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AIで激変するヒューマノイドロボット 高まる期待と現実の課題
2025年3月6日 08:40
最初に結論からいう。ヒューマノイドロボット(人間型ロボット)はゲームチェンジャーになり得る。世界を変えるかもしれない。だが、「すぐ」ではない。投資家たちは煽り立てているが、まだしばらくは時間がかかるだろう――。無難でつまらないが、これが筆者の現時点での仮説だ。
こう考える理由は単純である。ヒューマノイドに期待されているのは一人前の労働力だ。人間同等の作業が同じ空間でできるのであれば、無限の可能性がある。しかしながら、現時点のヒューマノイドの能力はまだ「一人前」とは言えない。運動能力も認識能力も器用さも、まだまだ不足している。よって、現時点では人の代替にはなり得ない。
ただし、現時点ではまだ無理だが、将来もずっと無理かというと、そうでもないかもしれない。特に近年、可能性を感じさせる研究成果がどんどん出てきている。以前は「とても難しい」とされていた課題もクリアされ始めた。少なくとも研究は追いかけておく必要がある。どこかで一気にゲームチェンジが起こる可能性はある。その時、日本企業もプレイヤーとして市場に参加できる状況を維持してほしい。
そこで本稿では、ヒューマノイドの現状を概観し、改めて課題を見つめなおしたい。
運動能力は爆上がり中 ランニング、ダンス、宙返りなど
ヒューマノイドへの期待が急激に高まっている理由は、実際にすごいヒューマノイドが開発されているからだ。米国と、特に中国の勢いがすごい。各社が競うように、しかも毎週毎週、驚きの動画を公開し続けている。背景には高性能なアクチュエータの開発と高精度な制御技術、深層学習、強化学習、模倣学習など機械学習技術を活用した制御方法のパラダイムシフトがある。
ドローンやEVの技術開発とエコシステム形成ももちろんプラス要素だ。NVIDIAはヒューマノイド開発活性化を目的として「projectGR00T」を、そしてロボットを含むフィジカルAI実現のための世界モデル「Cosmos」などを提供して開発を支援しているが、シミュレーションベースの開発と、その後の実機への実装(sim-to-real)も以前よりもはるかに容易になった。昔のロボットの様子が記憶に残っている人は、むしろ頭の中からそれらを一度消し去ったほうがいいかもしれない。
どんなことができているかについては、実際に見てもらったほうが早い。まずはUnitree Robotics「G1」の動画から。
ビデオなので、おそらくは編集したのだろうと思うが、屋外の斜面でも難なく走り回る様子が紹介されている。下記のダンス動画に至っては、ロボットのプロのなかにも「CGではないか」と疑う人もいた。そのため、というわけでもないと思うが、Unitreeはこの動画のあとに、人が妨害する様子を交えた動画も改めて公開している。
さらにカンフーまでやっている。「G1」自体は国内の展示会にも出展されているが、展示会では歩いたり手を振ったりするだけなので、本当にこんな素早くなめらかな動きができるのか、ぜひ実際に見てみたい。
このUnitreeはG1のほか、大型の「H1」というロボットも展開している。H1は春節のイベントステージで多くのロボットが人間と一緒に踊る様子が紹介されている。動画には多くの人が見ている様子も映り込んでいる。さぞかし壮観だったろう。
G1は小型であることから多様な研究プラットフォームに使われており、YouTube上でも色々な動画に登場している。いま一番のっている脚式ロボット企業の一つだ。日本の代理店もあり、G1、H1ともに販売されている。筆者が実際に知っている例だけでも日本でもある程度売れているようだ。なおUnitreeは四脚ロボットも出荷しており、同社のロボットはシェア6割とされている。
Unitreeだけではない。他のメーカーも見ていこう。EngineAIのロボットはCGを疑われるほど人間っぽい歩行、しかも屋外での歩行を見せて話題になったが、2月には前方宙返りも見せた。ヒューマノイドの前方宙返りは、世界初だ。このロボット「PM01」も既に販売されている。しかも価格は13,700ドルである。
北京経済技術開発区に2023年に設立された国家地方共建具身智能機器人創新中心(国家地方共建エンボディドAIロボティクス・イノベーションセンター。略称:国創センター)が開発した「天工(Tiangong)」はハーフマラソンに登場したり、雪道を走ったり、北京市内の公園の135段ある階段を一気に登るといったデモ動画が公開されている。特に「エンボディドAI(身体性に基づいたAI)」と、連続稼働での安定性をアピールしている。時速12kmで走ることができるようになっているそうだ。
レノボ傘下のLenovo Capital and Incubatorが出資しているRobot Era(星動紀元)の「STAR1」も長距離走を走る様子が公開されている。なお、2025年4月には、140社以上のロボット関連企業が集積している北京経済技術開発区で人間とヒューマノイドが一緒に走るハーフマラソン競技「2025北京亦荘ハーフマラソン大会」が行なわれる予定で、海外メディアによれば20社以上のヒューマノイドが登場するとされている。また8月にもヒューマノイドを使ったスポーツ大会のようなものが行なわれるという。
タフさのアピールではBooster Robotics(加速進化)もすごい。Unitree G1と同じくらいの小型ヒューマノイドに対して、蹴ったりどついたりする様子を公開している。ガラス瓶で頭部を殴ったり、胴体の上にのせた石板をハンマーで割ったりするなど、中国のカンフーの達人が無闇に乱暴な攻めに耐えてみせるのと同じノリなのだろうが、正直言って、ちょっと引いてしまうような動画をどんどん出している。これくらいタフなら、確かにロボットサッカーなどで激しくぶつかりあっても壊れないかもしれない。
スキル習得も進む 目標の一つは家庭向けロボットの実現
跳んだり跳ねたりするだけではない。スキルのほうも見ていこう。Astribotはロボット基盤モデルの「π0」を展開しているPhysical Intelligenceと組んでスキル習得の研究を行なっている。ロボット基盤モデルとは、大規模言語モデルのロボット動作版で、多様なロボットの多様な学習データから人流の基盤モデルを作り、それをファインチューンすることで色々なタスクをやらせられるのではないかという考え方だ。
モデルを学習させるためにはデータが必要になる。中国のAgibot(智元機器人)は「AIDEA(AgiBot Integrated Data-system for Embodied AI)」という仕組みで身体性を持ったAIの開発を行なっており、「遠征」シリーズなど複数のラインナップを発表しているが、「データ収集工場」を作って、様々なシーンでロボットを遠隔操作で動かして、直接動作データを収集している。
「36kr Japan」の取材記事によれば、二カ月あまりで収集した実機データは100万以上。数百~数千の動作データからなる1,000種のタスクの実機データを収集しているという。Agibotは下半身車輪型含めて、既に1,000台のロボットを出荷していると伝えられている。
ノルウェーとアメリカに拠点を置く1X Technologies(旧社名 Halodi Robotics)は「NEO」というヒューマノイドを開発している。OpenAIなども出資を行なっていることで知られており、彼らは家庭用を念頭に高級車くらいの価格帯でロボット販売することを目指しているという。1Xが最初に発表したロボットの足先は車輪型だったが、発表するたびに「人っぽさ」をました外見となっている。
2025年2月にはニット素材に覆われた「NEO GAMMA」のプロモーションビデオを公開した。ちょっとしたタスクをこなし、自然言語で人とコミュニケーションできる、そんなヒューマノイドが家庭に入ったときの風景を実機で描いたイメージビデオとしてはとてもよくできている。副社長のEric Jang氏のXのツイートによれば、1Xの従業員の自宅では、すでに数週間にわたって「NEO Gamma」を「ドッグフーディング(社内で日常的に使ってみる実地テスト)」しているそうだ。
OpenAIとコラボしていた、もう一つのヒューマノイド企業であるFigure AIは、2025年2月に「Helix」というVLAモデル(視覚-言語-動作モデル)を使ったデモビデオを公開した。「Helix」は自然言語からヒューマノイドの上半身全体を直接制御する。デモビデオでは2体のロボット「Figure 02」が、人の指示に従って、初見(=未学習)の物体を所定の場所にしまったりしている。この動きをHelixが出力している。
Figure AIの解説によれば、タスクに特化した手動プログラミングや、ロボット固有の学習なども行なっていない。それどころか2体の役割の割り当ても明示していない。いわゆる「非構造化環境」で、言語による指示でロボットが動作する。そのためのモーターコマンドが出力されて実行されているという。
Figure AIは「ヒューマノイドロボットの行動をスケーリングする方法において、革新的な一歩」だとしている。同社では今後、Helixを大規模化させる計画だ。
工場現場を想定して「MagicBot」というヒューマノイドを開発しているMagicLab(魔法原子機器人科技)は、第一世代の自社開発器用ハンド製品、MagicHand S01の発売を発表した。MagicHand S01は片手で11の自由度を持つ。MagicHand S01の手の耐荷重は5kgまでで、作業環境では20kg以上の荷物を運ぶことができる。MagicLabは2024年1月に設立されたばかりだが、既に1億5,000万元(30億円超)を調達しており、2025年内には量産型「MagicBot」を出荷する予定だ。
大規模な投資
このようなヒューマノイド開発シーンの活況を支えているのが、活発な投資である。比喩ではなく本当に毎日のようにヒューマノイド開発企業が巨額調達を行なったというニュースが飛び込んでくる。
Figure AIはNVIDIAやMicrosoftから6億7,500万ドル、ApptronikがDeepMindも加わって3億5,000万ドル、1X TechnologiesはOpenAIなどから1億2,500万ドル、Unitree Roboticsは約10億元といった具合で、調達金額も桁違いである。さらに2025年2月にはFacebookのメタまで開発に乗り出すという報道があった。独自のハードウェアだけではなくUnitreeやFigure AIとも話をしているという。
モルガン・スタンレーは投資家たち向けに「The Humanoid 100: Mapping the Humanoid Robot Value Chain」というヒューマノイド産業のバリューチェーン、市場動向を分析したレポートを作成している。ヒューマノイドをAIの物理的具現化ととらえ、総市場規模は約60兆ドルと概算。ヒューマノイドロボットの関連企業100社を「脳」(半導体やソフトウェア)、「身体」(産業用部品)、そして完全なヒューマノイドを開発する統合企業の3つのカテゴリーに分類して整理している。
だが工場や倉庫で本当に働くことはまだできない
これからもしばらくはヒューマノイドの動画が出続けるだろう。このような動画を見るのはとても楽しい。だが、ではすぐに倉庫や工場、あるいは家庭にヒューマノイドが入ってくるのかという話については「ちょっと待ったほうがいい」と言いたい。踊ったり走ったりするのは、程度は違うが、10年以上前に日本のヒューマノイドも行なっていた。「かつて来た道」である。
もちろん当時と比べると今は信じられないくらいの安定さを見せるようになっている。だがやっていることの本質は同じだ。なぜヒューマノイドが踊りをやっているかというと、全身運動制御の技術を、床面以外に接触せずに見せられるからだ。「人間型」なので、「見て楽しい」というエンタメ側面もある。だがそれと「仕事ができる」という話は別物だ。
ちなみに国際ロボット連盟(IFR)も、2025年のロボット業界の5大トレンドの一つにヒューマノイドを挙げている。ただしIFRは、なんでもできる汎用ヒューマノイドではなく、今のトレンドは単一目的、たとえば工場なら工場、倉庫なら倉庫で働くヒューマノイドだとしている。
実際、最近のヒューマノイド開発を行なっている企業は「まずは物流倉庫や工場での実用化を目指している」といっている企業が多い。用途や環境を限定したほうが動作させやすいので、これは当然だ。では、そこで使えるのか。
工場や倉庫では、今でも多くの人手が使われている。もし、ヒューマノイドが人間同様の作業ができるのであれば、なるほど市場は無限大だ。
だが、現状のヒューマノイドの速度は非常に遅い。そして不器用である。いかにダンスをしていても、人間のように実際に作業をしながら素早く動くことはできていない。実際に見せているのは、せいぜいがちょっとした物品をヨタヨタと運んでいる程度である。
自動車工場のなかで動かしてみせているプロモーション動画もいくつかあるが、そもそも自動社会社自体が彼らのスポンサーだ。現在の実際の工場のなかでこんなものが動いていても、邪魔もの扱いされるだけだ。
実用化のカギはマニピュレーション(手先)作業にある
物流倉庫でヒューマノイドをという話もあるが、単にA地点からB地点に何かを運ぶだけなら専用機械がある。たとえば、台車に部品を載せて素早く運び、その部品を所定の場所にせっせと下ろし、台車を足を使ってバタンと畳んで次の作業にパッと移るといった作業ができるだろうか。
あるいは、ハメ込むのが難しい機械の組み立て作業ができるだろうか。コンベア上を流れてくる弁当に規定量の唐揚げやポテサラを素早く盛ることができるだろうか。スーパーマーケットでダンボールに入った商品を棚に入れていく品出し作業はどうか。いずれもロボットにはまだできない。
だが人間はこれらの作業を実際にこなしている。このような手先を使った、いわゆる「マニピュレーション」作業が、しかも高速でできるようにならない限り、人の置き換えを論じてもナンセンスである。
逆に言えば、見た目が派手なダンスや不整地の走行などではなく、実際に倉庫や工場で人がこなしているような手先作業を実行する1倍速の動画が公開されるようになったら、それは革命が近いということになる。ただし、その場合も、まず導入されるのはヒューマノイドではないだろう。
ロボットのコストは大雑把にいうとアクチュエータの数で決まる。汎用性を持たせることで安価にできるという話もあるようだが、コストで考えるならばまずはもっと単純な、たとえば腕だけが移動台車についているといったタイプのロボット(モバイルマニピュレータと呼ばれる)が倉庫や工場に入るのが先だろう。
ヒューマノイドは特殊な形のモバイルマニピュレータなのだ。そしてロボットを必要としている業界は概して保守的であり、設備の置き換えサイクルも長い。現在も進みつつある自動化同様、長い時間を必要とする。
全身人型ではないかもしれない
実際、ヒューマノイドを開発している企業のなかにも、人型というフォームファクターのみにこだわっていない会社もある。デトロイトに拠点を置くBorgは、二足歩行以外の下半身に切り替えられるモジュラー設計を採用している。
同様のコンセプトは「Apollo」と名付けられたヒューマノイドを開発しているApptronikも提案している。適切な移動手段を選ぶのはロボットなら当然のことだ。ApptronikはもともとはNASAと協力してロボットを開発していた。
日本のカワダロボティクスが2009年に開発・販売している人型双腕の協働ロボット「NEXTAGE」は、もともと「HRP」という国のヒューマノイド開発計画のスピンオフとして生まれた。今のヒューマノイドブームからも、こういったかたちのロボットが出てくる可能性はそれなりにある。
家庭内での大型ロボットの存在感は許容できるのか
家庭用に関しては、そもそも「等身大人型の機械」が家庭内に存在しても「邪魔だ」と感じないような家に住んでいる人がどれだけいるのかと思ってしまうのは、「うさぎ小屋」に住んでいる日本人の性だろうか。
それに、現状のヒューマノイドの足音はどれもものすごく大きい。まだまだエネルギーを無駄遣いしている歩き方しかできていない。なんにしても千差万別の環境である「家庭」が一番難しいフィールドであることは誰もが理解しているはずだ。
投資は何に対して行なわれているのか?
ヒューマノイドが何に使えるかは未だに明確ではない。こんなことは投資する側も理解しているはずだ。では、彼らは何に対して投資しているのか。一言でいうと「期待」である。
具体的なビジネスプランや実際のアプリケーションを想定して、その市場の拡大または成功に対して先行投資しているというよりは、「期待」そのものに投資が集まっている。AGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)開発を目指す人工知能関連企業は「アプリケーションはAGIを開発してしまえば見つかる」と考えていると聞く。その投資と同じく、ヒューマノイドへの投資も「期待」そのものをさらに吊り上げること自体が目的となっているように筆者には見える。両者が共に「汎用」をかかげていることは偶然ではない。
勢いが激しいと、バーンレート(会社経営の毎月の消費コスト)も高い。盛り上がって高値がついた期待が、無事に実際のニーズに着地できれば問題はない。だがそうではなく、投資された巨額のカネが焦げ付いてしまったときのことが心配だ。
単にヒューマノイドへの投資が冷え込むくらいならまだいい。投資金額が大きくなればなるほど、負の影響はハイテク業界全体、ひいてはもっと広い範囲に及ぶ可能性がある。そういう可能性があることは、これまでの不況への陥り方を見れば明らかである。筆者は、ヒューマノイドロボット開発がそんな事態を引き起こさないこと、その一端を担ってしまわないことを願っている。
だが変革は突然起こるかもしれない
ネガティブなことばかり言っているように感じるかもしれないが、ヒューマノイドはロボット開発のフラッグシップであり、見果てぬ夢である。
強化学習や基盤モデルも大いに貢献するだろうし、ハードウェアの性能も向上していくので、いつかは人間並みの作業ができるヒューマノイドロボットも実現できるのだろう。そうなると、多くの仕事をロボットで自動化することもできる。筆者も、ここに疑いを持っているわけではない。
ただ、「それはすぐではない」と言っているだけだ。この点については別の意見を持っている人たちも、もちろんいらっしゃるだろう。イーロン・マスクのように、革命が起きる日は近いと考えている人たちもいるようだ。
筆者自身も、確信があるわけではない。GPTがいきなり性能を上げて生成AIブームを引き起こしたように、大量のデータで単一の認識-行動モデルを作り、それをファインチューンすることで多様なタスクができるようになったり、学習のスケーリングを起こしてしまえるような、そんなロボットが登場して、するっと革新が起きてしまう可能性も、もしかしたらあるのかもしれない。
「いつかは来る」時代が、このタイミングで来てしまうのかもしれない。筆者自身、「もしかすると」と、期待している側面があることは否定できない。
だが、現実の自動化に取り組んでいる人たちが本当に細かいところで苦労していたり、非常に高い投資対効果を求められている様子を見ていると、とてもそのようには思えないのである。現場の要求はとてもシビアだ。
とはいうものの、「視点が違うのだ」という考え方もある。従来の自動化への取り組みは、ボトムアップで徐々に行なわれてきた。工程を作り込んで動作環境を限定し、特定用途に絞って設計して実装する。
いっぽう、ヒューマノイドを使った革新を狙っている人たちはトップダウンで物事を変えようとしているように見える。何にでも使える「汎用」を掲げ、特定用途に限定しない。通常、このやり方は製造業や物流のような保守的な産業分野ではうまくいかない。
だが、革命が起こるときというのは突然なのかもしれない。だから、まったく可能性がないと考えてしまうことは賢明ではなく、少なくともある程度は張って(賭けて)おく必要はある。
日本の参入は
現実的にはおそらく、従来型の自動化がじわじわと既定路線どおり進む一方で、これまでとは異なる考え方の新たな自動化も進んでいくのかもしれない。
後者は現時点では自動化が進んでいない、経済産業省的な言い方をすれば「未自動化領域」で進む可能性が高い。両者がどう絡み合って未来社会を変えていくのか、このあたりの予想は詳細に検討する価値がありそうだ。
いずれにしても、このビッグウェーブに対して、かつて世界をリードしていた日本企業が参入していないことはとても残念だ。もちろん、日本がこの開発レースにまったく参入していないわけではない。
エポックメイキングだったホンダの「ASIMO」は開発中止になってしまい、既に今の若者のなかには名前すら知らない人たちも少なくないようだ。当時の開発メンバーたちは今どういう思いでいるのだろう。
しかし、大企業のなかにもまだヒューマノイドを開発している企業はあるし、スタートアップのなかにも、このレースに追いつけ追い越せと考えて、取り組み始めた会社もある。研究用の国産ヒューマノイドも販売されている。前述した「ロボット基盤モデル」の開発は、国内でも行なわれている。ただ、存在感を発揮するには至っていない。
現状のヒューマノイドは販売されているといっても用途は研究開発用だ。本格的な市場投入には、まだ時間がかかると筆者は考えている。ただし、上述したような「本格的に工場で使えそうなロボット」「手先作業を行なえるヒューマノイド」の動画が公開された後になって追いつこうと思っても、それはさすがに遅い。
中国のハイテク投資が過熱している理由には、技術の社会実装のハードルが日本よりも低いことだけではなく、以前は不動産投資に向けられていたマネーが流れているということもあるようだ。
ヒューマノイド開発レースに本格的に参加する企業が国内から出てこない理由の背景には投資環境の違いも大きいのだろう。人口減少社会に向かう日本の将来を真面目に考えるとネガティブな方向になりがちだが、新たな夢を見ることも必要だ。その対象の一つとして「ヒューマノイド」があり得るのかもしれない。