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メルカリの成長は止まったのか? ホーム画面一新と新事業で狙う次のステージ

3月7日に通信サービス「メルカリモバイル」を発表するなど、新たな取り組みが増えてきたメルカリ。ただし、2025年6月期 第2四半期決算を見ると、MAU(月間アクティブユーザー)が2,279万人で前年同期比3%減、2四半期連続での前年割れとなっている。

サービス開始から12年、日本を代表するスタートアップとしては伸び続けてきたメルカリの成長が“踊り場”に差し掛かったようにも見える。加えて、昨年11月には不正利用問題も発生し、その対応に追われるなどネガティブなトピックも印象に残る。

一方で、四半期GMV(総流通額)は前年同期比5%増の2,960億円と引き続き拡大しており、販売される商品の単価は上昇。ユーザーの取引や金額は増加傾向だという。また、24年後半からは、新規事業の取り組みが積極的で、ほぼ毎週のように新サービスが発表されている。24年末には暗号資産つみたてなど、1月にはNFTマーケットプレイスや「オークション」を開始、2月には広告事業と光回線・電気のインフラサービス、そして3月には通信(MVNO)サービスの「メルカリモバイル」がスタートした。

その姿を変えつつあるメルカリ。狙いはどこにあるのか? メルカリグループ日本事業責任者の山本真人氏に聞いた。なお、取材は2月28日にオンラインで行なっている。

スタートアップ回帰と不正利用という躓き

山本氏によれば、矢継ぎ早にサービスがスタートしているのは、24年7月から始まった2025年6月期にあわせた目標変更にある。当期は「バック・トゥ・スタートアップ」を掲げ、スピーディに事業を立ち上げて推進する体制をつくったからだ。

「次の大きい成長と変革のため、新年度で(創業者でグループCEOの)山田と決めたのが『バック・トゥ・スタートアップ』(スタートアップに戻る)でやっていくことです。すべての意味でスタートアップに戻る訳では無いですが、成長に向けてスピーディに動いていこうと決めました」(山本氏)。

そうした目標とともにメルカリのアプリは、第2四半期にホーム画面を完全に一新したほか、25年に入ってからの「新サービスラッシュ」が生まれているという。ただし、その途上には大きな「トラブル」もあった。

この半年で、ネガティブな意味でメルカリが話題となったのが、24年11月に発生した不正利用と、それに伴うサポート体制への批判だ。

この問題は、メルカリを踏み台として不正利用者による悪質な返品詐欺などが行なわれたものだ。出品者が商品のキャンセル・返品に応じた際に、「返品されたものの中身がない・別物だった」「すり替えられていた」などの事例が多数報告されたが、メルカリのサポートに被害を訴えても、テンプレート的な回答が来るだけで泣き寝入りを強いられたといったものだ。この対応のため、メルカリでは11月末にサポート体制の強化と積極的な不正対策の導入を発表した。

不正利用の影響について数字は公表していないが、第2四半期決算発表時にも「取引を控える動きがあったため、デイリーユーザー数やGMVへの影響もあった」(メルカリ 江田清香CFO)と言及されている。

山本氏は、「サポート体制についてはもともと今年度に刷新しようとしていた」と語るが、11月にSNSを中心に注目が高まり、「対策が間に合わなかった。使う方が不安に思う心理が広がり、GMVにも影響した」と認めた。そのうえで「従来はユーザー同士の直接やり取りを基本とし、介入には慎重さが必要と考えていました。少しずつ介入を強める予定でしたが、今回『正しく使う人が不利益を被る』という状況を生んでしまった。この問題は真摯に受け止めて、改める必要がある。介入の方向性をより強めることを決めました」と語る。

「これだけ大きなプラットフォームになれば、悪用する人は必ず存在します。その対策も強化しており、特に模倣品については相当対策が進みました。それでも、狙ってくる人はいる。万一問題が起きても、普通に使う限りは安心して保証を受けられるようにする。とにかく『普通に使っていただいている人が不利益を被らない』形にしていきます」

メルカリグループ日本事業責任者(執行役 SVP of Japan Region)の山本 真人氏(2024年9月撮影)

結果として、ユーザー間で解決が難しい問題に対して、メルカリの関与を強めるサポート体制を構築。補償方針も見直し、正しく利用しているユーザーへの補償を拡大した。また、ユーザー間で問題解決できない場合は、メルカリが介入し、取引の経緯や過去の利用状況の確認を徹底。加えて、新たに商品回収センターを開設し、すり替え・模倣品などの商品回収や、商品画像・説明と商品実物の照合・調査をメルカリが担う体制を構築した。

過去最大のホーム画面刷新

こうした不正対策後は、ユーザー数も回復傾向となり、GMVも伸びているという。「ユーザーの安心感」はもちろんだが、フリマアプリ「メルカリ」自体のサービス刷新の影響が大きいという。

最も大きなものが、メルカリアプリにおける「12年間で最大規模のホーム画面の変更」だ。ユーザーごとにホーム画面に大きくオススメ商品を表示するほか、キャンペーンタブを廃止するなど、売る・買う・探すの体験を大きく刷新している。山本氏は、「ちょっとしたブラッシュアップではなく、非線形の変化。かつて無いレベルでのホーム画面の刷新」と説明する。

新しいホーム画面(左)と従来のホーム画面(右)。(メルカリ提供画像をもとに編集部作成)

新しいホーム画面では、特にユーザーごとのオススメが目立つ構造になっている。なぜこうなったのだろうか?

山本氏は3つの「ポイント」をあげる。

それが、「テクノロジーとAI」「はじめてでも簡単」「目的特化にしないこと」だ。

「テクノロジー」については、この1年でもAIを取り巻く状況が大きく変わっている。最新のテクノロジーを活かしてユーザー体験を変えること。これがホーム画面のオススメなどの展開につながっている。

2点目の「はじめてでもかんたん」については、12年間、メルカリがサービスを続けるなかで、“慣れている人”に最適化されてきた部分があったとする。そのためリニューアルにあたり、新たにはじめる人でも迷わず、使いやすくなるよう意識したという。

3点目の「目的特化にしない」は、やや変わった表現だが、これも慣れている人が欲しい商品を探して、売る・買う“だけ”の場所になることを危惧したものだ。

例えば楽天市場のようなECサイトは、欲しい商品を検索で見つけ、買いたい商品を選択・購入し、離脱する「購入のための場所」だ。それ自体は便利で正しい姿であり、メルカリ自身も“便利に使える”ように進化してきた。山本氏も「目的にあった使い方ができることは素晴らしいこと」と認めながら、「メルカリでは、中古品や他の人が要らなくなったものに出会える『宝探し要素』や『セレンディピティ』的発見も重要と考えてきました。しかし、そうした機会や体験が少なくなっていた」という課題があったとする。

そこで、「ユーザーがより多くの時間を過ごす」サービスに向けた改善策がこのホーム画面の改良となる。

「以前のホーム画面は、一番上にバナーが配置された静的なものになっていました。新しいホーム画面では、基本バナーがなく、常にオススメが出ていて、スクロールしても新しいオススメが続いていくという閲覧体験に変えました。若い方的に言えば『DIGる』的な要素を入れています」と語る。

ホーム画面の刷新。上が従来、下が最新(メルカリ提供画像)

縦スクロールを続ける限りオススメが続くという体験は、TikTokやYouTubeショートのような動画サービスの体験に近いものに見えるが、山本氏も「意識はした」と認める。つまり、メルカリという売り買いアプリの根幹となる体験を、現在よく使われているサービスに寄せて大きく変えたことになる。

また、下部の「探す」タブも廃止し、「いいね」が追加されている。検索自体はホーム画面の上に配置し、いいねと検索したキーワードを積極的にオススメに活かしていくデザインとなった。EC的な検索体験よりも積極的にオススメ/レコメンドを活かす仕組みといえる。

こうした大きなホーム画面変更の結果、ユーザーあたりの滞在時間が伸び、購入単価も上がっているという。加えて、写真を撮るだけで出品できるようにしたことから、一人あたりの「売り」「買い」両方が伸びているとする。

購入単価の上昇は、ブランド品などのラクジュアリーブランドや車関連などに力を入れたことも大きい。特に「あんしん鑑定」の導入に加えて、偽造品の対策を強化したことで高額商品の取引も増えたという。また、インタビュー後の3月5日には、高額商品(価格は案内せず)の取引には本人確認を必須化することも発表している。

ホーム画面の刷新だけでなく、安全対策や、鑑定や越境ECなどこれまで強化してきた施策が実を結びつつある。これが山本氏が「明確に伸びている」と自信をもって語る背景になっているようだ。

マーケットプレイスの第2四半期の主な施策

「MAUは正しい指標か」問題

山本氏が、施策への手応えを語る一方、第2四半期MAU(月間アクティブユーザー)は減少した。初の2四半期連続減少の2,279万人なっている。

MAUの減少ということは、メルカリの成長は頭打ちなのか? そうした問いに、山本氏は「現状を見るのにMAUが正しい指標なのか? 少し違うと感じている」と応じる。

MAUは2,279万人で、前年同期(2,354万)と比較して3%減少している

「中身を見ていかないと、メルカリの事業を正しく理解できなくなってきた。メルカリでもかつては、アプリのダウンロード数や登録者数を公表していましたが、実態を表さなくなってきた(ので公表を止めた)。同じように“MAUだけ”をみてもわかりにくくなっています」

特に第2四半期は不正利用対策だけでなく、模倣品の問題の対応も強化した。こうした対策もユーザー数(MAU)の減少には影響したという。ただ、この取り組みの結果、例えばブランドバックでは模倣品が大幅に減るなどの成果がでているという。「より正しく、普通に売られている商品が動くようになった。売れない商品をずっと出している人とか、あまりアクティブでない人の利用は減っている」とする。

また、公表してはいなが、利用者ごとの月間アクセス数や滞在時間が伸びており、毎日(DAU)や毎週(WAU)といった単位のアクティブユーザーも増えているとのことで、「しっかり使うユーザーさんにより楽しんでいただけている」と自信を見せる。その上で、現在の2,300万というユーザー数(MAU)から「もっと伸ばせると思っています。ただこの数だけを追うのではなく、メルカリをしっかり使っていただく方を増やして、結果として数字を伸ばしていく」と説明する。

価値の循環先を増やす新規事業。改善結果としてのオークション

「スタートアップに戻る」宣言もあり、矢継ぎ早に新規事業がスタートしている。メルカリモバイルのほか、NFTのマーケットプレイスや広告事業、オークション、メルペイでの光回線・電気などインフラ販売など、この3カ月で多くの新規事業が開始された。これだけのサービスを一斉に展開する狙いはなんだろうか?

山本氏は、それぞれの新サービスは「根本ではつながっている」とする。メルカリの「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」というミッションのもと、「価値の循環」という点で、各サービスの連携が作られているという。

「光回線や電気は、メルカリで売ったお金の使い先になります。デジタルアイテムの売り買いのNFTなど、“循環先”を広げています。その循環先は広く、多いほうがいいはずです。(スポットワークの)メルカリ ハロも働いた価値を貯めて、メルカリの他のサービスで循環できる。暗号資産のステーキング(保持して預けるだけで対価を得られる)もその一環です。(新規サービスの追加は)循環する価値の入口と出口を増やすことが基本です」

一方、循環とは直接かかわらなそうなのが「オークション」だ。フリマアプリとして、メルカリらが登場してから、個人間取引(CtoC)の規模においては、オークションをフリマアプリが追い抜き拡大してきた歴史からも、意外性のある展開だ。

ただし、山本氏は、オークションを始めたというよりは、「結果としてオークションになった」と語る。

「オークションは新機能というよりは、メルカリのホーム画面や出品の強化の流れから生まれたものです」

メルカリでは、24年夏から写真を撮れば自動で文言が出る「AI出品サポート」を始めている。出品をためらっている人に理由を聞くと、「価格が決められない」という声が多かったことから、写真を撮るだけで価格が自動で追加され、「価格なしで出せる」という「AI出品サポート」機能を作った。この機能自体は好評だったという。

ただ、出品は楽になるけれども、売れるまでに時間がかかるという課題もあった。そこで、もっと早く売れるための手段を検討し、買い手が価格を提案する形に価格なし出品を“バージョンアップ”をした。結果として「『この機能ってオークションだね』と。名前としてはわかりやすいのでオークションにしました」と笑う。

「Yahoo!オークション」などの競合対抗などを意識した機能ではなく、メルカリの機能改善の結果としての「オークション」というわけだ。そのためオークション期間を24時間に限定するなど、メルカリの中での使いやすさに配慮した機能としている。

現在の使われ方としては、通常のメルカリのフリマ出品で売れなかった商品について「価格付けが違っていたかも?」 と考える人が、オークションに切り替えて価格決定を“買い手に委ねる”形が見えてきているという。一方で、オークションの導入により、売る体験も買う体験も変化している。その点は「挑戦という部分はあるが、早く売れることに価値を感じてもらえているようだ」とする。オークションについては、利用動向をみながらブラッシュアップしていくとする。

スーパーアプリに“ならない”メルカリ

様々なサービスがメルカリ上でつながっていく一方で、危惧されるのは「複雑化」かもしれない。「売る・買う」のシンプルなアプリだったメルカリに、サービスが増えることで使いにくさ、わかりにくさに繋がらないだろうか? 例えば、メルカリ ハロのスタートで「はたらく」タブが増えたことなども気になる部分だ。

山本氏も複雑になることへの危惧は認める。「その点は今後の大きなテーマだと考えています。数年前に、様々な機能を統合した“スーパーアプリ”というコンセプトが盛り上がりましたが、我々はそうなるのは避けたい。『なんでもできてなんにもできない』には自覚的になるべきと思っています」と語る。

「ホーム画面の刷新は、かんたん、シンプルを求めたものでした。ただ、サービスが増えてきているのは事実で、このまま一つのアプリに機能を入れていくので良いのか? そこは今後の検討課題です。例えばメルカリ ハロは専用アプリを用意していますし、働く機会が多い人はそちらを使い分けています。メルカリの体験が1つのアプリの中だけにまとまっている必要はない。メルカリの体験の世界観を、どういう形で提供するのがお客様にとって使いやすいかを考えながらアプローチしていきたい。NFTでもWebを使う形にしていますし、そこはメルカリとしても少し変わってきている部分です」

ではシンプルさの軸はどこにおいていくのか。そこはメルカリのミッションでもある「価値の循環」とする。

「例えば、Facebookとメッセンジャーは別のアプリですが、同じユーザーという基盤を共有しています。楽天のサービスはポイントでつながっています。我々メルカリの場合は、それぞれのサービスの中で価値が循環することが重要だと考えています。サービスとしての世界観はそこにこだわっていきます」

臼田勤哉