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公共交通に広がる「Visaのタッチ決済」 '23年に他ブランドも鉄道対応へ

ビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)は14日、公共交通機関におけるVisaのタッチ決済の導入事例や今後の展開についての説明会を開催した。国内における高速バス以外の公共交通機関における広がりや、海外におけるモバイル利用の拡大、利用上限額をつけた「フェアキャッピング」の広がりなどについて説明した。

また三井住友カードは、同社が推進するクラウドシステム型交通乗車システム「stera transit」について説明。2023年にフルローンチとしてVisa以外の他ブランド(Mastercard、JCB等)のタッチ決済対応や、国内都市鉄道向けの相互直通運賃対応などを目指す方針を明らかにした。

タッチ決済の「モバイル」拡大。「フェアキャッピング」に注目

コロナ禍の拡大後、世界中でタッチ決済の利用が増加しているが、公共交通機関においても採用が進み、新たな傾向が見えてきたという。

2012年からVisaのタッチ決済を採用しているロンドンでは、週や1日などの単位で請求額の上限をつける「フェアキャッピング(Fare Capping)」が導入されたことで、定期券などが減少し続けており、代わりにタッチ決済の比率が伸びている。物理カードのOysterもタッチ決済を持っていない人や未成年、高齢者などで一定の利用が継続しているが、今後Oysterにもフェアキャッピングを導入するため、Visaのタッチ決済と同様のオープンループのシステムに載せ替える計画という。

またタッチ決済においても、Apple PayやGoogle Payを使ったモバイルやスマートウォッチ利用が拡大し、2020年2月の20%から'21年9月には25%まで拡大している。

こうしたロンドンでのタッチ決済の成功を受け、英国政府は英国全体へタッチ決済導入を拡大していく。鉄道だけでなくバス、トラムなどを都市単位でシステム刷新し、2023年のマンチェスターを皮切りに、3年かけてリバプール、バーミンガムなどの公共交通機関にタッチ決済を導入していく。

フィンランドのスコーネトラフィッケン(スコーネ鉄道)は、2011年に現金の取り扱いを停止し、デジタルチケッティング移行を促進。QRコードが約64%、タッチ決済が約30%、トラベルカードと紙ベースチケットが約6%となっている。また、香港やカナダのバンクーバーやトロントでもタッチ決済の導入が進んでいる。

ニューヨークにおいては、2019年から地下鉄やバスに非接触リーダを設置開始。15,000のタッチポイント(5,800バス、472駅)に導入完了している。また、2023年には磁気のメトロカードを廃止する。非接触リーダの導入完了後は、メトロカードの廃止などにより数十億ドルセーブできると試算している。

各地において、Apple PayやGoogle Payといったウォレットやウェアラブルデバイスの公共交通機関での利用が増加。マンチェスターでは、モバイルウォレットの利用者がタッチ決済利用者の39%となった。

公共交通機関におけるタッチ決済導入で、各地で注目・導入されているのがフェアキャッピング。利用者は、請求の上限額さえ把握しておけば、同一路線で定期券を買わずにm日々の料金を意識せずに路線を使えるようになる。上限の決め方は日・週の場合もあれば、定期券のような月単位などもあり、基本的には事業者のビジネスモデルとして定めるものとなっているが、タッチ決済導入時の柔軟な料金設定の一つとして各地で採用が進んでいる。

またタッチ決済は、利用者に対して料金体系を明確化でき、柔軟な料金設定ができるため、定期券やシーズンチケットなどの置き換えとしての期待が高いという。

国内においては、13プロジェクト14都道府県でVisaのタッチ決済を使った実証実験がスタートしている。当初は、高速バスが中心だったが、2020年からはバス・地下鉄・鉄道で導入が拡大している。

公共交通機関の変化。'23年の相互直通運賃対応も

三井住友カードは、クレジットカードのタッチ(非接触)決済やQRコードを認証媒体としたクラウドシステム型交通乗車システム「stera transit」について説明した。

茨城交通や南海電鉄、福岡市営地下鉄など、国内の各所で行なわれているVisaのタッチ決済を使った実証実験でも利用されているが、利用者、導入交通事業者ともに「総じて反応が良い」という。

利用者からは、「合理的・革新的な感じ」や「スマホひとつで乗車も買い物できれば便利」などの声があがっており、交通事業者からは「導入の意思決定から運用開始までスピーディ」「比較的安い」といった声があがっているという。懸念されていた改札等の通過速度についても、「交通系ICよりは遅いが、許容範囲という声を頂いている」という。

同社では、今後公共交通機関に大きな変化が訪れると予測している。

まず、定期券(主に通勤定期)利用者は、テレワークの推奨や生産年齢人口の減少により、減少傾向が続いている。一方定期外利用が増加しているほか、交通系におけるインバウンド旅客のニーズは高まっている。

定期券においては、コロナ禍以前の通勤事情に戻るとは考えづらく、新たな施策が求められる。そこでカードと紐付いたタッチ決済や新たなマーケティング施策などが収益改善の鍵となっていくと予測。QRチケットやMaaSと連携したマーケティング施策ともに、インバウンドや域外乗客を狙ったタッチ決済の導入が必要となるとする。

stera transitのカードの非接触決済は現状「Visaのタッチ決済」のみの対応となっている。三井住友カードは2023年ごろにインバウンド需要が戻り始めると予測し、同年にフルローンチとしてVisa以外のブランド(Mastercard、JCB等)のタッチ決済にも対応する予定。さらに、国内都市鉄道向けの相互直通運賃対応などを目指し、大阪万博やその後の国際イベントなどに対応していく。

あわせて、決済ターミナル「stera terminal」によるキャッシュレスの推進に加え、集客やプロモーション活用、免税対応や予約管理台帳、会計ソフト連動などの業務効率化に取り組んでいく。

キャッシュレス専用バスは「苦情あり」

横浜市交通局は、Visaのタッチ決済を導入した横浜市営バスにおける実証実験の成果について報告した。

バス会社は、コロナ禍の影響で収益的に厳しい状況となっているほか、少子高齢社会、人口減少社会の中でのバスネットワークの維持も課題となっている。そうした中で、短期的には乗務員の接触を減らせる機会として、中期的には現金管理コストの縮減や業務効率化などが期待できるとして、タッチ決済の実証実験を行なっている。

横浜市営バスでは、4路線の観光路線のほか、通勤路線での実証実験も行なっている。「109系統」のリムジン型車両の特急便の実証実験は、首都高速道路を経由するルートで座席定員制(先着順・予約不可)とし、速達性と快適性を向上。横浜駅前から大黒税関正門前などの通勤客を想定し、交通系ICカード(PASMO/Suica等)、定期券、1日乗車券、Visaのタッチ決済に対応し、現金非対応の「キャッシュレス専用」としている。

このキャッシュレス専用という取り組みに「数件の苦情をいただいている」状況だというが、バス事業のコスト削減・生産性向上の検討のために必要な対策として、実証実験の効果等を検証していく。タッチ決済の本格導入には、機器の購入費用のほか、継続的に決済手数料や機器の保守費用、システム利用料などが必要となり、経費が現金管理コストを上回らないことが必須となる。そのため、バス業界をあげて取組み、コストの抑制や運賃収受システムの共通化を図ることが重要とする。