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YouTube、日本のGDP貢献は2390億円。動画配信からリアル送客に「確信歩き」
2021年11月11日 15:35
YouTubeは、2020年に2,390億円を日本の国内総生産(GDP)に貢献し、75,970人のフルタイム雇用を創出したと発表した。YouTubeの経済的、文化的、社会的影響についてまとめたレポート「YouTube Impact Report」によるもので、あわせてクリエイターの新たなビジネス創出やパーソル パ・リーグTVなどスポーツ分野、ポニーキャニオンなどの音楽分野での収益拡大の取り組みを紹介した。
同レポートは、英国の独立系コンサルタント会社である Oxford Economicsに調査を依頼。YouTubeによる直接的な収益のほか、副次的な社会への経済、文化的な影響についても調査している。
YouTubeでは、ショートファンドや広告、YouTube Premium、チャンネルメンバーシップ、スーパーチャットなどあらゆる収益化機能を提供しており、クリエイターとして生計を立てる人が増えている。
同レポートでは、YouTubeからの収益で独立したクリエイターとして生計を立てている人々を「クリエイティブ起業家」と定義。日本においては、10万人以上の登録者を持つチャンネルが、5,500以上となり、前年比で45%増加した。
クリエイティブ起業家の69%が「YouTubeがビジネスの目標達成にプラスの影響を与えた」と考えており、64%が「YouTubeによって、自分のニーズに合った方法で仕事をする機会が得られた」としている。'21年6月時点、日本国内で100万円以上の収益を上げているYouTubeチャンネル数は前年同期比で50%増加している。
また、YouTubeから直接生み出される収入(広告収入やライセンス料など)からの収益のほか、経済効果はYouTube動画の制作に必要なものを購入するなど、裾野は広い。例えば、DIYや料理動画を制作するYouTubeクリエイターは、撮影のために材料や備品などを調達するほか、撮影機材や音響機材を購入したり、編集・制作スタッフを雇用することも必要となる。また、サプライチェーンにおけるクリエイターや被雇用者による消費は、経済や地域社会にさらなる影響を与えている。
こうした消費などによる2020年度のYouTubeの経済効果が日本のGDPのうち2,390億円相当で、75,970人の雇用を生み出したと分析している。
パーソル パ・リーグTVは「確信歩き」でYouTube成功。若者を球場へ
プラットフォーム内外で成功を収めている人々として、教育系YouTuberで160万以上のチャンネル登録者をもつ「とある男が授業をしてみた」の葉一氏が登場。「YouTubeで勉強する」という選択肢を広げてきた取り組みなどについて言及した。
また、エンターテイメントビジネスにおけるYouTube利用も拡大している。
プロ野球のパ・リーグ6球団の共同マーケティングなどを担い、公式ライブ配信「パーソル パ・リーグTV」を運営するパシフィックリーグマーケティングの園部 健二氏によれば、「6球団が束になって盛り上げる」という同社の取り組みとYouTubeの活用例を紹介した。
同社では、パ・リーグの全試合が見られる動画配信プラットフォームとして「パーソル パ・リーグTV」を展開しているが、2018年からは放映権の外部販売を行なっており「DAZN」などのサービスでも見られるようになったことで、契約者は減少した。一方、外部配信により野球を見たいという思いが強い「コアなファン」からの収益は大きく伸びている。
課題となったのが、サービス内に閉じることで、ライトなファンや野球に興味がない人にパ・リーグの試合や選手などの情報が届かなくなってしまうこと。そこでYouTubeの活用を強化していった。
YouTube自体は、2014年ごろからチャンネル展開していたが、登録者数などは伸びなかった。しかし、2017年に出したオリジナルコンテンツ「確信歩き」(ホームランを確信した打者が、走らずにゆっくりと一塁へ歩くこと)が初めて100万再生を突破。これで「わかった」という。
「確信歩き」をきっかけに、企画の切り口やサムネイルの選び方などを深堀りするようになり、YouTubeの成功を確信して「私も確信歩きしてしまった」(園部氏)という。いまでは80万人を超える登録者となり、2020年夏の再生ランキングでは東海オンエア、フィッシャーズに次ぎ、日本のYouTubeで再生回数3位に入った。
また、選手もパーソル パ・リーグTVで取り上げてというアピールをしたり、好プレー時には選手を称える声としてベンチからも「パ・リーグTV行きだな」との声が出るようになり、選手からもブランドとして認知されるようになったという。
収益面のインパクトも大きく、YouTubeが利益貢献するようになっている。また、YouTubeの視聴者は、球場来場者より相当に若い10~30代で70%となっており、「新しい人を獲得するというミッションを実現できている」とする。YouTubeの月間ユニークユーザーは1,000万人となっており、園部氏は、「球場来場への潜在的なニーズが高く、YouTubeの視聴者を球場来場につなげたい。YouTubeは単なる動画視聴プラットフォームではなく、リアルな球場への送客機能などマーケティングプラットフォームになってきている」とした。
音楽はプロモーションメディアから収益プラットフォームに
ポニーキャニオン、マーケティングクリエイティブ本部本部長の今井 一成氏は、Official髭男Dismなど、同社におけるYouTube活用事例を紹介した。2014年から2018年頃までのレコード会社視点では、YouTubeでミュージックビデオ(MV)を見せすぎるとCDが売れないなど、“及び腰”の認識で、MVも期間限定で公開していた。YouTubeは「プロモーションのメディア」的な認識だったという。
しかし、2018年11月にYouTube Musicと有料のYouTube Premiumがスタート。有料会員の収益が、再生に応じて分配されるようになったことから、2019年ごろから「プロモーションとマネタイズを両立できるメディア」という認識に変わっていったという。
YouTubeでは、公式のMVを公開するほか、MVがない曲でもアルバムアートなどを使ってYouTube上でMVを自動生成する「ATV」、ポニーキャニオンの原盤を使ってユーザーがコンテンツを作る「UCG」などのコンテンツを展開。無料広告の「AVOD」、有料会員の「SVOD」のそれぞれ収益化がなされている。
2020~21年の事例では、「Official髭男Dism」は最大限にYouTubeを活用し、チャンネル登録は259万件。新曲を含む全カタログのATVを無料(AVOD)で提供している。また、松原みきの1980年リリースの「真夜中のドア~stay with me」が世界的にヒット、世代や国を超えてカバー曲が公開されている。
また、30年前に解散したチェッカーズのカタログ作品を公開したところ大きな再生回数をえられているという。
従来は無料のAVODに収益が偏ってきたが、この2年ほどでYouTube Premium(SVOD)による収益が急速に拡大。YouTube全体からの収益も年々伸びており、「大きな収入源になっている」という。また、実はユーザーによるカバーでの楽曲利用など「UGC」からの収益が全体の30%と大きな役割を担っている。今後は海外展開などを強化していく方針。