ニュース

視聴覚障がい者の移動を助ける“スーツケース”。自動運転車の技術活用

アルプスアルパイン、オムロン、清水建設、日本アイ・ビー・エム、三菱自動車の5社は、視聴覚障がい者支援用の「AIスーツケース」などを開発する「一般社団法人次世代移動支援技術開発コンソーシアム」を設立した。

設立のきっかけは、IBMフェロー 浅川智恵子氏が米カーネギーメロン大学で研究していた障がい者のためのスーツケース型誘導ロボット「CaBot」。浅川氏はコンソーシアムの発起人兼技術統括者にもなっており、自らも視覚障がいがある。浅川氏は子供のころに水泳の怪我がきっかけで視覚を失ったが、その後、IBMに入社し、HPを音声で読み上げる「ホームページリーダー」など、さまざまな技術を開発した。

AIスーツケースとともに歩くIBMフェロー 浅川智恵子氏

日本では2006年の「バリアフリー新法」、2016年の「障害者差別解消法」施行によって車椅子のための段差解消やエレベーター設置などは進んだが、依然として視覚障がい者には通勤・通学などの社会生活に困難を抱えている。

また、高齢化により視覚障がい者は増加傾向とされ、国内には推定164万人。そのうち全盲の視覚障がい者数は18.8万人。世界では2050年に現在の3倍になるという研究結果もあるという。

PCのキーボードや電話もはじめは障がい者の生活を支援するために開発された

AIスーツケースは、視聴覚障がい者の目や耳となって移動を支援し、生活の質を向上させることを目的とするもの。6月から都内の商業施設で実証実験を開始する。

視覚情報は人間の認識する情報の8割を占める。これを各社が持つAIやロボット技術で支援することで、障がいのある人が一人で居る場合でも自然に生活ができる技術の確率を目指す。

AIスーツケース

スーツケース型とすることで、自動運転車で使用されるような大型のセンサー類を搭載可能とした。これにより、高いレベルでのセンシングを実現し、障害物や人などを検出する。杖などにセンサーを搭載する方法も検討されたが、杖の場合はセンサー類がふらついて安定せず、精密なデータが得られにくいうえ、本格的な機材を搭載すると杖自体が重くなり実用的では無くなってしまう。

また、スーツケースは、視聴覚障がい者が自分の前に出して走らせることで、階段などの段差など、危険を事前に察知しやすくできるのもメリットとしている。

AIスーツケースの構造と機能

具体的な機能としては、音声や触覚インターフェイスにより、道案内や障害物の回避、知り合いが近づいてきた時に通知する機能や、その人の行動を認識して、話しかけられる状態(電話中など)にあるかどうかなどを区別して教えてくれる。

位置情報とクラウド上の情報から周囲の店舗の案内や買物を支援する音声対話機能や、周囲の人の行動を認識し、「行列に並ぶ」など、その場に応じた社会的行動を支援するなどもできる。

大型のLiDARやバッテリなどを内蔵するため重量は約12kgあるが、車輪にはモーターを内蔵しており、自走もする。いずれも現時点では屋内での動作を前提としている。

あえて大型のセンサーやバッテリを搭載

2021年には実証実験の範囲を広げ、空港やスタジアム、美術館や病院、ホテルなどでも実験を行ない、利便性を検証するほか、施設管理者の実運用上の課題を洗い出す。これらを元に、2022年には社会実装構想を検討し、実用化を目指す。

開発した技術は、将来的に、自動運転車椅子や、AIショッピングカート、サービスロボット、スマートモビリティなどにも応用していくという。

参加企業の役割は下記の通り。

  • アルプスアルパイン:触覚インターフェイスに関する知見に基づくアドバイス・技術提供
  • オムロン:画像認識、及び各種センサーに関する知見に基づくアドバイス・技術提供
  • 清水建設:建設計画、屋内外ナビゲーション、ロボティクス技術に関する知見に基づくアドバイス・技術提供など
  • 日本アイ・ビー・エム:AI、アクセシビリティ、屋内外ナビゲーション、コンピュータービジョン、クラウドに関する知見に基づくアドバイス・技術提供など
  • 三菱自動車:自動車開発、モビリティ全般に関する知見に基づくアドバイス・技術提供