ニュース
Visaのタッチ決済は高速バスに最適? 茨城交通のキャッシュレス対応バスに乗る
2020年7月29日 08:00
みちのりホールディングス傘下の茨城交通は、国内の公共交通機関として初となるVisaのタッチ決済に対応したバス車内決済システムを高速バスに導入し、7月29日より運用を開始する。この決済システムを導入するバスを取材してきた。
低コストでキャッシュレス決済に対応を主眼に開発
今回茨城交通が導入するバス車内のキャッシュレス決済システムは、みちのりホールディングス、茨城交通、三井住友カード、ビザ・ワールドワイド・ジャパン、バスの車内機器を開発している小田原機器が協力して実現したものだ。7月29日より茨城交通の高速バス13台にセットし、勝田・東海-東京線の全便で運用を開始するとともに、9月下旬には岩手県北バスの106急行(盛岡-宮古)、10月下旬には福島交通と会津バスの会津若松・福島・相馬-仙台空港線での導入も予定されている。
今回導入されるキャッシュレス決済システムのハードウェアおよびソフトウェア開発を担当した小田原機器によると、とにかく低コストに実現することを主眼に開発したという。
システムはタブレット型端末をベースとしており、バスに設置されている既存の運賃箱に、マグネット式の専用ホルダーを装着して設置するため、取り付け工事不要で利用できる。また、タブレットの動作は内蔵のバッテリーを利用するため電源の敷設も不要。これにより、キャッシュレス決済システム対応の運賃箱に交換する場合と比べ、大幅なコスト削減が可能になるという。
コロナ禍によってバスでもキャッシュレス決済への対応を望む声が大きくなっているものの、地方のバス事業者は厳しい経営事情では大きなコストをかけてキャッシュレスに対応することが難しい。しかし今回のシステムは低コストで導入できるため、地方のバス事業者でも比較的導入しやすい点が特徴。
今回の導入では、みちのりホールディングス傘下の茨城交通、岩手県北バス、福島交通、会津バスの4事業者で導入されるが、システムの開発費を各事業者が分割負担することでそれぞれのコスト負担を軽減しているという。
決済時に必要となるデータ通信については、バスに用意されている無線LANを利用する。茨城交通では全ての高速バスに無線LANの導入が終わっていたため、別途追加する必要がなかったとのこと。乗客向けのフリーWi-Fiではなく、事業者が利用する業務用の無線LANを利用することで、事前の評価でも決済トラブルほとんど発生しなかったという。
また、ソフトウェアも基本的に共通にしているという。画面レイアウトや色などのデザイン的な部分を除いてほぼ共通仕様で提供することでも低コスト化に繋げている。
運賃精算は、前払い、後払いの双方に対応。停留所ごとの運賃の違いは、GPSを利用して現在位置を把握することで対応する。
今回のシステムは高速バスをターゲットとしているため、停留所の間隔が長いと想定。停留所から半径約200mの範囲で現在位置の把握を行なっている。タブレットは、バスが移動している時は運行中モード、停留所の範囲にバスが入ると精算モードに自動的に切り替わり、停留所付近で停車している場合のみ精算が行なえるようになっている。
なお、7月29日より導入される茨城交通の勝田・東海-東京線では、勝田・東海から東京行きは前払い、東京から勝田・東海行きは後払いになる。
高速バスで比較的運賃が高いためVisaのタッチ決済を採用
今回茨城交通が導入するシステムでは、キャッシュレス決済手段としてVisaのタッチ決済と、QRコード決済のPayPay、Alipay、LINE Pay、楽天ペイに対応している(楽天ペイは8月中旬以降の対応)。
Visaのタッチ決済に対応したのは、タッチで簡単に決済できる点と、比較的高額の運賃にも対応できるからだという。
現在はコロナ禍のためインバウンド需要はほとんどない状況だが、もともとはインバウンド需要の取り込みも想定していたとのこと。また、乗務員のオペレーションが少なく、運行スケジュールへの影響も少なくできるという観点からも、タッチ決済のみの対応とし、クレジットカードのICカードや磁気ストライブへの対応を見送ったそうだ。決済プラットフォームは三井住友カードの「stera」を利用する。
QRコード決済への対応は、茨城交通が2019年7月29日~10月31日に行なった高速バスにおけるQRコード決済システム導入の実証実験において利用者から評判が良く、実証実験終了後も導入してほしいとの声が多く寄せられたことで決めたという。QRコード決済の決済プラットフォームは、SBペイメントサービスの決済代行サービスを採用している。
キャッシュレス手段として交通系ICカードが含まれない点は気になる部分だが、今回は運用コスト面や、導入するのが高速バスのため比較的運賃が高く、残高不足となる場面が多くなることを懸念して対応を見送ったそうだ。
システム的にはFeliCa系の電子マネーにも対応可能とのことで、状況によってはその他の電子マネーも含めて対応する場合もあるかもしれないという。ただ、今後は国内クレジットカードもタッチ決済対応へと順次切り替わっていくため、将来はクレジットカードのタッチ決済のみで十分カバーできる可能性が高いと考えているそうだ。
ちなみに、運用開始時点では、Visaのタッチ決済のみに対応しており、他ブランドのクレジットカードのタッチ決済には対応しない。この点については環境が整えば他ブランドにも順次対応を拡大していきたいとのことだ。
乗客がタブレットを操作して決済
では、決済手順を見ていこう。先払いか後払いかで決済を行なうタイミングは異なるものの、操作手順は基本的に同じとなる。
まず乗客がタブレットの画面で乗車人数を設定する。大人、小児、大人割引、小児割引それぞれの人数を入力する。人数の入力が終わったら画面の「支払い」ボタンを押し、QRコード決済かクレジットカードのタッチ決済のどちらかを選択する。
クレジットカードのタッチ決済を選択すると、画面上にタッチマークが表示されるので、そこにタッチ決済対応のVisaブランドクレジットカードをかざすことで決済が行なわれる。もちろんPINやサインの入力は不要だ。
決済手段にQRコード決済を選択した場合には、タブレットはQRコードの読み取りモードへと切り替わる。あとは、乗客が自分のスマートフォンで対応QRコード決済ブランドのQRコードを表示してタブレットに向けて読み取らせることで決済が完了する。利用者がQRコードを読み取って金額を入力する必要がなく、あらかじめ決済ブランドを指定する必要もない(QRコードを読み取ってブランドが自動判別される)ため、こちらも手間をかけずに決済可能だ。
実際に試してみたところ、クレジットカードのタッチ決済はカードをかざして1秒ほどで読み取りが終了し、その後4秒ほどで決済が完了と、FeliCa系電子マネーに比べるとやや時間がかかるという印象だ。
QRコード決済もほぼ同様だが、乗客が決済用QRコードを表示するのに手間取る場面も懸念される。ただ、高速バスは地域を走る路線バスのような過密な運行スケジュールが組まれることが少なく、決済にかかる時間もある程度余裕が見込めるため、多少時間がかかるとしてもそれほど大きな問題とはならないだろう。
また、勝田・東海-東京線をキャッシュレス決済で利用した場合には運賃が割引きとなるため、積極的に利用したいところだ。
茨城交通を傘下に持つみちのりホールディングスは、先にも紹介したように今後傘下の4事業者での導入を決定。またシステムを開発した小田原機器によると、昨今のコロナ禍によるキャッシュレス対応への意識向上や、補助金も活用できることから問い合わせが増えているそうで、本年度中に10事業者、150台の導入を目指したいという。そのため、近い将来には本システムを導入する短・中距離高速バスが全国で多く見られることになりそうだ。