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日本版GPS「みちびき」7機体制のはじまり H3ロケットでまもなく打上げ

みちびき6号機(提供:JAXA)

JAXAは、H3ロケット5号機を2月1日17時30分~19時30分の間に打上げる予定です。今回のH3ロケットには、日本版GPSともいえる準天頂衛星「みちびき6号機」が搭載されます。みちびきは、これまで合計4機の衛星によって運用されていましたが、政府はこれを7機体制とする計画を進めていて、今回のみちびき6号機の打上げはその第一歩となります。みちびきが7機体制になると、私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

【編集部注】打上げは2月2日に延期されました。今後も天候状況により打上げが延期される可能性があります(1月30日)
【編集部注】JAXAから打上げ成功が発表されました(2月2日)

米国の「GPS」に代表される衛星測位システムは、もはや生活に無くてはならないものになっています。カーナビはもちろん、iPhoneなどのスマートフォンも衛星測位システムに対応し、さまざなサービスを提供しています。みちびきも衛星測位システムの一つで、日本独自のシステムとして、より高精度な位置情報を提供しています。

みちびきが運用される以前に主な衛星測位として用いられていたのはGPSですが、米国のシステムであることから、日本国内に最適化はされていませんでした。そのため、国内の都市部のビルや山間部では電波が遮られやすく、正確な位置情報を得にくいという弱点がありました。

そんな状況を改善したのが準天頂衛星衛星「みちびき」です。2010年に初号機が打上げられ、2017年に4号機までの打上げを完了。2018年から4機体制での運用が開始されました。

みちびきは、日本に最適化した衛星測位システムとして、日本のほぼ真上で8の字を描くように飛行する「準天頂」と呼ばれる軌道に投入されました。日本の上空を長時間通過するよう設計されているため、他国の衛星測位システムよりも正確な位置情報が得られます。

提供:JAXA

また、みちびきの軌道は、日本だけでなくアジア太平洋地域も広くカバーしており、日本以外でのサービス展開も可能になっています。

みちびきは、GPSと互換性のある信号を発信しており、GPSと同程度の位置情報(誤差5~10m程度)を提供することが可能ですが、独自の高精度な位置情報サービスを提供するための信号も発信しています。これにより、日本国内では他の衛星測位システムが5~10m程度の誤差があるのに対し、みちびき専用の信号を使うことで誤差1m以下から誤差数cmという精度も実現可能になっています。

みちびき6号を打上げるH3ロケット5号機(提供:JAXA)

みちびき「7機体制」でなにが変わる?

いよいよ24年度からみちびき7機体制に向けた打上げが開始されます。計画ではまず6号機が打上げられ、その後5号機、7号機が打上げられる予定です。打上げ号機の順番が入れ替わっていますが、6号機は静止衛星であり、航空機用のサービス用アンテナも搭載するなど機能が多いことが理由とされています。いずれにせよ打上げは2025年度内に完了する予定です。

みちびき6号機(提供:JAXA)
みちびき6号機のアンテナ部(提供:JAXA)

これまでの4機体制時と、7機体制時では何がかわるのでしょうか。衛星測位システムで正確な位置情報を得るには、最低でも4機の衛星が必要とされています。これは、4つの情報(緯度・経度・高度・時刻)を同時に取得する必要があるからです。

実は、みちびきの4機体制では、常に日本の上空にいるみちびきは1~2機でした。1機の静止衛星と、8時間毎に交代で入れ替わる、準天頂衛星の3機から構成されているためです。このため、不足する2~3機分の情報は他国のGPSなどで補っていました。

7機体制になると、常に日本の上空に4機以上のみちびきが存在することになります。上空にある衛星が多ければ多いほど測位精度は向上し、山間部や都市部でも信号が届きやすくなります。日本独自の衛星であるみちびきだけで測位が可能になるのもメリットです。

提供:JAXA

みちびきによる高精度な位置情報は、さまざまな技術開発にも利用されます。新しく投入される5号機以降の衛星には地上や衛星同士の距離を毎秒計測する「高精度測距システム」も搭載されていて、これにより位置情報をさらに正確に提供できるようになります。

提供:JAXA

たとえば、自動運転車両の開発では、最小6cmの誤差を謳うセンチメートル級の計測が可能になることで、道路上でより正確な位置を把握できるようになります。このほか、農業の自動化やドローン運用の高密度化などさまざまなシーンで活用が期待されています。

残念ながらセンチメートル級の高精度な位置情報の活用には専用の受信機が必要なため、今すぐスマートフォンなどで利用することはできません。しかし、スマートフォンなどでも位置の精度が向上する「高精度測位システム(ASNAV)」の実証も、7機体制が整った段階で行なわれる予定です。高精度測位システムでは、専用の受信機は必要なく、既存のスマートフォンで利用可能で、誤差は1m程度を目指す予定です。これは既存のGPSやみちびきの一般的な測位精度(5~10m程度)に比べて大きく向上した数字となります。

提供:JAXA

このほか、偽のGPS信号を流しドローンや自動運転機能を持つ車両の運用を妨害する「GPSスプーフィング(なりすまし)」に対抗するための「信号認証サービス」の提供や、災害時の避難情報なども、海上や山間部などを問わず広範囲に発信できるようになります。

みちびきは、2030年代を目処に11機体制での運用も検討されていて、測位の安定性と信頼性をより向上しながら、周辺諸国へのサービス展開も拡大する計画です。みちびきの運用体制が強化されることで、自動運転や、激甚化する災害への備えとして、高度な位置情報サービスを提供していくことが期待されています。

「みちびき6号機」(準天頂衛星)/H3ロケット5号機打上げライブ中継
編集部