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動くホテル? ジャンボフェリーが「ナゾの宿泊プラン」を始めた理由
2025年3月15日 09:15
出張で神戸に来たけど、ホテルに空きがない。なら、片道4時間の夜行フェリーを往復、ホテル代わりに使ってみよう! 神戸・高松・小豆島を結ぶフェリーを運航するジャンボフェリーが、そんなサービスを2月に開始した。
高松に行くけど降りません! 「フェリーで行って戻るだけ」一泊プラン
ジャンボフェリーが始めた「あおいに泊まろう」プランは、夕方19時台に神戸市にある三宮港からフェリー「あおい」に乗船、香川県の高松東港で降りずにそのまま引き返し、朝5時台(事前申請があれば7時まで滞在OK)に三宮港でフェリーから降りる。実質的には「神戸で一泊」状態で、フェリーをホテル代わりに使ってもらおうというプランだ。
あおいには、一般旅客料金の片道1,990円に6,000円(繁忙期は7,500円)をプラスして利用できる「のびのびファミリー個室」と、片道8,000円(繁忙期は9,500円)をプラスして利用できる「のびのびバルコニー個室」がある。
「あおいに泊まろう」ではこれらの客室を利用しており、ファミリー個室プランが7,990円、バルコニー個室プランが9,990円と、「フェリーに乗船」する感覚なら、相当におトクだ。なお、複数人の場合は大人1人増えるごとに+1,990円(子どもは+1,000円)で、また土休日ダイヤ対象日は大人1人につき+500円(子どもは+250円)が別途必要となる。定員は6人で、子どもは0.5人換算。
しかし、せっかく高松に来ているのに、名物の「さぬきうどん」を市内に食べに行くこともなく折り返すプランを「もったいない!」という方もいるだろう。神戸から神戸へ、海上を行って戻るだけの「あおいに泊まろう」プランは、なぜ誕生したのか。
万博需要で「ホテル不足・便乗値上げ」が起きる?
ジャンボフェリーに、「あおいに泊まろう」プランを始めた理由を聞いたところ、「万博需要によるホテル不足・料金の高騰」を見越してのことだという。
4月13日から10月13日まで、半年にわたって開催される「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」では、2,820万人の来場者(うちインバウンド350万人)が見込まれる。
現段階ではチケット売上の不調が伝えられているものの、それでも相当数の観光客が関西を訪れる。ここで心配されるのが、関西圏全体でのホテル不足・客室単価の高騰だ。
一大観光地・京都では、2024年の客室稼働率は前年の73.4%から78.5%に、平均客室単価は17,403円から20,195円に上昇している(京都市観光協会調べ)。大阪もホテルの客室稼働率が80%を超え、客室単価は現時点でコロナ禍前(2019年)を軽々と突破している。
ここに万博需要が加われば、京都・大阪でホテルを確保できなかった人々が、神戸までリサーチの範囲を広げるだろう。ホテル不足・値上げの波が神戸にも押し寄せると、ジャンボフェリーの「フェリーがホテル代わり」施策にも商機が出てくる。
空港国際化・アリーナ開業で三宮は「これからホテルが足りなくなる街」
神戸はこれまで、京都・大阪よりホテルが取りやすく、価格もお手頃であった。しかし今後は状況が変わりそうな要因がいくつもある。
4月には、神戸空港・第2ターミナルビル開業で国際チャーター便の発着が可能となり、すでに韓国・中国・台湾など5都市に週40便の就航が決定している。神戸市は湾岸地区に集積するモノづくり企業・製造拠点と海外企業を繋ぐシティセールスに乗り出しており、三宮に滞在・宿泊する出張客が増加していくだろう。
同じ4月に、1万人収容の「GLION ARENA KOBE(ジーライオンアリーナ神戸)」が湾岸地区に開業。バスケットボール・Bリーグ「神戸ストークス」のホームゲームが行なわれるほか、MAN WITH A MISSION、MISIA、水樹奈々などアーティストのライブ開催も決定している。ライブやイベント、大規模な学会・商談会ごとに人々が押し寄せ、三宮で宿泊先を探すことになるだろう。
周囲に宿泊需要を分散できるなら良いが、あいにく東側(大阪方面)はさらにホテル不足、西側(神戸市元町・長田方面)もホテルは少ない。なら、海上に浮かぶジャンボフェリーをホテル代わりに、という発想もアリだろう。
ジャンボフェリーの担当者の方によると、「『ホテルが取れなかった際にジャンボフェリー往復で船内1泊した』という話を乗客から聞き、宿泊できるプランの発売を思いついた」とのこと。現在のところ「サービス開始から複数の予約があり、順調に利用されている」そうだ。
では、「あおいに泊まろう」は実際にホテルとして「使える」だろうか? 筆者が実際に自腹を切り、出張(神戸取材)ついでに「あおいに泊まろう」の快適さを検証してみた。
あおいに泊まろう「宿泊レポ」 ホテルだけど、窓の外は海!
ジャンボフェリー「あおい」乗り場がある「新港第3突堤」は、間もなく開業するジーライオンアリーナ神戸(新港第2突堤の跡地)の隣、徒歩3分ほどの場所にある。もし「チケットは取れたものの、ホテルがない!」事態に直面したら、とりあえずジャンボフェリーに問い合わせてみると良いだろう。
平日は19時45分、土休日は19時20分の三宮港出発前に、普通のフェリー乗船と同じ手続き(氏名・連絡先を記入)を行なう(ネット予約はできない)。これが実質上のチェックインだ。さっそく船内へ!
お値段の張る「バルコニー個室」は約15~17m2(うち室内 11~13m2、バルコニー 4~5m2)、お手頃な「ファミリー個室」は室内約11m2。ビジネスホテルよりやや広めで、室内の至る所にコンセントがついているのがありがたい(バルコニー個室なら2口コンセントが8カ所)。
普通のホテルと決定的に違うのは、「窓の外の景色が動いている」こと。よく「景色は一幅の絵画」と言われるが、ライトアップされた明石海峡大橋や淡路島・小豆島と、ジャンボフェリーからの眺めは、常に移ろいゆく。また、波も穏やかな瀬戸内海を大型船で航行するため、驚くほど揺れないのも嬉しい。
ただし普通のホテルと違って、寝具や歯ブラシなどのアメニティはない。布団やブランケットもないので、「ヒトをダメにするクッション」ことYogiboのビーズクッションに体を沈めて、寒ければ床暖房を入れて、ぐっすり寝よう。
風呂は2階にホワイトイオン泉「雲の湯」と足湯があり、食事はうどんコーナー「ふねピッピ」で、香川県名物のうどんをいただける(営業時間に限りあり)。高松市には「行って戻るだけ」なので立ち寄れないが、高松への移動目的で利用していて慌ただしく下船する人々を「あぁ、忙しそうだねぇ……」と他人事のように眺めつつ、海風にあたる体験は「あおいに泊まろう」でしかできないだろう。
なお、フェリー乗り場から三宮の市街地までは1~1.4km。200mほど先には循環バス「ポートループ」の「ポートオアシス前」バス停があり、JR三ノ宮駅や山陽新幹線・新神戸駅、観光スポットの定番「ハーバーランド」「メリケンパーク」などにも行ける。ただ、朝5時台の三宮港到着では、チェックアウト時間があまりにも早すぎる……という声に応えて、7時まで滞在できる「レイトチェックアウト」が始まった(事前申告が必要)。
三宮の市街地からはやや遠いものの、「ジャンボフェリー」はホテル代わりに、十分に使えそうだ。インバウンド需要・万博需要で、「フェリーに泊まる」という、ありそうでなかったプランにどれだけ需要があるか、その推移を見守りたい。