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“木”でつくるマンション「MOCXION INAGI」を見てきた

MOCXION INAGIのエントランス側

三井ホームは東京都稲城市に木造5階建の賃貸マンション「MOCXION INAGI」(モクシオン イナギ)を建設した。すでに入居者の募集も開始していて、内覧なども実施しているが、今回、プレス向けの説明会が開催されたので、実際の建物の様子とともに物件の概要や木造ならではの特徴などをレポートする。

「MOCXION」とはなにか

MOCXION INAGIは東京都稲城市、稲城駅の駅前、徒歩3分ほどの立地に建設された賃貸マンションだ。設計施工は三井ホームとなる。分譲はされない。

MOCXION INAGI。エントランスの逆側はそこそこ広い道に面するので車も運用しやすい

ちなみに稲城駅は京王相模原線の駅で、新宿からは25分ほど。都心方面からは京王本線の特急に乗り、調布駅で京王相模原線に乗り換えと早い。駅前は学習塾やスポーツジムが多く、いかにも住宅街といった感じの立地だ。地域としては多摩丘陵地帯にあり、緩やかな丘陵や山林も残されていて、多摩川にも近く、さまざまなスポットが点在している地域でもある。

MOCXION INAGIは1階部分だけがRC造で、2階より上が木造となっている。敷地面積は1,499.2m2、延べ床面積は3,738.3m2で、全51戸中47戸が賃貸される(4戸は技術試験などに使われる)。

すでに入居者の募集は開始していて、9割以上が決まっている。12月8日夜時点での公式サイト上での空き部屋は4部屋だ。

主に2~3人くらいのファミリー向けの間取りで、広さは50~55m2の2LDK、家賃は13万円前後となっている。

稲城駅周辺としては相場より高めの賃料設定となっている。これは駅近であることと設備が良いことなどを反映したためで、より新宿など都心に近い、調布駅周辺に近い相場のようだ。

ちなみにMOCXIONの今後の展開として、三井ホームグループの賃貸マンションとして建設する以外にも、デベロッパーや個人オーナー向けにも販売される。まだ着工はしていないが、いくつかのプロジェクトがあり、すでに受注もしているという。主に首都圏の集合住宅となる予定で、4階か5階のものがメインだという。

「木」を使ってマンションを建てる

エントランスは木を使った内装だが、ここと各戸のフローリング床以外は木材がほとんどなく、木造っぽさは強くない

木造というと、「鉄骨造やRC造に比べ、頑丈ではないけど安い」というイメージを持つ人もいるかもしれないが、実際にはちょっと違う。

まず頑丈さでいうと、建築物はどの素材で作ろうと必要な性能になるまで構造材を分厚くしたり増やしたりするだけなので、建物自体の頑丈さは変わらない。例えば重量鉄骨なら、少ない構造材で躯体を支えられるので、大空間・大開口を作りやすかったりするが、耐力壁を多く作りやすい、というか壁が多くならざるを得ない集合住宅は、木造でも作りやすい。

こちらは天井などに使われている「NLT」という積層材。釘で板を接続し、面材にしていく。生産性が高く強度も十分な素材だ

構造材は石膏ボードなど耐火素材で覆われ、1時間耐火を実現している。RC造ほどの耐火性能はないが、鉄骨造とは大差がない。

耐久性は木材の弱点だ。木は劣化していく。減価償却の計算に用いられる法的耐用年数は木造だと22年、鉄骨造だと19〜34年(鉄骨の厚みで異なる)、RC造だと47年と、RC造の半分程度と見積もられている。しかしご存知の通り、日本には神社仏閣など築数百年の木造建築が大量に存在している。適切な設計・立地・管理なら、木材だって十分な耐久性を発揮する。MOCXION INAGIは第三者による性能評価などを経て、約50年の減価償却期間を予定しているという。

木造の集合住宅というと、住宅業界的には問答無用で「アパート」という扱いになり、ポータルサイトなどでも「アパート」の分類で検索することになってしまうが、業界に働きかけをして、12月6日から一定の条件で「マンション」に分類できるようになっているという。

共有部は内廊下。これで木造アパート扱いするのも逆におかしな話になってしまう

建設コストで言うと、2021年、木造はそこまで安くない。新型コロナウイルス感染症の流行以来、世界中で住宅建設ブームが起きていて、それによって木材価格が高騰する、いわゆる「ウッドショック」が発生し、木造建築の価格も上がっている。しかしそれでもRC造に比べるとMOCXIONは1割くらい安いという。

木をあえて使う理由のひとつは、「サステナビリティ」だ。木はその生育過程で大気中の二酸化炭素を吸収して成長し、木材の中に貯蔵する。その木材を廃棄して燃やさない限り、二酸化炭素排出量はマイナスだ。MOCXION INAGIでは約736.4トン、杉の木に換算すると2,953本分の二酸化炭素を貯蔵する。

外部の擁壁などのコンクリートは木目調になっている。ちゃんと凹凸があり、退色した本物の木材に見える

実際には木材以外の材料も使われるし、建材の加工や建設にも二酸化炭素排出がある。しかし建材加工や建設もエネルギー消費が少ないため、RC造や鉄骨造に比べ、二酸化炭素排出量は約半分になるという。

このような大規模な木造集合住宅は国内では初めてだが、三井ホームでは公共施設などで大規模な木造建築の実績がある。また、海外では大規模な木造集合住宅はそれほど珍しくもないという。

木造の枠組壁工法ならではの室内空間や断熱性能

耐力壁のMOCX wall。板を貼り合わせることで変形に強くするというのが枠組壁工法の特徴

MOCXION INAGIの構造は、三井ホームの戸建注文住宅などと同じ「枠組壁工法」だ。木材で作った枠組みに板を貼り付けてパネル状の構造材とし、その構造材で壁として建物の重量を支える。いわゆる壁式構造である。三井ホームの戸建注文住宅の場合、枠を作る木材が2インチ×4インチ、いわゆる2x4(ツーバイフォー)だが、MOCXION INAGIで使われている耐力壁の「MOCX wall(モックスウォール)」では4x6のベイマツ集成材が使われている。

一般住宅の2x4などと同じで、パネル状の構造材は工場で生産し、それを現場に運び込んで組み立てる。工場で作るためパネルの生産効率や精度は高く、現場での作業で品質が左右されにくく、工期も短縮しやすい。

ただし、MOCXION INAGIの場合、1階だけはRC造となっている。細かくいうと、1階の天井=2階の床までがRC造だ。いわば混構造ではあるが、そもそもどんな作りでも基礎はRCなので、RCの上に木造が乗っかっているのは、作り方としては特殊ではない。

RC造の1階のモデルルーム。部屋の角にRC造の特徴でもある柱が突出している。ただしこの部屋は天井がかなり下げてあるので、梁は隠されている
RC造の1階の一般仕様の部屋。天井に梁が見えるが、一部はダクトを通すための天井だったりもするし、間接照明に使ったりもしている
5階の居室。梁のように見える箇所は水回りからの排気ダクトが通っている。壁に柱が突出してこないのがRCとの違いだ

RC造などと異なり、壁式の木造は室内に柱や梁が張り出てこないので、室内空間がスッキリするのも特徴だ。ただし、間取りの関係で水回りからの排気ダクトを通すために、2階以上でも梁状の構造があったりする。

断熱性の高さも特徴となる。コンクリートや鉄骨は熱を蓄えたり伝えたりしやすいが、木は熱を伝えにくい。2階以上の断熱性能に追いつくため、RC造の1階は断熱を強化されているくらいだ。断熱性能が高いので、エネルギー消費が少なくなり、ここで二酸化炭素排出量を抑えることができる。

3階以上の床構造模型。「Mute」という遮音床仕様

木造集合住宅となると防音性能が気になるところだが、この点もかなり気を遣っている。防音性能としてはLH-55と、RC造マンションと同等の性能だ。少なくとも、筆者の居住する築50年のRC造マンションよりよほど静かである(比較するのが失礼なオンボロRCマンションだが)。

この理由の一つとしては、特別にデザインされた高性能遮音床を採用していることにある。床を支える梁状の根太の上に石膏ボードが載っているのだが、さらにその上にゴム足のようなもので制振パッドを支えつつ、その上にパーティクルボード、遮音マットを敷き、最後にフローリングを敷いている。

これに加え、下階の天井は根太に直接接続するのではなく、根太に天井用の根太を制振ゴムを挟みつつ吊るように接続し、そこに石膏ボードを吊るし、さらに束(つか)のようなもので天井内装の石膏ボードを吊るしている。これらの厚みは合計して約490mm、かなり手が混んでいる。

プレス向けの説明会では実際に階上で歩いたり飛び跳ねたりしていたが、飛び跳ねても静かにしていないと聞こえないレベルだった。普通に生活していて気になることはないだろう。

設備は最新で割と豪華。モデルルームには特殊な構造も

モデルルームのキッチン。タッチレス水栓など割と豪華。そういえば木造だけど普通にガスコンロだ

MOCXION INAGIは第1号ということもあり、実験的な仕様も盛り込まれているが、そうした実験的仕様部分を差し引いても、標準仕様はわりと豪華な部類に入る。例えばキッチンは広く、タッチレス水栓などが採用されている。

今回、プレスが見学できた部屋は賃貸されず、試験やプロモーションに使われるモデルルームで、1階の101号室と5階の510号室は他のフロアにもない、特殊な間取りを採用していた。

一番豪華な仕様のモデルルーム、510号室のダイニング。コーナー窓が非常に開放的。この仕様、一般賃貸の部屋にも欲しい

とくに510号室は部屋の一部が枠組壁工法を逸脱する作りで、耐力壁ではなく柱で屋根を支える構造をとることで、幅の広いコーナー窓を実現していた。枠組壁工法は大開口が苦手な面があるが、別の工法を組み合わせれば大開口も実現できる。ちなみに三井ホームの戸建注文住宅も、2x4だけでなくラーメン構造を組み合わせ可能で、やはり大開口を実現できる。

モデルルームに実験的に導入されている全館空調の空調室。面積の使い方としてやや贅沢だ

また、101号室と510号室だけは1個のエアコンで全部屋をまかなう全館空調システムが導入されていた。こちらの全館空調、専用のエアコンではなく空調室を使うタイプで、一般的な家庭用エアコンが使われていたが、その代わりにちょっと広めの空調室が必要となっていた。

共有部の設備も新しい。屋上には太陽光発電パネルがあり、普段は共有部の照明などの電力として利用されている。さらにエントランス部のメンテナンススペースに設置された蓄電池により、停電になっても共有部に電源供給ができる。

エントランスのインターホンと顔認証端末(左)

変わったところでは、共有部エントランスにはビットキー社の顔認証システムが採用されている。実際に試すことはできなかったが、立ち止まらずに顔で認証し、エントランスドアが開くとともにエレベーターまで連動するという。

エントランス部の内側にはベンチなどもあり、居心地が良い空間になっている。管理人は常駐しないが、管理人室もあり、週に4日くらいは清掃などのために通ってくる形式だ。

駐車場のEV充電器。ダイヤル錠を開けてコネクタを取り出す形式

駅から徒歩3分という立地で、駐車場にはカレコのカーシェアが1台用意される。また、駐車場には1台だけだがEV用の充電器付き区画も用意される。通常区画は月額11,000円のところ、EV用区画は月額16,500円となるが、充電料金も含んでいるので、EV利用者には魅力的だ。