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オムロン、高度な手作業を自動化できる「ロボット統合コントローラー」

ロボット統合コントローラー

オムロンは、生産設備を構成するロボットと制御機器を1つのコントローラーで統合制御する「ロボット統合コントローラー」を7月31日から発売する。高精度の作業が可能で、これまで人手でしか出来なかった複雑な組み立て作業などもロボット化できる。また、工場生産設備のバーチャルとリアルの融合をリモートで実現。リモートによる設備の立ち上げや遠隔地からのメンテナンス性も向上した。

「ロボット統合コントローラー」は工場内の機器を制御する「プログラマブルロジックコントローラ(PLC)」とロボットを制御するためのプログラム実行を1つのコントローラーで統合する技術。

これまでは設備を構成する各種機器とロボットはそれぞれ別のコントローラーで制御されていたため、各種機器間のスピードやタイミングを連携させた制御が難しく、高度で複雑な作業の自動化は困難だった。

「ロボット統合コントローラー」を用いることで、従来よりも正確な速度とタイミング制御の同期が可能になるため、今までは人にしかできなかった高度で複雑な人手作業がロボットで実現できるようになる。

設備の構築プロセスにおいても、事前に工程設計などを精度高く検証することができず、その結果、設備を立ち上げた後に現場・現物での調整が必要となり、後戻りや仕様変更などに膨大な工数が必要となることが常態化している。

「ロボット統合コントローラー」を用いることで、バーチャル環境での生産設備の設計や変更のシミュレーション、リモートによる設備の立ち上げや調整、メンテナンスが可能になる。

以前から生産年齢人口の減少に伴い省人化ニーズは高まっていたが、今年に入ってから発生した新型コロナウイルスの影響により、製造現場でも、ソーシャルディスタンスの確保や出張などの移動制限など新しい働き方がより強く求められるようになっている。

「ロボット統合コントローラー」はそのようなエンジニアリング環境の変革にも対応するものだという。オムロンは高度な人手作業の自動化、バーチャルとリアルの融合による遠隔でのシステム構築により、より高度に自動化されたモノづくり現場の革新を目指すとしている。

幅広い「ILOR+S」製品群を持つオムロン

オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー ロボット推進プロジェクト 本部長 山西基裕氏

オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー ロボット推進プロジェクト 本部長の山西基裕氏は会見で、2015年の産業用ロボットメーカーのアデプト テクノロジー買収の件を改めて振り返り、「ようやく出したかったソリューションを結実させることができた」と紹介した。

オムロンのなかで、インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー(IAB)は全体売上高の52%を占める制御機器事業を担う部門。オムロンではファクトリーオートメーション(FA)へのアプローチを高度で表現しているが、IABは低空、製造現場に導入されるアプリケーションを磨いている。山西氏は「現場に関してはオムロンに任せよう」と頼りにされることを目指している語った。

オムロンの制御機器事業
製造現場に注力

オムロンは3つのi、制御進化(integrated)、知能化(intelligent)、人と機械の協調(interactive)からなる「i-Automation !」を戦略コンセプトとして掲げている。「ロボット統合コントローラー」は、その中軸商品だという。

オムロンの強みは幅広い品揃えにある。センサーなどのInput(入力)、頭脳となるLogic(制御)、そしてOutput(出力)、Robot( ロボット)、Safety(安全)に関連する機器などをまとめてオムロンが「ILOR+S」と呼ぶ製品群をくまなくラインナップしている。これは他社にはない強みだという。

3つの「i」からなる戦略コンセプト「i-Automation!」
「ILOR+S」を品揃えしている

異なる頭脳を一つにまとめる「ロボット統合コントローラー」

ロボットと制御機器は別々のコントローラーが制御してきた

これまで制御機器コントローラーとロボットのコントローラーはそれぞれ独自の進化を遂げて来た。別々の言語で制御されていて協調性もなかった。山西氏は「言うなれば同じ設備のなかに頭脳が2つある。これを無理やりエンジニアが組み合わせて自動化を担保していた」と表現した。

ロボットも、単体では期待する動きはできない。数々のセンサー情報を得て、かつ周辺設備と連動して、初めて的確な動きができる。それもうまく連動しないと高度な自動化は実現できない。しかし「頭脳」にあたる部分が別々だと、どうしても速度やタイミングのズレが生じ、なかなか高度な自動化が実現できなかった。

たとえば複雑な組み立て作業は今でも人手が用いられている。山西氏は、どうしてもコントローラー系統がわかれるので微妙なすり合わせができないためだと述べ、「ロボットの活躍場所は単純な左から右へ移動させる繰り返し作業に限定されていた。これがロボットの実情。この課題がいま深刻になっている」と続けた。新型コロナウイルスの影響だ。

ロボットは主に単純作業に用いられてきた

新型コロナウイルス以前から、もともと、生産人材や装置を構築するエンジニアの枯渇は社会課題とされていた。そしてここに新型コロナウイルス禍が起き、物理的に人を集めることができなくなり、労働集約型の生産が立ち行かなくなっている。これは深刻な課題だ。ロボットも、これまでの生産効率を上げるためだけでなく、事業を守るための投資へと役割が変化し始めている。

後工程での省人化ニーズは新型コロナ禍で加速した

製造現場においては「後工程」と呼ばれる組み立て、検査や搬送などに労働集約的な人手が数多く残っている。自動化技術には人手が担ってきた多種多様な製品に対応する高度なフレキシビリティへの対応が喫緊の課題になっている。しかしながらコントロール系統が分かれているので絶妙な組み立てが再現できないという大きなハードルがあった。

それを解決する技術が「ロボット統合コントローラー」だ。ロボットのコントロールと制御機器のコントロールを一つのコントローラに統合した。

1つのコントローラーでロボットや周辺機器制御を全て統合

完全なハーモナイズによってロボットによる精妙な動作が可能に

「制御の統合」により匠の技を自動化可能に

山西氏は、「イノベーションのポイントは2つある」と解説した。1つ目は前述の「ILOR+S」の制御を1台のコントローラーで行なうこと。これにより今まではズレていたタイミング・スピードを完全にハーモナイズする「制御の統合」が可能になる。

たとえば、今までは人が五感を用いた微妙な力加減などをフル動員していて「匠の技」で行なっていたような精妙な動作ができるようになる。具体的には、挿入位置を探りながらトライしていたような組立作業をロボットが再現できるようになる。「装置同士、工程同士がハーモナイズすることで、装置パフォーマンス全体を最大化できる」ものだという。

実際にどの程度の性能を出せるのか。「ロボット統合コントローラー」を導入する前はエンジニアたちがよってたかって装置を統合していたが、オムロンで今回のコントローラーの試作機を検証のためにドアスイッチリレーの生産システムに試験的に導入したところ、いきなり23%もパフォーマンスが向上したという。

今回の統合コントローラーを用いることでパフォーマンスが2割強も向上

2つ目は、1つのソフトウェアによる構築プロセスの統合だ。これまでは制御を行なうコントローラーだけでなく、制御用ソフトウェアもバラバラで、プログラミング言語もバラバラだった。そのため、どうしても多岐にわたるナレッジが必要となり、ロボットと周辺機器をシンクロさせるところに莫大な工数を使っていた。さらにはCADもバラバラだった。これらは、リアルとバーチャルを連動させる「デジタルツイン」の実現にも大きなハードルとギャップとなっていた。

今回、オムロンは世界で初めて制御機器、ロボット、CADのソフトウェアを1つに統合し、1つの言語(IEC言語)で全てがプログラミングできるようにした。これによってPLCを用いる制御機器しか扱えなかった人がロボットも操れるようになる。

1つのソフトウェアに制御機器、ロボット、CADを統合

バーチャル・リモートでのモノづくりを実現

従来型の生産設備構築の課題

また、設備全体が完全に同期したリアルな装置をバーチャル上で再現できるようになる。設備の構築プロセスは、大きく4つのフェーズからなる。事前検証、設備設計・製作、運用、品種追加の4段階だ。

ロボットを組み込んでいるシステムは非常に厄介で、出来上がったあとにも、現場での膨大なトライアンドエラーが必要だ。組み上げてみないとどんな課題が出てくるかもわからないため、エンジニアが現地でトライアンドエラーを繰り返して、ようやく立ち上げることができる。そのため、どうしてもエンジニアが現地に足を運ぶ必要があるが、新型コロナ禍以降は、近場でも動くことは難しくなってしまった。

だが、リアルな設備と完全に連動した設備がバーチャルに実現できれば、将来の課題まで事前検証で見通すことができる。「予定どおりに作り上げれば、予定どおりのパフォーマンスを発揮できる。そういう世界が実現できるようになる」という。

バーチャルでの事前検証が可能に

これまでの生産設備は立ち上げ後にもどうしてもタイミングがずれたり、不良を出したために新しい工程を追加する必要などが多々あった。それらの対応は現地のエンジニアではなかなか難しい。そのため本社からエンジニアを派遣し、1カ月程度の時間をかけて滞在してあたっている。

今まで現地現物で行なっていたチェックを、すべてリモートでできるようになれば、このようなやり方が大きく変えられる。各地に散らばる有識者がナレッジを共有することも容易になる。具体的にはほとんどの工程で50%以上の工数を削減できると考えているという。

製造現場のリモートメンテナンスが可能に
生産設備の構築プロセスを革新する

会見では、オムロン京都本社と愛知県のオートメーションセンタ刈谷とを遠隔接続して、統合コントローラーを用いてロボットがワークを置く速度を変化させるといった簡単なデモが行なわれた。今までは出張して現地で確認していたような作業が、簡単に遠隔で行なえるようになるという。

なお、メカについてはバーチャルな空間で設計されたCAD情報をPLCの制御情報に、中間コードをインポートすることで再利用する仕組みになっているという。シミュレーションの実行には、Sysmac Studio内のエミュレーションを使用する。

遠隔接続のデモンストレーションの様子

山西氏は最後に、「ロボット統合コントローラーは生産人材とエンジニアの枯渇という社会課題の解決と、バーチャルとリアルの融合をリモートで実現するもの」とまとめた。

2020年度にはグローバルで200システムを販売する計画。特にロボットを完全に生産設備とシンクロさせることで、今までには自動化できていなかった、人手を使っている領域をターゲットとする。