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代引き→後払い。翌月払いサービス「Paidy」が狙うECの課題解決
2019年12月17日 20:02
翌月払いサービス「Paidy」が、同社のサービスと、その戦略について説明会を開催した。
Paidyは、スマホを使った翌月払いサービスで、対応店舗で買物時に、メールアドレスとスマホの電話番号を入力すると送られてくる暗証番号を入力することで決済が完了。翌月10日にまとめて後払いをする仕組み。振り込みはコンビニや銀行口座など好きな方法を選べる。事前にクレジットカードや銀行口座を登録しておく必要はない。
クレジットカードと使い勝手は似ているが、カードを作るための本人確認や事前審査などが必要なく、与信はメールアドレスと電話番号を入力した時点で完了する。
低い日本のEC化率
Paidyは、2014年7月からサービスを開始。従業員は155名。創業からの累計資金調達は177億円、企業価値は11月現在で605億円となる。株主の76.6%が外国人、23.4%が日本人となっている。アカウント数は現在約300万。加盟店数は70万店。
現在、Paidyの貸倒率は1~2%。杉江CEOは、「貸倒率は高すぎても低すぎてもいけない。高すぎると儲からないし、低すぎると審査が厳しくなりすぎ顧客満足度が下がる」と説明。Paidyの審査は前述のとおりメールアドレスと電話番号のみで行なうが、AIを使った独自のアルゴリズムを使い、高精度で貸倒率を予測してリスク回避しているという。
日本のEC市場は、2018年の時点で年平均成長率11%、市場規模18兆円とされているが、EC普及率は6%程度にとどまる。EC普及率は日本の産業がどのくらいEC市場でやりとりされているかを示す値で、2017年の比較では日本が5.8%なのに対して、英国が15.8%、米国が12.2%と、先進国の中ではEC化率が高い方ではないという。
同社は、EC化率を伸ばす手段としてPaidyが有効であると説明する。
Paidyでセキュリティの不安を解決
国内のEC市場の課題として、第一に上げられたのはセキュリティ。オンラインサイトを利用しない理由の42%がセキュリティ面での心配であり、クレジットカードに対しては、41.3%が紛失・盗難、35.4%が不正利用を心配している。
また、同社の調査によると、初めて使うECサイトでは、51%のユーザーが「代引き」を選択しており、そうしたサイトではとりあえず、クレジットカードなどの個人情報を入力したくない、と考える人が多いそうだ。
ただし、代引きは利用者には便利だが、輸送業者にとっては再配達のリスク、店舗にとっては返品率が非常に高いリスクがある。
Paidyは「金融における面倒くさいを解消する」を掲げ、これらの課題を解決するという。Paidy利用にはカード情報や口座番号、事前登録も必要無いため、ECサイト利用時の不安を軽減できる。
実際、既存顧客に加えてPaidy導入によって利用者が増加する傾向があるとし、2015年から2018年までの間に、Paidyのみで21%売上が伸びた店舗のケースもあるという。これは、クレジットカードの利用者がPaidyに移行するのではなく、これまで代引きなどを使っていた利用者と、新規顧客が増加したことによって実現している。
加盟店に対してはクレジットカードと同様にPaidy側が支払いを負担するため、未払いリスクも防ぐ。支払い方法が簡単なためECサイトの「カゴ落ち(カートに入れたまま購入しない)」率が低く、リピート率も向上する傾向があるという。
ファッション特化から大型加盟店へシフト
Paidyは5年前にサービスを開始した当初、ファッション業界を中心とした加盟店舗が多かった。杉江CEOによると、狙いははっきりしていたという。「ファッションは売れればマージンが高い、若い女性がターゲット、というところから戦略を考えた」「単価が安く返品リスクに対応しやすい」「店舗側は、Paidyの手数料を払っても、売り逃しを減らしてコンバージョン率が高められることが重視された」などとし、特にクレジットカードに抵抗感がある女性を取り込むことで利用者を増やしていたという。
Paidyは徐々に大型店舗でも対応事例が増えており、10月にはAmazonにも対応した。これまでは利用者の85%が女性であったが、男性層も多いAmazonに対応したことで今後男女比は変動する可能性がある。
利用者のほとんどはクレジットカード所持
海外では、こうしたサービスは「クレジットカードを持てない人たち」に向けたサービスとして見られることが多いが、日本では事情が違い、利用者のほとんどはクレジットカード自体は持っているという。
クレジットカードとの違いとして最も大きいとしたのは「現金に近い感覚で罪悪感がない」ということ。クレジットカードは使用後すぐに利用履歴がでず、月をまたいでしまうことも多いが、Paidyは使用するとすぐに履歴が表示され、時間差がないという。こうしたことから「マネージングがしやすく、現金に近い感覚なのではないか」と杉江CEOは分析する。
海外の“後払い”事情
Paidyの立ち位置としては、PayPayなどのウォレット系キャッシュレスとの違いを強調。海外ではBNPL(Buy Now Pay Later)とされるジャンルで、スウェーデンのKlarna.、オーストラリアのafterpaytouch、zipなどを競合企業としてあげた。
ただし、これらの企業はすでに大きな市場を獲得しており、Klarna.は約6,000億円、afterpaytouchは5,000億円の企業価値をもつ。日本のBNPL市場はまだ黎明期であり、日本のEC決済の56%がクレジットカード、それ以外は代引き、キャリア決済、プリペイドなどさまざまだが、スウェーデンでは、クレジットカード以外はKlarna.による支払いが40%を占めているという。
杉江CEOは、「日本市場はスウェーデンよりも遙かに大きい」として、今後の展開について説明。まずは、早期に利用者を1千万人に持っていくことを目標にした。
また、オンライン決済だけでなく、オフライン決済にも進出する。アプリに機能を追加することでコンビニなどでも使えるようにするという。更なる機能の追加でサービスを多様化し、最終的にはグローバル市場への進出を目標とする。
すでに台湾には進出済みで、6月にTri-Link Asia Inc.を買収、Paidyへブランド変更してサービスを統合している。
同社は11月にPayPalなどから合計156億円の資金を調達しており、これら新規事業に伴う開発・運用を行なっていく。「日本はGDP第3位という大きな市場。ここでPaidyを育み、世界市場を狙っていきたい」(杉江CEO)。