可能性があるが、まだまだ低い水準なのが実際だ。

ただ、平氏が指摘するようにマイナ保険証一本化の過程で自然と利用件数が増えてくるものと思われ、「利用率が低いから移行すべきではない」というよりも、「移行すべき状況を作ることで自然と利用率が増加する」となる可能性が高い。特に前述のようにモバイル利用が増えると財布などからマイナンバーカードを取り出す手間もなくなるため、そのハードルはさらに低くなると思われる。

このほか、本来は保険の資格確認は毎月行なうよう指導されているようだが、実際には多くの利用者は(転職などで)それほど資格情報が変化することはないため、医療機関のPCに記録されている資格情報をそのまま次回の診療に利用するケースがある。実際、筆者も小規模な医院などで顔見知りのところはマイナンバーカードを提示せずに受診することが少なくない(筆者は国保なので限度額情報が毎年変化するため、一応定期的にマイナンバーカードを提示するようにしている)。

オンライン資格確認の利用状況(出典:厚生労働省)

このほか、マイナ保険証では、一部団体などを中心に現行保険証廃止とマイナ保険証への一本化に反対を唱える意見がある。その過程で誤解を招く情報が多々流布されているのも気になったところだ。例えばNHKの高知NEWS WEBが10月21日に報じたものだが、高知保険医協会が8月から9月にかけて実施したマイナ保険証のトラブルに関するアンケートについて、同県内440の医療機関に送付し、32.7%にあたる144の医療機関から回答を得、そのうち5月以降にトラブルがあったと回答したのが全体の71.5%にのぼると説明している。

だが、厚労省が公開しているオンライン資格確認の導入状況に関するデータによれば、同県内の薬局を含むオンライン資格が稼働中の医療機関の数は9月末時点で1,162。薬局の数を抜いても786。このうち144の有効回答からトラブルがあったと報告した割合は71.5%だとしているが、医療機関全体からみればこの割合は8.9%だ。

しかも、トラブル内容の76.7%は「名前や住所で●(黒丸)が表示される」というもので、これは外字など本来は利用が不可能な文字が含まれる場合に、間違った文字が表示されることを防ぐための仕様であり、そもそも不具合ではない。

これのせいで名前が確認できないという意見も聞くが、そういった漢字はマイナンバーカードの券面に印刷されているわけで、なぜ頭を柔軟に働かせられないのか。

なお、記事に書かれていた「カードリーダーの接続不良や認証エラー」が本来報告されるべき不具合だ。7割という数字を前面に出しているが、全体の数字から見て実際の不具合は5%程度だ。しかもこの手のアンケートに回答するのは「不具合を感じてどうしてもクレームしたい」というケースが先立つため、この点でバイアスがかかっていることに注意したい。

また11月12日のNHK報道で「『マイナ保険証』保険証としての利用登録の解除の申請 792件に」というものがあった。これはそれまでできなかったマイナンバーカードと保険証の利用登録解除が可能になった10月下旬から同日までに792件の解除申請があったという厚生労働大臣のコメントを引用したものだが、現時点でのマイナ保険証の利用登録数は7,627万2,065件で、水準からいえば0.001%程度だ。しかも毎月利用登録が数十万件ペースで増えており、この数字は誤差レベルと考えていい。

また、医療機関でのトラブル報告で「マイナ保険証による資格確認が使えず、10割負担になった」というケースが散見されるが、車椅子利用などで顔認証が使えなかった場合はPINの代理入力やマイナンバーカードの券面の直接確認という手段も使えるほか、そもそも厚労省の指導では「10割負担はさせるな」となっている。

利用者に不具合を強いた医療機関の問題と言えるが、利用者側もまた正しい知識をもってこうしたトラブルに対処する必要があるのかもしれない。

厚労省が配布しているポスターの表面(出典:厚生労働省)
厚労省が配布しているポスターの裏面(出典:厚生労働省)

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)