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突然直面した介護に戸惑う マイナカードの便利と課題【ITを介護の味方にする】

筆者の母は認知症で、3年ほど前から筆者が介護しています。ただ、認知症の介護は、肉体的にも精神的にもきついので、どうにか介護の負担を軽減する方法はないかと、いろいろ試しています。

介護にあたり負担を感じるのは、普段の生活の支援や見守りはもちろん、病院や施設の申請などの書類作成や請求などの事務、自宅の生活環境の整備、自分の仕事や生活との両立など多岐にわたります。正直、筆者もかなり疲弊していますが、その中でも負担を減らせる方法はいくつかあると感じていることがあります。

そこで、介護の負担を軽減するために、これまでに試してきたことを順次紹介していこうと思います。今回は、その一つとして、マイナンバーカードの取得と活用について紹介します。

突然直面した母の介護

母の介護が始まったのは、今から3年弱前の、2022年6月です。それまでは父が母の世話を行なっていましたが、その父が突然他界し、代わりに筆者が介護をすることになりました。

以前は、炊事、掃除、洗濯をはじめ、家事全般をそつなくこなしていた母ですが、認知症発症後は徐々にできることが減っていき、私が介護を始める数年前からは父の世話がないと生活が難しい状況となっていました。実は、筆者自身、実家に帰省するのは年に1度ぐらいで、その時には母がそこまで何もできなくなっているとは感じていなかったのですが、父が突然他界し、残された母の状態をそこで把握して愕然としたのでした。

筆者は東京を拠点としてフリーランスでライターの仕事をしています。特に決まった勤め先があるわけではなく、仕事も基本的に在宅でこなしていましたが、取材で出掛けることも多く、東京にいないと仕事に支障を来す場面も少なくありません。

とはいえ、母1人では普段の生活が全くできない状況ですから、誰かが面倒を見なければいけません。というわけで、筆者が東京から実家がある香川県高松市に戻って、母の世話を行うことになりました。

それまで筆者には、認知症について特に知識があったわけではありませんから、最初は手探りでの介護がスタートとなりました。

まずはマイナンバーカードを作成

そういった中で筆者が最初に行なったのが、母のマイナンバーカードの作成です。

介護を始めたとはいっても、最初のころは、介護よりも他界した父の様々な手続きに忙殺されました。そういった中で、自分も含めて家族の戸籍や住民票などの取得が必要となりました。ただ、その当時筆者が住民票や戸籍を登録していた東京都新宿区では、マイナンバーカードとコンビニエンスストアのマルチコピー機を利用した、住民票や戸籍の取得がまだ行えませんでした。また、母の住民票を登録している香川県高松市は、2018年からマイナンバーカードを利用して住民票を取得可能でしたが、その時点では母はマイナンバーカードを作っておらず、利用できませんでした。

ということで、相続などで必要となる書類は市役所に行って交付してもらったり、郵送で交付してもらうなどして入手し、無事に手続きを行ないました。

しかし、それ以降も母に関連する手続きで住民票などを必要とする場面がいろいろと想定できました。また、母はすでに免許証を持っておらす、顔写真付きの身分証明書も見あたりませんでした。そこで、今後を見越してマイナンバーカードを作っておくことにしたのです。

認知症の母の介護を始めるにあたって、まず最初にマイナンバーカードを作成。これはPC用のオンライン申請サイトだが、実際はスマートフォンから必要な情報の入力や写真の撮影を行ない申請した

マイナンバーカードの発行手続きを行なったのは、2022年7月です。基本的に、マイナンバーカードの申請や取得は、本人が行なう必要がありますが、認知症の母にはほぼ不可能です。そこで、筆者がスマートフォンを利用してオンライン申請サイトで各種情報の入力や、スマートフォンで撮影した母の顔写真を登録するなどして申請しました。

ただ、ここまでは実際の作業は筆者が進めていますが、2022年7月時点では、マイナンバーカードの受け取りは本人が行なう必要がありました(現在は代理人による受け取りも可能)。そのため、受け取りについては、筆者が付き添って母を受け取り指定場所に連れて行き、本人確認や利用者証明用電子証明書用の4桁の暗証番号の登録もなんとか行ない、無事に母のマイナンバーカードを受け取ることができたのです。

当時はマイナンバーカードの代理人受け取りができなかったため、母を高松市役所まで連れて行き、マイナンバーカードを受け取った

母のマイナンバーカードで負担軽減。だけど……

なんとか作成できたマイナンバーカードですが、発行当初は特にこれといって使う場面がなかったのは事実です。しかしそれ以降、様々な場面でマイナンバーカードが活躍しています。

たとえば、住民票の写しの発行。母は大手保険会社の個人年金保険に加入していて、毎年年金が振り込まれていますが、その年金を受け取るには、毎年「現況届」の提出、いわゆる生存確認を行なう必要があります。

その手段はいくつかありますが、最も簡単なのが住民票の写しの提出。その場合、発行から6カ月以内の住民票の写しが必要となる場合が多く、そのために毎年住民票の写しを発行する必要があるのです。そして、母のマイナンバーカードを作成しておいたおかげで、市役所まで行かず、近くのコンビニで簡単に入手できるので、とても便利です。

母のマイナンバーカードがあることで、母の住民票の写しをコンビニのコピー機を使って簡単に発行できるのは便利

もうひとつ便利だったのが、保険証の再発行でした。

保険証をはじめ、母の重要書類のほとんどを筆者が管理しています。ただ、それでも母が書類を紛失してしまうことが何度か発生しています。そのひとつが後期高齢者医療保険証です。

現在は、マイナ保険証へと切り替わったことで後期高齢者医療保険証の発行は行なわれなくなっていますが、それまでは年に2回保険証が発行され、自宅に郵送されていました。郵送された保険証を運良く筆者が受け取れた場合には問題はないのですが、母が受け取ってしまうと、どこに置いたかわからなくなってしまうのです。

そのたびに筆者は市役所に行って保険証を再発行していましたが、その再発行の時に母のマイナンバーカードが大いに役立ったのです。

通常、本人以外が後期高齢者医療保険証の再発行を行なう場合には、窓口で委任状を提出する必要があります。しかし高松市役所の窓口では、母のマイナンバーカードを持参すれば、それで委任されたものとみなし、委任状不要で保険証の再発行が行なえました。その時には、もちろん筆者の身分証明も必要ですが、それも筆者自身のマイナンバーカードを提示するだけで大丈夫でした。

その後も、後期高齢者医療保険証や介護保険被保険者証を紛失することが何度かありましたが、いずれも市役所の窓口で母と自分のマイナンバーカードを提示するだけで再発行できました。もちろん、市役所の窓口に行く必要はありますが、それでも手間を軽減できるという意味で、とても助かりました。

そして、マイナ保険証の利用開始以降は、母の通院時にマイナ保険証を利用しています。とはいえ、母はその操作ができないので、付き添いの筆者がマイナンバーカードの読み取り機へのセットや暗証番号の入力を行なうことで資格確認しています。

このように、母のマイナンバーカードは、当初の想定以上に様々な場面で便利に利用できていて、負担軽減にかなり役立っています。そういったこともあって、現在では母のマイナンバーカードを作っていて本当に良かったと強く思っています。

本来は問題ありなマイナンバーカードの活用

現在、母のマイナンバーカードは筆者が管理しています。そして、上記のような用途に利用する場合には、パスワードの入力も含めて筆者が行なっています。

ただし、本来マイナンバーカードは本人のみが利用するもので、パスワード入力についても同様です。つまり、筆者が行なっている利用方法は、厳密に言うと問題があります。

念のため、デジタル庁に、上記のようなマイナンバーカードの利用に問題があるかどうか確認したところ、以下のような回答を得ました。

デジタル庁の回答

マイナンバーカードの管理について、ご本人の同意を得て、家族の方が行うことは可能ですが、各種手続きにおいて必要となる暗証番号は、本人確認のために重要なものであり、なりすましを防ぐ観点から、法定代理人以外の者に知らせることは適当ではありません。
なお、マイナンバーカードを健康保険証等として利用したいものの、暗証番号の設定・管理に不安がある方が安心してマイナンバーカードを利用いただけるよう、本人確認方法を顔認証又は目視に限定し、暗証番号の設定を不要とした「顔認証マイナンバーカード」の交付を行っています。また、福祉施設・支援団体の方々に向けたマイナンバーカード取得・管理マニュアルを作成・周知するなど、環境整備を進めております。

この回答からもわかるように、やはり原則として筆者のような使い方は正しくない、ということになります。デジタル庁の回答が上記の内容となるのも当然でしょう。

筆者も、この使い方に問題があることは当初から理解はしていました。とはいえ、上記のようなマイナンバーカードの使い方で、認知症の母の介護にかかる負担を軽減できることも事実です。また、法定代理人(筆者の場合には成年後見人)制度を利用するのもひとつの方法ですが、そちらはそちらでデメリットが多く、できれば利用したくない、というのが正直なところです。そのため、問題があると認識しつつも、家族のことということもあって、こういった使い方を続けています。

これは、マイナンバーカードの正しい使い方ではありませんから、これを他人にお勧めはできません。そして筆者自身も、せっかく便利に使えるマイナンバーカードという仕組みがあるのに、これは本来だめな使い方だと後ろめたさを感じながら使っていることに、一種の寂しさを感じています。

それでも、筆者のように認知症の家族の介護において、便利に利用できるのも事実です。今後、認知症患者数が増えていくことが予想されていますし、認知症患者を持つ家族に限るなど一定の条件を満たす場合にはマイナンバーカードを柔軟に活用できるような制度を実現してもらいたいと思います。

今回は、マイナンバーカードについて取り上げましたが、この他にも介護において役だっているトピックはいくつかあります。例えば、デジタルを活用した遠隔見守りや、介護に関わる交通費の軽減手段などです。それらをこれから数回にわたってお届けしようと思いますので、お付き合いいただけますと幸いです。

平澤 寿康