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オーストラリア「16歳未満SNS禁止」に効果はあるのか
2024年12月5日 08:20
オーストラリア議会は2024年11月、ソーシャルメディアの利用開始年齢を16歳以上とする法案を可決しました。対象となるプラットフォームはTikTok、Facebook、Instagram、X、Snapchatなどで、YouTubeは健康や教育関連のサービスであるとして除外されています。
プラットフォームは今後、12カ月以内に16才未満の子どもがアカウントを持つことを防ぐ手段を提供しなければならず、違反した場合はプラットフォームに最高4,950万オーストラリアドルの罰金が科せられます。子どもや保護者への罰則はありません。
オーストラリアのアルバニージ―首相は、記者会見で「SNSには子どもの安全を最優先に確保する社会的責任がある。SNS上でのいじめなどが原因で子どもを失った親たちに会ったことでこの問題を放置できないと思った」と述べたそうです。オーストラリアの世論調査の結果では、国民のおよそ77%がこの法案に賛成していると伝えられています。
オーストラリア以外の国でも子どものSNS利用規制は進んでおり、どういった方法を採っているのか、また日本国内での子どものSNS利用状況についてまとめてみました。
アメリカ、フランスのSNS規制
アメリカ・フロリダ州では2024年3月、14才未満のソーシャルメディアの利用を禁止する州法が成立。年齢で区切って一律に禁止する点において、オーストラリアと同様の厳しい措置です。
他の地域でも、保護者の同意を前提とした法律が施行されています。アメリカでは、ユタ州、アーカンソー州、オハイオ州などが子どもが保護者の同意なしにソーシャルメディアを利用禁止にする州法を制定。フランスでは、プラットフォームに対して、保護者の同意がなければ15歳未満の子どもの利用を制限するよう義務づける法律を制定しました。
SNSコンテンツへの制限も行なわれています。EUは2022年にデジタルサービス法(DSA)を施行、プラットフォームに利用者保護や有害コンテンツへの対応などを義務づけました。
プラットフォームや子ども保護団体からは反発も
オーストラリアの法律はプラットフォームに対する罰則が制定されているため、プラットフォーム側も反応せざるを得ない状況です。
ロイター通信によると、メタの広報担当者は、"オーストラリアの法律を尊重するとした一方で、このプロセスを「懸念している」とし、「証拠や若者の声をしっかりと考慮せず、法案通過を急いだ」と指摘"したとのこと。
Xを運営するイーロン・マスク氏は、「オーストラリア国民全員のインターネットへのアクセスを制御するためのバックドアの手段のようだ」と批判しています。
プラットフォーム以外からも、反発の声があります。
国連児童基金(ユニセフ)は、オーストラリアの禁止措置は子どもたちを規制が届かないオンライン上の暗部に追いやることになると警告したとのことです。
年齢により一律の規制ができたとしても、子どもは抜け道を探します。その先で起きたトラブルを、子ども達は決して口外しないでしょう。厳しい措置により発生する危険性について、プラットフォームや子ども支援団体は声を挙げているのです。
日本の問題は中学生の闇バイトやSNSいじめ
諸外国での法規制が整備されるなか、日本の現状はどうでしょうか。
日本で10代に人気のSNSは、LINE、Instagram、X、TikTokなどです。特にLINEは、9割以上の人が利用しています。
Instagram、X、TikTokの利用可能年齢は13才以上なのですが、LINEは他のSNSとは異なり、12才以上を利用推奨年齢としており、12歳未満が利用する場合は保護者の許可と設定が必要となっています。LINEはトーク(メッセージ)以外にも、匿名で交流できる「オープンチャット」、ショート動画「LINE VOOM」などがあり、小学生でもすべての機能を利用できるのです。
SNSの利用が高まるにつれ、深刻な事件も発生。山口県光市で2024年11月に起きた事件では、茨城県の男子中学生ら関東地方の少年3人が強盗予備容疑で逮捕されています。彼らはSNSなどで闇バイトに応募しています。
また、2024年2月には、大阪府門真市で中学3年生の男子がSNSの匿名書き込みやLINEグループで起きたいじめにより、命を絶ちました。
事件以外にも日常的にトラブルは起きています。2024年6月に総務省が公表した「我が国における青少年のインターネット利用に係る調査」によると、保護者回答では「使い過ぎによって学業や生活に支障が出た」(22.2%)がトップとなり、依存を心配する意見が多く集まっています。
青少年本人の回答でも「使い過ぎによって学業や生活に支障が出た」(18.2%)がトップではあるものの、「他人の投稿と自分を比べてストレスを感じた」(17.9%)、「流行に後れないように情報を追いすぎてストレスを感じた」(13.3%)というように、心への負担を感じている子どもも見られました。
また、「盗撮された写真をInstagramのストーリーズで広められた」「LINEのトークのスクリーンショットを晒すと脅された」「LINEオープンチャットで知り合った知らない男性20~30人とLINEで繋がり、卑猥な画像を送られた」などのトラブルにも遭遇しています。
SNSによるいじめは、主にスクリーンショットや画像を晒すことで行なわれます。これらに使われるプラットフォームは、LINEのグループトークやInstagramのストーリーズなど。また、SNSやゲームで知り合った人に裸の画像を送れと言われる(自画撮り被害)や、SNSでコンサートチケットなどの売買詐欺に遭う(個人間取引)なども起きています。
このように日本での現状を挙げていくと、日本でも厳しい法規制が必要に感じられるかもしれません。こども家庭庁は、「インターネットの利用を巡る青少年の保護の在り方に関する ワーキンググループ」を2024年11月25日に開催するなど、検討を開始しています。
日本でネットに関する法規制といえば、2020年に施行された「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」(ゲーム条例)を頭に浮かべる人もいるでしょう。
「ゲームは1日60分まで」などと定められた本条例は、住民から訴訟を起こされる事態となり、2022年8月に合憲として請求を棄却されています。本条例に関しては、第三者による効果の検証はされておらず、現在も香川県議会で論戦が行なわれているとのことです。
16才未満のSNS利用を禁ずる効果はあるのか
オーストラリアの法規制は一年の猶予期間が設けられているため、プラットフォームの対応などもこれから検討されます。正確な年齢確認には個人情報や生体データの取得などが必要で、その仕組みを整備するのは難しいと思われます。
Instagramはすでに利用者の年齢を認証するためのテストを行なっており、日本にも導入済み。18才未満のユーザーが18才以上に変更しようとすると、「本人確認書類のアップロード」または「セルフィー動画の録画」いずれかの方法による年齢認証を求められます。しかし、見た目が若い人もいるでしょうし、本人確認書類を持たない人もいるため、正式運用となっても解決には至らないかもしれません。
また、Instagramは2024年9月に「ティーンアカウント」を導入することを発表。ティーンアカウントとは、10代を守るための機能が設定されたアカウントです。デフォルトが非公開に設定され、メッセージを受け取れる相手や不適切なコンテンツが制限されるなどの保護機能が設定されています。日本では来年1月から利用できるようになります。
しかし、TikTokやInstagramが行なっている年齢に合わせた制限も、年齢を偽って16歳以上にしてしまえば、無効になってしまいます。TikTokはログインせずに見ることもできるため、アカウント登録をしないで利用する子どももいるでしょう。
オーストラリアの規制対象サービスではありませんが、LINEも年齢確認を実施。LINEが18才未満の青少年を保護するために、LINE IDなどの機能について年齢確認をしています。これは、そのアカウントに使用している電話番号が契約するキャリアと連携し、契約情報を参照する仕組みを採用。
しかし、契約回線が大人の名義だと、18歳未満でも年齢確認を通ってしまうため、LINE IDなどの機能を利用できてしまいます。実際に、LINE IDを交換している子ども達がいるのも現実です。プラットフォームでの認証以外に、携帯電話会社などインフラ企業との連携も必要になるのかもしれません。
いずれにしても、子どもは抜け道を見つけ出し、友人と共有します。規制対象以外のサービスで交流することは考えられますし、誰かが子ども専用をうたったプラットフォームを作ってしまうかもしれません。
また、子どもの救いの場としてSNSが役立っていることも事実です。学校や家族の悩みは、深刻であればあるほど、知り合いには打ち明けられません。SNSの向こうにいる人たちに励まされ、一日一日を頑張っている子どももたくさんいます。こうした子ども達を受け入れる場がなくなってしまうことも、心配な点です。
SNSはトレンド発信基地としても重要な役割を果たしています。新しいことが大好きな10代が生み出すカルチャーは、大人にも大きな影響を与えてきました。16才になってからでも遅くはありませんが、中学生のときに好きだったものをずっと愛している大人は多く、多感な時期に抑制されてしまうことは気の毒にも思えます。国としても、文化面での配慮が必要になるかもしれません。
ここまで、SNSの利用規制による影響を挙げましたが、個人的には法規制よりも、SNSのメリットに焦点を向け、誰もが快適に使うにはどうしたらいいのか、プラットフォームとともに方向性を考えていくことが重要だと考えます。
時間はかかるかもしれませんが、SNSでもリアルでも、コミュニケーションにおいて大切なことは同じです。大人も一緒に学びながら、家庭でのスマホルール策定や、フィルタリングの利用、教育現場での啓発を重ねていき、子ども達を守ることを望みます。
もちろん、オーストラリアの法規制も青少年保護のひとつの案です。実施されるまでの一年、そして実施後に何が起きるのか、今後に注目していきたいと思います。