ニュース
4時間で完売の航空サブスクなど、コロナで進む日本のMaaS。Uberらが講演
2021年9月10日 09:15
Uber Japanは9日、「MaaSが変えるモビリティの未来」と題したオンラインカンファレンスを実施した。国土交通省が基調講演を行なったほか、Uber Japan、日本航空、WILLERがMaaSについての現状と今後を語った。
国土交通省は、日本版MaaSの推進状況について、総合制作局 モビリティサービス推進課 課長補佐の石川雄基氏が講演を行なった。日本では、人口減少によって公共交通機関の利用者が減り、ドライバーも不足していることから、地方で公共交通機関を維持することが難しくなっている。特に、新型コロナの蔓延によって、これから10年、20年後の課題とされていたものが、直近の問題となって顕在化してきた。MaaSの推進は、より一層重要になっていきているという。
特に地方では、マイカーがないと、公共交通機関なしでは生活できないケースが多い。高齢者も使いやすいMaaSを実現することで、そうした課題を解決していく。
また、海外での先行事例として、フィンランド企業のMaaS Globalが2016年に世界で初めて実用化したMaaSとして、「Whim」を紹介。ヘルシンキ市周辺エリアを対象としたアプリで、市内のバスや電車、地下鉄などを、アプリ一つで利用できる。
しかし、日本と欧州では公共交通機関の成り立ちが異なり、そのまま導入するのは難しい。ヘルシンキでは、市内のバスや電車などの公共交通機関を交通局が一体的に運用しているため、統一した運用がしやすいが、例えば東京では、多数の事業者が公共交通機関を運営しており、MaaSの実現にはそれらを連携する仕組みが必要になる。具体的には、事業者間のデータ連携、運賃・料金の柔軟化、キャッシュレス化などの他、新型輸送サービスとして、AIオンデマンド交通や、超小型モビリティ、自動運転による交通サービスなどの推進や、それらを実現するインフラ整備とその連携などが必要になる。
なお、従来MaaSの取組みは独立した施策だったが、政府によるスマートシティの推進などと連携が深まっており、スマートシティとして採択される地域は、MaaSの取組みと一体的に審査し、連携が大きい事業を採択しているという。
MaaSといえば、スマホを使って利用するというイメージは強い。しかし、高齢者も多くがスマホを持ち、ネットに親しむ時代にはなったが、MaaS=スマホというわけではないという。スマホに拘らず、実際に利用する人が便利に使える仕組みを構築することが重要で、MaaSは地域問題を解決するツールになるとしている。
タクシーのダイナミックプライシングに取り組むUber
Uber Japanは、「Uberが考えるモビリティの未来像」と題し、同社モビリティ事業部ゼネラルマネージャーの山中志郎氏がプレゼンテーションを行なった。日本ではバブル期を境にタクシー事業は右肩下がりを続けていると同時に、運転手不足も続いている。同社はアプリ配車によってタクシー業界を活性化するとしており、まもなくリアルタイムでのダイナミックプライシングの実証実験を行なうという。
タクシーのダイナミックプライシングでは、需要と供給によりリアルタイムで価格を変化させ、配車台数が最大化されるように料金が変動する。空いている時間帯は安価にすることで利用者を増やし、混んでいる時間帯は料金があがることで、必要な人が利用できるようになる。これにより、利用者の利便性を向上しつつ、事業者の収益増加が見込めるという。また、ドライバーを効率良く働かせることで、労働環境の改善も図る。
シカゴ・シドニーで導入を開始したUber and Transitも紹介。Uberアプリの機能の一つで、タクシーだけでなく公共交通機関を組み合わせた利用を案内し、利用したい電車やバスの時間に合わせてタクシーが迎えにきてくれるサービス。デンバーでは、Uberアプリから公共交通機関のチケットを購入できる取組みも行なっている。
航空サブスクが4時間で完売したJAL
日本航空は、「MaaSを通じた新たな移動体験の創造」と題し、同社デジタルイノベーション本部 事業創造戦略部 MaaSグループ長 清水 俊弥氏がプレゼンテーションを行なった。
新型コロナの蔓延により、昨年以降、史上最悪の航空需要となるなど同社も大きな被害をうけているが、今後は新型コロナによる生活の変化に合わせたサービスを創出していくという。具体的には、JALアプリにUberの配車リクエスト機能を搭載し、到着空港から目的地までUberでシームレスに移動できるようにした。現時点では北米・ハワイの空港が対象。
NearMeとの連携では、オンデマンドシャトルバスを国内で展開。東京23区から空港までをドアトゥードアで利用できるシャトルバスで、月間利用者は連携開始月に比べ10倍に伸びたという。また、月額36,000円で航空券3往復とホテル3泊分がセットになった航空サブスクリプションサービスは、300名分が発売後4時間で完売したという。
MaaSは、事業者が従来にはない連携をする取り組みとし、今後も利用者の利便性向上に貢献していくという。
毛細血管のような移動サービスで地方活性化
WILLERは、「ニューノーマルに求められるモビリティサービス」と題し、代表取締役の村瀨茂高氏がプレゼンテーションを行なった。同社は現在、シンガポールで自動運転車両や、ベトナムで都市間バスの運行を行なっている。都市間バスは、アプリで家から目的地を予約すると、小型のシャトルバスが自宅まで迎えに来てくれ、都市間バスの停留所まで送ってくれるもの。自宅から停留所までのラストワンマイル需要を解決するサービスとしている。
日本では、新型コロナによるニューノーマルの到来により、移動の価値が変わり、新たな行動変容に合うサービスをMaaSとして提供していくという。具体的にはリモートワークの普及によって、自宅から2km圏内で生活する人が増えたという。
同社は、東北海道で2年間にわたり観光MaaSの実証実験を行なったが、そこからわかったのは、「最後の1マイルを繋がないと利便性が向上しない」ということ。また、利用者の趣味趣向はわかりにくいものだが、距離が短いほど目的は明確化されるという。まずは短距離の移動ニーズを満たし、そこから長くしていくというアプローチがわかりやすいという。
ニューノーマルで求められるモビリティサービスは、マイカーと同等か、それを超える移動手段。それがMaaSだという。公共交通機関がない地方では、自転車や徒歩、マイカーのちょい乗りなどで移動する。そこにワンマイル交通として新しいモビリティを導入し、マイカーを持たなくても、持っている人と同等の生活をできるようにする。
そのため、同社では相乗りのオンデマンドモビリティサービス「mobi」を、京都府の京丹後市や渋谷区で展開した。mobiは月額5,000円で何度でも利用できるサブスクリプションサービス。複数の乗客がそれぞれ自分の行きたい場所を入力すると、AIルーティングにより、最適な停留所を効率良く回ってくれる。停留所は固定ではなく乗客のニーズによって場所が変わる。
交通機関の時間に合わせて移動するのではなく、自分に合わせて移動ができるサービスとすることで、マイカーと同等の移動を可能にするのが目標。地方に毛細血管のような移動サービスを提供することで、人を増やし、経済も活性化させたいという。