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新しい街「TAKANAWA GATEWAY CITY」と地域を繋ぐ 新モビリティ「みなのり」の挑戦

2025年3月にまちびらき予定の「TAKANAWA GATEWAY CITY」のイメージ図

2025年3月、TAKANAWA GATEWAY CITYがいよいよまちびらきを迎えます。JR東日本の高輪ゲートウェイ駅が2020年に開業したことは記憶に新しいところですが、今度はそこに隣接する約9.5ヘクタールの広大な敷地に、巨大なまちが姿を現すことに。駅直結のオフィスやホテル、商業施設、住居棟などが整備され、文化創造や国際交流、共創・イノベーションの場も設けられます。

サステナビリティやゼロカーボン、DXを活用した防災にも取り組み、世界でもまれに見る先進的な街へと変貌を遂げるTAKANAWA GATEWAY CITY。2025年度内には全施設が稼働する計画で、そうなれば総延床面積は約84.5万m2にも達します。駅は1日あたり街完成時には13万人を超える乗車人員を見込んでいて、周辺には新たなにぎわいが創出されることになるでしょう。

国内最大級のまちづくりプロジェクトが今まさに進行しているわけですが、1つ大きな課題が浮上してきています。

それは、高輪ゲートウェイ駅周辺の交通手段が決して充実しているとは言いがたい、ということ。

駅の西側にある高輪エリアにかけては起伏に富み、道路が狭いという特情から、既存交通網ではカバーしきれないエリアが存在します。とりわけ充実した南北方向の移動手段に対し、東西方向の移動手段及び移動効率が低いこと、高輪ゲートウェイ駅からのアクセス向上が交通課題となっています。

まちびらきして大勢の人が押し寄せれば、その問題が一層深刻化することは避けられません。そこで、JR東日本やKDDIなどが中心となり、東京都港区と連携して新たな移動手段の導入を推し進めてきました。その成果となるのが、まちびらきに先駆けて2024年11月にスタートするオンデマンドモビリティサービス「みなのり」です。

社会実装に向けた実証実験に位置付けられる「みなのり」とはどんなものなのか、そして街をどのように変えていくのでしょうか? JR東日本とKDDIのプロジェクト担当者に話を伺いました。

JR東日本 マーケティング本部 品川ユニット チーフ 楠本晋平氏(左)、KDDI オープンイノベーション推進本部 BI推進部1グループ コアスタッフ 手塚智之氏(右)

TAKANAWA GATEWAY CITYにおける移動の課題とは?

高輪ゲートウェイ駅周辺の移動において、現状どのような課題があるのか、いま一度整理してみましょう。

同駅は、南北方向に伸びるJR山手線・京浜東北線の駅で、北に田町駅、南に品川駅があります。東京湾を臨む東側は主にオフィス街が広がり、反対の西側は高輪、白金、白金台といった、いわゆる高級住宅街となっています。

この西側のエリアでは南北方向に地下鉄と、路線バスやコミュニティバスが走っているものの、南北方向に比べて東西方向の移動手段が限られています。シェアサイクルも駅から離れた場所にしかなく、JR東日本の楠本氏によると「駅から白金・白金台エリアまでは1~2km程度。徒歩圏内に思われるかもしれませんが、途中は起伏が激しいうえに狭隘な道も多く、実際に歩くとかなり大変」な地域です。

高輪ゲートウェイ駅の西側エリアは細い道や急な坂が多い

TAKANAWA GATEWAY CITYが工事中である現在は、なおのこと駅と西側エリアの移動において困難さが増しています。「港区からも、かねてから高輪エリアの交通不便を解消したいという話は伺っていました」と楠本氏。住民の移動の不安を解消する。それに加えて、「2025年に開業するTAKANAWA GATEWAY CITYを起点とした新しい移動需要を創出するという意味でも、従来のバスや鉄道やタクシーがカバーできない隙間を埋めるサービスとして、オンデマンドモビリティが有効ではないかと考えた」と言います。

JR東日本 マーケティング本部 品川ユニット チーフ 楠本晋平氏

交通手段の空白地帯となっているエリアにオンデマンドモビリティを提供することで、「TAKANAWA GATEWAY CITYという新たな街の誕生に合わせて、そこにぎわいを新たにつくり出すだけでなく、地域全体のにぎわいもつくり、地域としての魅力や価値を高めていきたい」と同氏。「交通不便地域の課題を解決することで、地域の“つながり”も強化されるのでは」と期待をかけています。

オンデマンドモビリティ「みなのり」はどんなサービス?

ところで、オンデマンドモビリティとはどういうものなのでしょうか。

従来型の公共交通機関、たとえば路線バスは、定時・定路線型とも呼ばれ、あらかじめ決められた時刻表に沿って決まったルートを巡回するものです。対してオンデマンドモビリティは予約運行型とも呼ばれ、時刻表はなく、利用者の要望に応じて特定エリア内の所定の出発地から目的地まで運行する形をとります。

「みなのり」はそんなオンデマンドモビリティとして、TAKANAWA GATEWAY CITYと高輪エリアをつなぐ、半径約2km程度の範囲の移動をサポートするサービスとなります。2024年11月から約1年間を実証期間とし、小型バスよりもコンパクトな9人乗りワンボックスカー2台で運行する予定です。

TAKANAWA GATEWAY CITYと白金、白金台、高輪の各エリアをつなぐ「みなのり」
「みなのり」は乗降スポットから乗車する

なお「みなのり」は、今回の実証運行サービスのコンセプトとなる「みんなで創る、地域の新しい交通サービス」から連想して付けた愛称となります。

乗降スポットは対象エリア内にあらかじめ20箇所ほど設定されます。ホテルや学校、大規模マンション、公共施設などが中心になるとのこと。営業時間は朝8時から夜20時まで。専用アプリや電話を通じて申し込み(アプリは24時間受付、電話は9~19時受付)、乗車スポットと降車スポットを指定して予約します。

同時利用者が複数人になりうる乗合サービスでもあるため、最短距離・最短時間で自分の目的地にたどり着けない可能性もあります。しかし、エリアを半径約2km圏内に限定することで、車両が到着するまでの待ち時間や乗車中の迂回時間を、最小限に抑えるよう工夫されています。

乗降スポットのエリアマップ

利用者は主に地域の住民で、特に高齢者や子育て世代を意識しているとのこと。TAKANAWA GATEWAY CITY開業後の観光利用も見据えて、3つの料金プランを設定しています。

利用1回ごとに支払うワンタイムプランは「500円」、地域住民の利用を想定した回数券プランは5回分で「2,300円」、何度でも乗れる月定額利用は「9,000円」。また、港区コミュニティバス乗車券の交付を受けている人(高齢者、妊産婦、障がい者など)や小学生は割引料金となります。

支払いはアプリ上での事前クレジットカード決済、もしくは車内でのSuicaをはじめとする交通系ICカードによる決済に限られ、現金は扱いません。

KDDIがオンデマンドモビリティに取り組む理由

今回、JR東日本とともに「みなのり」のプロジェクトメンバーの1社として参画しているのが、通信会社のKDDIです。同社は2020年から「空間自在プロジェクト」という分散型まちづくりプロジェクトを通じて、TAKANAWA GATEWAY CITYのまちづくりに携わってきました。

KDDIグループでは日本全国30以上のエリアでモビリティ事業も展開し、2021年には「グリーンスローモビリティ」で港区においてマイクロツーリズムにも取り組んできています。KDDIがこれまでのモビリティサービスで培ってきた知見、実績のある技術やシステムを応用して展開するのが「みなのり」ということになります。

KDDIの手塚氏は、「JR東日本は不動産や鉄道などリアルなフィールドを得意としていて、我々KDDIにはアプリやデータ分析などデジタルなソリューションがあります。両社のリアルとデジタルを掛け合わせることで、街をもっと良くしていけると思いました」と述べ、「港区の移動手段の空白地帯を埋めるため、既存の交通機関と互いに補完し合い、ラストワンマイルをつなぐもの」にしたいと意気込みます。

KDDI株式会社 オープンイノベーション推進本部 BI推進部1グループ コアスタッフ 手塚智之

KDDIが提供するデジタルソリューションとはどういうものなのでしょうか。手塚氏によると、「例えばデータ分析をもとに移動ニーズが高いポイントに乗降スポットを移動することで、より便利なモビリティサービスに進化させられます」とのこと。

実際、最初に設定した乗降スポットや料金についても、「携帯電話網から得られる人流データなどを用いて、そのエリア内にどれだけの人の動きがあるか、どのように人が移動しているか、といったデータ分析をもとに仮説を立て、お客様がご利用しやすいサービス設計の検討を進めた」のだとか。

乗合サービスのため、利用者ごとに乗降場所が異なる可能性が高く、ドライバーがピックアップしていく順番や移動ルートによっても効率が大きく変わってきます。しかし、そうした部分もKDDIの得意分野を活かせる領域です。

「ルーティングをいかに最適化するかが重要です。車両台数や乗降スポットの位置、運行時間などを最適化できるように、実証実験のなかで分析し、お客様や自治体様の声も集めながら次のステップに活かしていくことを目指したい」と手塚氏。2025年3月のまちびらき後は、当然ながら人の流れが大きく変わってくるものと考えられますが、継続的に分析し、改善点を探っていくとしています。

TAKANAWA GATEWAY CITY敷地内の駅前広場のイメージ

なお、こうしたオンデマンドモビリティの取り組みによって、交通事業者がドライバーを確保することが難しくなっている現状にも貢献したいのだとか。

「決まった時間に決まったエリア内で運行を行ない、また月額料金プランのような安定的な収益が見込めるモビリティサービスが広がることにより、より柔軟な働き方が可能になります。これにより、ドライバーになりたいと思っていただける方の裾野が広がるような取り組みになれば嬉しい」と手塚氏は話します。

実証実験期間に担当するドライバーは、国際ハイヤー(KMタクシー)の経験豊富なプロ数名で、固定となります。

「地域に根ざした交通を目指していくうえでは、お子様1人でも乗れるようなモビリティになることが理想です。そのためにはドライバーさんが常に顔見知り、というような安心感が作れることが大事で、そこが今回のようなオンデマンドモビリティサービスの重要な要素のひとつだと考えています」(KDDI手塚氏)

TAKANAWA GATEWAY CITYから日本各地へ

今回のオンデマンドモビリティのプロジェクトは、現在の高輪ゲートウェイ駅周辺地域や新たに開業するTAKANAWA GATEWAY CITYに向けたものですが、このような移動手段の空白地帯となっているエリアは全国に無数にあると想像できます。

これについて楠本氏は、「JR東日本としては、TAKANAWA GATEWAY CITYだけがにぎわえばいい、という考えではもちろんありません。他にも当社として開発を進めている地域もありますので、そこに今回の知見が活かせるようなものがあれば、展開していくことももちろん考えられます」と話します。

「TAKANAWA GATEWAY CITY」イメージ図

手塚氏も「新しいモビリティサービスを街に実装する場合、お客様の利便性を考えると、既存交通との相互接続が大切です。今回はJR東日本と一緒に取り組んでいることで、人が集まる鉄道駅という場所から乗り換えがスムーズに行なえる形で進めていて、オンデマンドモビリティの位置付けがさらにアップデートされるだろうと感じています」と自信を見せるとともに、「鉄道とオンデマンドモビリティにおける相互の補完関係をしっかりと形作り、よりラストワンマイル交通の課題が顕著であろう地方にも展開していきたい」と今後の目標にも言及しました。

KDDIといえば、Pontaパスという携帯電話に関連するサービスも提供しています。こうした既存サービスとの連携による「みなのり」の料金割引のような施策も「ぜひ考えていきたい」と手塚氏。モバイルSuicaユーザーの割引も含め、「両社のお客様にとってメリットになることは検討していくことになる」と語ります。今後、地域住民の方以外の観光目的のユーザーにとっても魅力ある移動手段になっていくでしょう。

オンデマンドモビリティ「みなのり」のサービス開始は2024年11月、TAKANAWA GATEWAY CITYのまちびらきは2025年3月を予定しています。高輪ゲートウェイ駅周辺がこれを機にどんな街へと変わっていくのか、楽しみにしたいと思います。