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配信と映画館は共存する。レンタルビデオ最終形を目指す「U-NEXT」
2021年6月18日 13:53
動画配信サービスの「U-NEXT」は17日、映画など良質な人気作品を独占的に配信する「ONLY ON戦略」を発表した。作品数を増やす「カバレッジ戦略」に加え、独占配信など“U-NEXTだけ”の作品を増やしていく。その一環として、興行収入37億円を記録し、2021年の大ヒット作品となった「花束みたいな恋をした」を7月14日からレンタルで独占先行配信する。
ONLY ON戦略では、映画公開から間もない作品をいち早くレンタルなどで配信する。そのため、映画の製作委員会などへの出資を強化するほか、映画館や映画業界との密な連携により、U-NEXTサービスの魅力向上を図る。
カバレッジから独占。「ONLY ON戦略」
U-NEXTは、国内第3位の動画配信サービス。特徴は配信作品数の多さと、書籍やマンガなどをシームレスに楽しめることで、21万本以上の映画、ドラマ、アニメが見放題で楽しめるほか、公開・放送されたばかりの最新作など、2万本以上のレンタル作品を用意している。
さらに63万冊以上のマンガや書籍もラインナップし、U-NEXTアプリ上で「観る」「読む」をシームレスに楽しめる。また、毎月付与されるポイントを映画館での支払いに利用できるほか、4K配信や音楽ライブ配信なども行なっている。
有料会員数は約218万人で、Netflix、Amazon Prime Videoに次ぐ国内3位、国内勢ではトップのサービスだが、月額料金は2,189円で、1000円台前半が多い動画配信サービスの中では高めの設定。ただし、毎月1,200ポイントがユーザーに付与され、レンタルや書籍・コミックの購入に当てられ、見放題の動画配信サービス+新作レンタル(月3本)・書籍・コミックの「オールインワンエンタテインメント」と呼ぶ独自のサービス形式を採っている。
U-NEXTのこれまでの動画コンテンツ戦略は、月額料金内で見放題で楽しめる作品数を増やす「カバレッジ戦略」を採っていた。同戦略により2021年5月時点で40カ月間連続「見放題作品数No.1」となり、新作や話題作、過去の名作・秀作などを網羅するサービスとしての地位を固めてきた。
洋画や邦画、アニメ、韓流などジャンルごとに本数でナンバーワンを目指し、カタログ(作品数)の強化に努めることでシェアの拡大にもつながっているが、近年は動画配信サービスが社会に浸透し、競争環境が激化。各社の独占作品がユーザーのサービス選定の大きな要因となってきいるいう。
そこで、今までの「カバレッジ戦略」に加え、独占作品を強化する「ONLY ON戦略」を採用していく。
ONLY ON戦略では、「U-NEXTでしか観られない」「見放題で楽しめるのはU-NEXTだけ」という独占配信作品を増やす。特に注目度が高く、魅力的な作品を「ONLY ON」作品と位置づけて強化していく。
3月には米国のワーナーメディアと見放題(SVOD)における独占パートナーシップを締結し、「HBO」や「HBO Max」のオリジナル作品をU-NEXTで独占先行配信すると発表したが、映画、アニメ、ドキュメンタリー、音楽・ライブなどにも拡大していく。
邦画の第1弾は、役所広司主演で西川美和監督の「すばらしき世界」。次いで、松坂桃李主演の「あの頃。」も19日から先行レンタル配信を開始し、順次最新作やアニメなどを投入予定。
7月14日からは、今年の大ヒット作となった菅田将暉、有村架純 主演の「花束みたいな恋をした」をレンタル独占配信開始する。価格は399円で、視聴期間は3日間。
・すばらしき世界
・OSLO / オスロ(6月28日配信開始)
・あの頃。 (6月19日配信開始)
・花束みたいな恋をした(7月14日配信開始)
・フレンズ:ザ・リユニオン
・レイズド・バイ・ウルブス / 神なき惑星
・フライト・アテンダント
・Your Honor/追い詰められた判事
・CITY ON A HILL / 罪におぼれた街
・ザ・ネバーズ(6月24日配信開始)
・太陽の末裔 Love Under The Sun
・僕を溶かしてくれ
・彼女の私生活
・SuperMのMトピア
・NCT LIFE:DREAM in Wonderland
・Lovely Writer The Series
・WHY R U?
・夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者
・新テニスの王子様 氷帝vs立海 Game of Future
・劇場版「進撃の巨人」~クロニクル
・AIMYON TOUR 2020 “ミート・ミート” inさいたまスーパーアリーナ【Special Edition】 - ANOTHER EDEN ARRANGE ALBUM FESTIVAL
・「ASKA CONCERT TOUR 12>>13 ROCKET」
・タイガー・ウッズ / 光と影
・ラスト・クルーズ
・ウディ・アレン VS ミア・ファロー
・COLA WARS/コカ・コーラvs.ペプシ
独占・先行を強化。U-NEXTは「レンタルビデオ店の最終進化形」
U-NEXT 編成制作本部 映画部・部長の林 健太郎氏は、映画における“ONLY ON戦略”の最大の狙いを「劇場公開後に、上質な作品をいち早く映画ファンにお伝えする」と紹介し、その詳細を説明した。
通常、映画では、劇場公開→レンタル→見放題という順番で公開・配信され、この順番をウインドウと呼ぶ。動画配信が拡大したことで、レンタルや見放題の直前に「先行配信」、あるいは「独占先行配信」などの新たなウインドウも増えている。この先行・独占を増やしていくのがONLY ON戦略の基本的な考え方となる。そのために映画の製作委員会への出資も強化し、「スタッフィング(出演者決定)など、制作の川上から関わっていく」という。
充実の見放題に加え、レンタルを含めていち早く人気映画を見られるという仕組みを構築。映画ファンの期待に応えるサービスとしてU-NEXTを訴求していく。
また、従来のカバレッジ戦略も継続・強化していく。映画は見放題作品を1万タイトル以上揃え、「徹底的に見放題を揃え、『U-NEXTならある』という信頼感を映画ファンに知ってもらいたい」という。
他社との比較では、見放題作品数は4倍程度となるが、「あるべき映画を当たり前に揃える」という方針。例えば、黒澤明映画は30本中、29本を網羅、アカデミー賞作品賞受賞作は73本を揃え、他の配信サービスとの違いを明確にしていく。
林氏は、以前は「配信には作品が“無い”が当たり前だったが、“あって当たり前”にする。それを目指して取り組んできた。U-NEXTは、見放題を充実させ、作品やキュレーションを充実させ、デジタルならではの便利さ、簡単さを加えた『レンタルビデオ店の最終進化形』を目指す」とした。
なお、黒澤明で足りないのは日本国内での配信の権利がない日ソ合作映画「デルス・ウザーラ」。
見放題を強化するU-NEXTでレンタルが拡大
U-NEXTの特徴の一つである「オールインワン・エンタテインメント」も強化。ビデオ、ブック、コミックなどもU-NEXTアプリ内で利用楽しめ、ジャンルを横断した横断検索も可能で、見たい映画に対して、原作のコミックや小説、関連作品などをまとめてU-NEXT上で体験可能にする。
また、U-NEXTの2,189円の月額料金のうち1,200ポイントは、レンタルや書籍・コミックの購入代金に当てられる。そのため、実質的に見放題+レンタル(1本400円弱)が3本付加されたサービスともいえ、「レンタルしやすさ」をU-NEXTの独自の特徴として強化していく。
U-NEXTは、見放題を強化しているが、最新作は原則的にレンタルが先に配信される。権利元の映画会社にとっては、そちらのほうが利益が大きいからだ。
そのため、話題になった作品をいち早く視聴できる手段として、U-NEXT上のレンタルを充実させていく。U-NEXTにおけるレンタルの利用者は4年間で6倍となった。同期間での会員数の伸びは3.5倍のため、より多くのU-NEXT会員が、レンタルを活用するようになっている。
U-NEXTにおけるレンタル作品の売上は4年で5倍に拡大。また、映画会社からのヒアリングによれば、2021年の代表的な作品での売上シェアでは、U-NEXTがトップとなっており、50%以上のシェアを獲得している作品もあるなど、レンタル利用率が非常に高いプラットフォームになっている。
なぜこうなったのか? 林氏は、「見放題を増やしたことで、映画ジャンルの会員が増え、その人達がレンタルを活用するという好循環が生まれている」という。
映画の“習慣”をU-NEXTで維持。「配信と映画館は共存する」
映画業界との一緒の取り組みとしては「オンライン公開」を紹介した。
2020年はコロナ禍で上映本数は20%減少、興行収入は45%と大幅に減少してしまった。特に洋画の新作が少なく苦境が続いており、劇場が開いている時間が少ないことから、公開から早いタイミングで配信を行なう作品が増えている。
U-NEXTはそうした作品を「オンライン公開」として配信している。公開後60日で配信を開始するが、平均販売価格は1,166円で、劇場公開の平均価格(1,360円)とほぼ変わらない水準のため、映画会社の収益を確保しながら、いち早く見たいというユーザーからの支持も得られているという。
122本のオンライン公開作品の約半分60本はU-NEXTでの独占配信となっている。
さらにリアルイベントが難しくなった「映画祭」の支援も実施。14の映画祭と組んで、過去作を含めた特集ページなどを準備。レンタルや見放題などで提供した。
また、U-NEXTのポイントをシネコンの支払いに使える取り組みも強化。大手シネコン6社と協力関係にあり、ポイントで映画チケットを購入可能としている。年々規模は拡大しており、2019年は40万人がU-NEXTポイントを使って映画館を訪れた。コロナ禍が収束した後は「(100万台に)桁を変えていきたい」とする。
林氏は配信と映画館との関係について、「ウインドウによる価格帯を守れば、配信と映画館は競合関係ではなく共存関係になる。映画は“習慣性”が大切なエンターテイメントで、映画館に行く習慣がなくなると、映画自体への興味が失われてしまう。ただ、U-NEXTの中では、映画ファンの映画を見る習慣は維持できている。今後はこれをU-NEXTの外の映画館につなげ、映画ファンを広げるお手伝いをしていきたい」とした。