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米Amazonフルフィルメントセンター訪問記。機械に整然と処理される荷物群
2018年10月4日 07:30
9月下旬、筆者は米Amazon本社のあるシアトルを訪れていた。新たな「Echo」シリーズと「Alexa」の進化についての取材を行なうためだ。その成果はすでにAV Watchに掲載している。
米Amazonはガードの厳しい会社で、これまで筆者も、何度となく本社取材を希望しつつ、果たせずにいた。今回は本社内でのインタビューだけでなく、Amazonの配送の拠点である「フルフィルメントセンター」の取材も行なえた。今回訪問したのは、ワシントン州・ケントという、シアトル・タコマ国際空港に近い場所にあるフルフィルメントセンター。同社のフルフィルメントセンターは北米に75カ所が存在するが、このシアトルの施設は、もっとも初期に作られたもののひとつだという。
「写真NG」はプライバシーのため。もはや秘密はない?!
取材前に、ちょっとした混乱があった。「撮影はカメラを含め、プロ向けの機材では行なわないで欲しい」との通達が出たのだ。「ああ、最新の技術を使っているから、あまり写真を取られたくないのかな」と思ったら、一方で、スマホを含め、携帯電話などの小型のカメラはOKだという。
これはなぜなのか?
担当者に聞いてみて疑問は氷解した。
「撮影に制限をかけたいのは、プライバシー保護のためです。配送作業中の荷物には配送用ラベルが貼られている場合がありますし、働いている人々のプライバシーもあります。箱や働いている人の顔・ネームプレートへの拡大や接写をご遠慮いただければ、他は自由に撮影してかまいません。ただし、動画はご遠慮ください」
なるほど、Amazonとしては、フルフィルメントセンターを秘密にする必要はもはやない、ということのようだ。本社付近のものだから、日本とは違う技術が……といいたいところだが、「現在は、世界中で同じような技術を使っている」とのことで、そこまで特殊な設備はないようである。
人は動かず「ロボット」が動く
とはいえ、このフルフィルメントセンターは巨大だ。「アメリカン・フットボールコート25個分」(Amazon担当者)というから、100m×70m×25で、約17万5,000m2、ということになる。日本人にお馴染みの単位でいえば、東京ドーム約3.7個分となる。そこに、商品を在庫からピックアップする場所、それをお馴染みの段ボール箱に詰める場所、そしてそれを配送地域・配送業者などに応じて分別する場所などが存在する。
一見して感じるのは「人の少なさ」だ。この季節、アメリカはあまり買い物が活発でない時期だそうで、その関係もあるのでは……とのことだったが、面積の割には人が少ない。特に、段ボール箱への詰め込みや配送分別などのラインには非常に人が少なく、ラインの監視や一部人手が必要な部分に配置されているだけに見えた。
活躍しているのは、やはり主に「機械」だ。品物を分別のための棚に移動させ、それをさらに次の作業に移動するには、Amazonが開発したロボットが使われている。箱詰めや梱包、配送分別などはほぼ自動化されていて、ラインがものすごい速度で流れていくのが印象的だった。
では、人はどこで働いているのか?
もっとも人の姿が目立ったのは、棚から発送する製品を分別し、配送に向けて「一時的に箱に入れる」ところだ。棚にはランダムに商品が入っており、配送のためのピックアップにはコンピュータが最大限に活用されている。必要な商品がある「棚」はロボットが見つけて、それを分別する人のところへ移動して持っていく。分別を担当する人は、そこから動かず、ディスプレイの指示に従って「棚」から必要な商品を見つけ、指定の箱へと入れていく作業を行っていた。
Amazonは、広大な敷地を人が歩きまわって商品をピックアップする、というスタイルを過去に採っていたが、現在はロボットが棚を動かし、人はあまり動かないシステムに変わってきているという。
ある意味、ここで人の役割は「もっとも柔軟で判断力のあるセンサー」である、といっていい。現在、それを機械が行なうのは困難なので、人が効率良くその役割を果たしている、といういい方もできるだろう。
さて、これは一見非人間的だが、そう言えるのだろうか。以前の体を酷使して動くことを強いる労働スタイルと、どちらの方がいいのか。働いている人々に質問をすることはできなったが、おそらく今の方が働きやすいのではないか。
そしてなにより、このラインを維持するのはやはり人間の仕事。かなり大変なことのはずである。
Amazonが自社の設備を公開するのは、「これだけの規模・速度で運営する設備を持ち、維持する」こと自体が困難なことであり、そうそう真似できないからではないか。配送センターのサイズが小さければ、オリジナル技術による自動化の開発も含め、ここまでの効率化は必要ない。
Amazonが気前よくフルフィルメントセンターを公開するのは、そうした自信の表れではないか……。設備を見ながら、筆者はそう考えてしまった。